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テクノロジーがもたらす音楽と社会の新しい可能性【SENSORS】

2023年8月6日 20:32
テクノロジーがもたらす音楽と社会の新しい可能性【SENSORS】

今、誰もが、テクノロジーの進化とその影響による社会の変化に向き合わなければならない。音楽業界ではどのような変革が起こっているのだろうか。それは、アーティストや音楽を愛する人々にとって好ましいものなのだろうか。

音声認識・メタバース・AIなど、最先端のテクノロジーが音楽業界や“音楽と私たちの関係性”にもたらした変革について、音楽ビジネスをけん引する3人が語り合った。

■テクノロジーは、音楽をもっと自由にする

音楽業界に革命を起こしたテクノロジーとして真っ先にあげられるのは、音声認識だ。例えばこれまでは楽曲の著作権を守るために、既存の曲と同じではないかなど、人間が1曲ずつ耳で確かめなければならなかった。しかし、技術の進歩によってオリジナル楽曲・二次創作・カバーなどをすぐに識別することができるようになった。

識別精度はすでに非常に高く、オンライン上での二次使用における権利処理が的確になされるようになった。そのため、音楽の幅がますます広がっていると、TuneCore Japan K.K. 代表取締役の野田威一郎さんは言う。

「音声認識は世の中をより自由に変えてくれました。将来もっと精密に判別できるようになれば、権利がさらに正当に処理され、もっと多くの動画クリエーターがアーティストの曲を使える時代になります」

より正しい権利処理によって、音楽もお金もさらにたくさん流通し、アーティスト同士の共創も一層進むと、野田さんは期待する。さらに野田さんが期待を寄せるのは、メタバースの浸透だ。仮想空間が日常化することで、1日=24時間という時間は変わらずとも、「現実世界」と「アバター世界」とでフィールドは2か所に増える。音楽が使われるケースや提供できる場面も増えるはずだと言う。

「アーティストにとっては、地球がもう1個できたようなものです。そこがメタバースであっても、音のない世界はないはずなので。使われるきっかけも増えて、いろんなことができるようになるんだろうなと、すごくわくわくしています」

■音楽配信プラットフォーム、次のユーザー体験

音楽配信プラットフォームにおいては、技術の進展はどのようにユーザー体験を変えていくのだろうか。

世界最大のオーディオプラットフォームとして膨大なリスナーデータとそれらを分析する解析力を保有するSpotify Japanで音楽企画推進統括を務める芦澤紀子さんは、よりパーソナライズされた幅広いファン体験の提供を目指している。例えば、特定の楽曲を聴いている人に対して、ライブチケットやグッズを販売するなど、多様な機会の創出を模索している。

「今後は音楽をリスナーに届ける場としてだけではなく、アーティストとファンのつながりを深め、より360度的な目線でアーティストのビジネスをサポートするようになっていくのかな、と思います」

Billboard JAPAN.com編集長の髙嶋直子さんは、数年前からNTTデータと共に進めている取り組みについて言及。過去のヒット曲を大量に聴かせた“仮想脳”のようなものを作り、それに対して新しい曲を聴かせることで、どのようにヒットしていくかを予測する研究だ。

「CM業界ではすでに使われている技術ですが、いかに音楽業界で活用するかに取り組んでいます。ヒットを予測できたら面白いですよね。音楽を作っている人たちからは、そんなもの簡単にできるわけないだろうって怒られてしまいそうですが、少しでもヒット予測に近いことができればなと」

■多様化していく、“共創”のかたち

音楽に限らず、近年クリエイティブの文脈で必ず議論されるのが、AI活用だ。野田さんは、AIはアーティストを補完する存在として素晴らしいテクノロジーだと捉える。

全てをAIに作らせるのではなく、自分では作れないトラックの一部をAIに作曲してもらったり、作曲者では作れないジャケット画像をAIに描いてもらったりすることで、1人で活動できる範囲が広がる。

「サポートしてくれる仲間がいればいいんですが、そうじゃない場合に自分ができないところを補完してくれるものとしてAIは素晴らしい存在だと思います。多くのアーティストが活用していく時代が、すぐそこまできている感覚があります」

髙嶋さんも、AI活用による音楽の可能性に期待している。例えば、ポール・マッカートニーさんはジョン・レノンさんが亡くなる数年前に作った未発表の曲をAIで作り直し、ビートルズ最後の曲としてリリースする予定だという。

「アーティストの権利が守られた上で、AIと新しい作品表現ができると素晴らしいですよね」

テクノロジーの進歩によって、権利を守りながら新たな創作方法にチャレンジできる機会も増えてきた。それにより、全く別のジャンルのクリエイターとアーティストのコラボレーションも増えると、野田さんは考える。さらに、新しい形でリスナーに音楽の楽しさを届ける取り組みも始めようとしている。

「音楽って、楽しみながら聴いたり、遊びながら演奏する、というのがいいところですよね。まだ公開前で詳しくは言えませんが、そういうことがオンライン上でできて、しかもきちんと一般の人にも届くようにしたいと思っています。そして、音楽だけじゃなくアニメやゲームなどあらゆるカルチャーの橋渡し的存在として、そのような環境を切り拓いていければと」

テクノロジーの進化は、オリジナルの楽曲制作の幅を広げただけではない。権利関係の明確化に大きく寄与し、もはや二次創作が歓迎される世の中へと変化を促してきた。今、私たちは、難しいことを考えずに誰もが純粋に音楽を楽しめる時代へと向かっている。それは、原点回帰しているとも言えるかもしれない。

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