×

アフリカ生まれの絵本ってどんな内容? “才能を披露する場がない”イタリアから世界へ発信

2024年7月23日 6:40
アフリカ生まれの絵本ってどんな内容? “才能を披露する場がない”イタリアから世界へ発信
元アナウンサー・杉上佐智枝 アフリカ生まれの絵本を取材
元アナウンサーで2児の母、現在は『絵本専門士』として全国各地で絵本の読み聞かせなどを行っている私、日本テレビの杉上佐智枝が海外の絵本を取材。イタリア北部のボローニャで、毎年春に開催されている世界最大の児童書専門展『ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア』を訪れました。

主に児童書向けの販売に関する商談が行われるこのイベント。その一方で、国際的なイラスト賞発表の場でもあります。場内にはイラストレーターを目指す卵たちの工夫を凝らした作品が、連絡先とともに壁一面にずらりと貼られていて、名物のひとつとなっています。

ブックフェアと同時開催のボローニャ国際絵本原画展(Illustrators Exhibition)」では、81の国と地域から3520の応募があり、日本人4人を含む 78人が入選。 若手イラストレーターの登竜門でもあるといいます。

さらに、世界各国のブースも。関係者によると、韓国と中国はここ数年 国を挙げてイラストレーターの育成や絵本産業に力を入れているといい、巨大なブースを構えていました。

他にも、ブラジル、チリ、ギリシャ、ブルガリア、UAE (=アラブ首長国連邦) など、1500以上の出版社が世界約100の国と地域から参加。日本からも講談社やポプラ社など、6つの出版社が出展していました。

■困難な状況にある子どもたちにささげるパブリック・リーディング

今回のブックフェアのメインテーマのひとつが、“人権”。メイン会場では、国連からの働きかけで実現したというパブリック・リーディングが行われました。これは世界30の国と地域から、30人のアーティスト・作家・編集者たちが登壇し、一人ずつそれぞれの母語で人権宣言を読み上げていくイベントです。

ブックフェア主催のエレナ・パゾーリさんは、「国連と協力することは大切なことであると思っていましたので、世界人権宣言のパブリック・リーディングを企画しました。今日、戦争によって困難な状況にある全ての人々、特に子どもたちにささげるものです」と、開催の意図について語りました。

私がこの場に立ち会うと、イヌイットやマオリなどの言語があったり、ウクライナ語での読み上げの3人後にロシア語が読まれたりするなど、紛争関係にある国同士も絵本を通した文化融和で交流し、平和につなげたいという思いが伝わってきました。

日本語で読み上げた板橋区立美術館館長でボローニャ国際絵本原画展の審査員を務めたこともある松岡希代子さんは、「人権宣言のイベントに参加できたのはとても大切なことだったと思います。この見本市自体が巨大な多様性共存の場。それぞれの母語で読む、というのが良かったし、ボローニャだからできたことだと思います」と述べていました。

■制作、印刷、紙…全てが“メイドインアフリカ”の絵本

そしてもう1つのテーマが、“スポットライト オン アフリカ”です。『ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア』では3年前からアフリカの絵本に着目し、コミュニケーションやPRの場を設けているそうです。今年はアンゴラ、ベナン、カメルーン、トーゴ、ウガンダの5か国が、アフリカから初めて出展しました。

主催者のエレナさんは、アフリカからの出展について「彼らと対話することは、(アフリカの出版社を)スカウトすることを使命と考えている私たちにとって、大きな手助けになります。まだあまり国際的に知られていないアフリカの状況を知る手立てとなりますから。それと同時に、彼らにとっても国際舞台に立ってコミュニケーションをとっていくための有効な一助になっているのではないでしょうか」と話しました。

まず訪れたのは、カメルーンのブース。自ら手がけた絵本を持って参加していたジュリアン・ケムローさんは、自分の6歳の娘にもわかるように作ったという実在の偉人 シェイク・アンタ・ディオプを描いた絵本を紹介してくれました。

ジュリアンさん
「この男性はセネガル出身で、フランスのソルボンヌ大学で博士号をとり、歴史学者、エジプト研究者、文化人類学者、医師、科学者、言語学者でした。シェイクアンタディオプ大学というセネガル最大の大学の名前にもなっていて、“アフリカ・ルネサンスの父”と言われています」

制作、印刷、紙まで全てメイドインアフリカで生み出した絵本だといいます。

■「ウガンダの文化を世界に知ってほしい」

次に訪れたのは、ウガンダのブース。ウガンダには多くの出版社があり、絵本が好きな子どもたちも多いそうです。どんなものが人気なのでしょうか?

アッシャさん
「特に人気なのは、耳の聞こえない子どもを主人公にした作品です。生まれた時は聞こえていたけれど、だんだん聞こえなくなった。とても興味深いストーリーで、子どもたちはみんなこの話が大好きです」

この作品の作者は、ろう学校の生徒。この出版社は、子どもたちが描いた子どもたちのための本を出版しているといいます。

ブックフェアに出展した理由を聞いてみると…。

「提案してくれた子の声が 世界中に届くように。ウガンダの子、才能ある子の声が届いていない、披露する場がありません。ウガンダの子どもがこれだけ本を書けることが知られていません」

「話を作った子の多くが、生活が苦しい。この子のストーリーを売ったお金をその子に返す、それでその子が学校に行ったり、生活が良くなったりするといい。ウガンダは開発途上国だから、まずはウガンダの文化を世界に知ってほしいです。子どもたちに返したい」

【あとがき】
世界で心を痛めることが多く起こっている中で開催された、今年のボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア。公式文書の今年のトレンドの欄には、「この時代に鳴り響く警報に突き動かされて、“サステナビリティ”はかつてないほど、児童書の世界に登場してきた。視点を変え、人類を新たな平等な関係に置くこと…一緒に世界を救おうと、本は我々を誘ってくる」という文言も。紛争、人権、地球環境…私たちが直面している世界課題は、そのまま児童書の世界にも波及しています。

ボローニャ国際絵本原画展は7月2日から板橋区立美術館で開催されており、8月17日からは兵庫県の西宮市大谷記念美術館でも見ることができます。子どもたちが人生の初期に出会うアートとしての原画の美しさを味わうと共に、伝えたいメッセージについても改めて考えさせられました。

(取材・構成 杉上佐智枝)