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視覚障害者のアイデアから誕生、新たな『黒ひげ危機一発』 誰もが一緒に遊べるおもちゃへの思い

2023年11月18日 6:05
視覚障害者のアイデアから誕生、新たな『黒ひげ危機一発』 誰もが一緒に遊べるおもちゃへの思い
『にぎやかサウンド♪ 黒ひげ危機一発』 (c)TOMY
誕生してから約半世紀、おもちゃ『黒ひげ危機一発』の、シリーズ91作目が18日に登場。誰もが一緒に遊べるおもちゃ“共遊玩具”を目指した物作りついて、視覚障害があるメーカー担当者を取材しました。

新しく登場するのは、『にぎやかサウンド♪ 黒ひげ危機一発』。タルの穴に順番に剣を刺し、海賊の黒ひげ人形が飛び出した人が負けとなる、おなじみのパーティーゲームです。

『黒ひげ危機一発』が、ロングセラーとなっている理由について、タカラトミー・企画開発課の大金美奈子さんは、「タルがあって、穴が開いていて、人形が入っていて、剣がある。初めて見た人でも、わかるのでは」と、シンプルさをあげました。

本作の最大の特徴は、デザインの異なる4色の剣と、剣をタルに刺すたびに聞こえる様々な効果音です。実はこちらのメーカーでは、年齢や障害の有無に関わらず、誰もが一緒に遊ぶことができる“共遊玩具”の開発に取り組んでいて、この特徴は全盲の社員のアイデアから生まれたものだといいます。

■障害者も楽しさを共感できる“共遊玩具”

今回の『黒ひげ危機一発』の企画に参加したタカラトミー社会活動推進課・高橋玲子さんは、生まれたときは目の前の物の色や、形がようやく分かるほどの視力でしたが、4歳の頃に全盲になったといいます。高橋さんは、「私が小さいときには『黒ひげ危機一発』が、世の中にあったんですけど、私は『黒ひげ』が飛び出してくるのが怖くて、あまり『黒ひげ』で遊んでいなかったんです」と、振り返りました。

そんな、子供の頃の経験を生かし、高橋さんは「新しい『黒ひげ』を作りたいという話があったときに、音も入れられないかなとか、『黒ひげ』が飛び出してくるときに、あまり怖くないように飛び出したときに楽しい音がしてくれるといいなと思いました」と、提案したそうです。

高橋さんのアイデアを採用し、タルに剣を差し込むと音が出るようになった『黒ひげ危機一発』。その効果音は、どのように決めたのでしょうか? 企画開発課の大金さんは、「小さい子供が遊ぶので、動物の鳴き声はマスト、だけど大人も遊ぶかもしれない。一緒にもっと小さなきょうだいも遊ぶかもしれない。と考えたときに、全年齢の人たちが、普段の生活で身近に聞く音や、よく知っている音を絶対に入れようと決めました」と明かしました。

動物の鳴き声や、日常で聞こえる音など全部で18種類を内蔵。また、黒ひげ人形が飛び出すときには、楽しい気持ちを演出するためファンファーレにしたそうです。

さらに、タルに差し込む剣についても、高橋さんは「私は4歳ぐらいまでは色が見えていて、色というものに興味があったし、どれが何色? と見えなくなってからも知りたかった時期が長かったので、色と形が対応しているといいなと、せっかく4色の剣にするのなら、剣の形も変えたらいいな」と、提案したといいます。

高橋さんの要望に応えようと、開発担当はまず、剣の柄(つか)部分に、色に対応させた図形などのマークや、その個数で区別できるように考えたそうです。しかし、企画開発課の大金さんは「高橋さんから、“これ(マークだけ)だと、事務的なもので楽しくない。手触りも楽しい、おもちゃなんだから楽しい形にすればいいのに”と、その(柄の形状)考えがまったくなかったので、初めて気づいたことでびっくりした」ということです。

視覚障害があるからこそ気づけた物作りの原点。実際に剣の形を見てみると、赤色の剣は、カクカクした感触。青色はナミナミの形状。黄色はキラキラした突起。緑色はザラザラした手触りに。それぞれ4つの色と、4つの感触をひも付けました。

その他、高橋さんが気づいたことが「タルの溝と、剣を差し込む穴の識別が触っただけだと、分かりづらく、特に小さい子は難しいので、穴以外の溝をなくせないか相談したんですけど、タルをデザインすることは、『黒ひげ』の基本的な部分ですので、そこのデザインを崩すことは非現実的だと言われた」と、議論を重ねたといいます。

問題を解消するために行ったのは、タルの溝をなるべく浅くすること。さらに、高橋さんは「穴に剣を差し込むときに、ちょっとずれたところに剣を置いても、穴に滑り込めるように穴のそばに坂をつけてもらいました」と、細かい改良をしたそうです。

■高橋さんが目指す おもちゃ作りとは?

最後に、高橋さんにとって、“おもちゃ作りとは?”と質問すると、「あっという間にブームが去ってしまうおもちゃでも、その瞬間に(誰もが)一緒に楽しめることの意義がすごく大きいので、ひとりでも多くの子供たちが遊べるものにしていきたいと思う。もうちょっと工夫すれば(誰でも)遊べたのに、ここの工夫ができなかったから(みんなで)遊べなかったという、おもちゃを極力なくしていけたらいいなと思っています」と、“共遊玩具”の広がりを願いました。