小泉今日子ら豪華スターと共演 日本昭和ポップスブームの先駆者 韓国のNight Tempoとは
Night Tempoさんは、竹内まりやさんの楽曲『プラスティック・ラブ』のリエディットなど、シティポップ・ブームの火付け役の一人として話題となっている音楽プロデューサーです。さらに、DJとしても活躍していて、アイドルデュオ・Winkや中森明菜さんといった80年代の日本の昭和ポップスをダンス・ミュージックに再構築した楽曲を手掛けています。
■Night Tempoによって再認識される昭和の名曲 「現代でも80年代を体験できる」
渋谷でのライブには、2000年代生まれの20代の学生や、80年代ポップスがバイブルだった60代、さらには海外からのファンの姿も。幅広い年齢層ファンたちにNight Tempoさんの魅力について聞きました。
22歳の大学生は、「当時自分は生まれていなかったけど、80年代のサウンドと現代の音楽とミックスさせているところが、現代でも80年代を体験できるみたいな感じ。有名なところだと、『君は1000%』とか『フライディ・チャイナタウン』とかが好きです」と、生まれていなかった80年代の魅力を味わえるといいます。
Night Tempoさんのサイン入りTシャツでライブに来た30歳のファンは「好きになるきっかけとなった曲は、RA MUの『青山Killer物語』。EDMも好きなので、昭和歌謡とかシティポップというくくりから飛び出して、ダンスができる音楽というところも共鳴しています」と熱く語っていました。
さらに、当時楽曲を聴いていた60代のファンも「早見優さんや松本伊代さんなど、当時の名曲を拾って再生してくれるところにひかれました。当時、シティポップを聴いていた人たちに限らず、初めて聴く人たちにも幅広く聴かれていると思います」と明かしていました。
■Night Tempo 音楽のルーツ
昭和の名曲たちを、聴く人の世代を問わず愛される楽曲に再構築しているNight Tempoさんですが、出身は韓国。どのようにして日本の楽曲に親しみ、自身の音楽スタイルに取り入れることになったのか。Night Tempoさんの音楽のルーツを伺いました。
――Night Tempoさんは、どのようなきっかけで、日本の楽曲に親しむようになったんですか?
80年後半生まれなんですけど、日本の音楽はもともと幼い頃から好きで、自分が生まれた時の音楽を90年代に聴いていました。当時は、言葉も何も分からず、日本と韓国の交流があんまりなかったんですよね。その後で日本の文化が韓国に入るようになって、どの人がどういうものをやっている人なのか、もっと興味を持つようになりました。だから、日本の音楽はなじみがあるし、昔のものというより、自分の青春のタイムリーだった曲です。
――その興味を持ち始めた頃、衝撃を受けた日本の曲はどんな楽曲ですか?
日本の曲がいいなと気づいた曲は、中山美穂さんの『CATCH ME』。角松敏生さんがプロデュースしていて、自分の音楽性も、角松さんの80年代後半の音楽性にすごく影響されています。他にも、世界で活躍するダフト・パンクとかの音楽も聴いてきたので、それを融合して今いろんなものを試しています。
■日本の楽曲を“サンプリング”する難しさ
Night Tempoさんの音楽活動は、7~8年前から趣味としてスタート。別の仕事をしながらネット上にアップしていたところ、現在の音楽活動につながっていったといいます。
――既存の曲をリエディット(再編集)する時、どのような作業をされているのですか?
元のものを切って再配置するってことで新しさが生まれたり、フィルターをかけたり。いろんな仕組みで作っていて、たまにいただいたマルチトラック素材を再配置して、自分が追加で入れたいシンセサイザーを入れ込んで作っています。
――Night Tempoさんの楽曲に、日本のファンも盛り上がっていますが、どんな心境ですか?
すごく不思議だなって思っていて。もともと日本には、“サンプリング文化”に対して、昔のものに手を出すことがちょっとまずい、気まずいっていうイメージがあったので、そこを変えていくのがすごく大変でした。今では逆に、例えば小泉今日子さんから「(一緒に音楽制作を)やりませんか?」とお話をいただいて、いい時代になっていくのかなと思っています。
■日本の昭和ポップスをアメリカや韓国へ
さらに、アメリカや韓国のクラブでも、リミックスした日本の昭和ポップスで会場を盛り上げるNight Tempoさん。日本語が通じない場所でも、日本の楽曲の良さを広め続けています。
――アメリカでも話題になっている理由は何だと考えられていますか?
80年代当時の日本の音楽って、海外の音楽を早めに仕入れて自分たちのものにしたんですよね。だから、彼らとしては、なじみもあって、アジア人の誠実さも入っているから、そこからの新鮮さもあって。基本的に自分はダンス・チューンとしてエディットをしているので音に乗れるんですよね。海外では、言葉が分からなくても、面白かったらOK。そこから盛り上がるんです。
■名だたるアーティストたちとコラボするまで
Night Tempoさんは、2019年から『昭和グルーヴ・シリーズ』として、Winkや斉藤由貴さん、工藤静香さん、小泉今日子さんといったアーティストたちの名曲を、公式にリエディットしてリリースしてきました。2023年9月にリリースした最新アルバム『Neo Standard』では、ゲストに小泉さんや、渡辺満里奈さん、早見優さん、鈴木杏樹さん、中山美穂さん、野宮真貴さんらが参加し、新たな楽曲が制作されました。
――名だたるアーティストたちとのコラボはどのようにして実現したのですか?
『昭和グルーヴ・シリーズ』の時に縁を結んだ方たちと、ミーティングをしました。話してみるのはタダだから、そのときにちょっと勇気を出して、「音楽を一緒に新曲で作ってみたいです」という話をしました。意外と皆さん「やりましょう!」ってことになって、本当に約束を守ってくださったので、すごくリスペクトしています。
――今回の最新アルバムは、その約束をかなえた豪華な方々との新曲が収録されていますね?
自分が作りたい音楽を1枚のアルバムにしてみました。もともとやっていたインターネット音楽にさかのぼって自分を表現したかった。そして、自分が好きで憧れがあった方たちと組んでやってみたかったんです。
――先ほど名前が上がった小泉今日子さんをはじめとするスターたちとのコラボは、Night Tempoさんにどんな影響を与えていますか?
(『昭和グルーヴ』シリーズで、小泉今日子さん側からオファーがあったとき)正直信じていなかったんですけど、直接やりとりして、「あ、本当なんだ」と非常に盛り上がったっていうか。実際にお話をして「(距離が)離れていても、大御所でも、新人でも、外国人でも、日本人でも音楽で一つになれるんだ」と感じました。自分の人生の登場人物は多くなかったんですけど、最近は本当にたくさんの人と関わることになって、いい意味で大変です。