“歌舞伎を通して社会問題を訴える” 歌舞伎俳優・中村橋吾の思い
橋吾さんが披露した演目は『平和成祈鐘(へいわになれやいのるはこのかね)』。橋吾さんが現代の社会問題に立ち向かう主人公を勤める、2020年のコロナ禍をきっかけに誕生したオリジナルの創作歌舞伎です。アートパフォーマンスとして上演し、終盤には「人を憎むな、人を愛せ」と、平和を願うメッセージを訴える内容となっています。
実際に演目を息子(1)と共に見た母(40代)に話を聞くと「子どももくぎ付けになってじっくり見ていたので、ひかれるものがあるのかなと思って、見ていてびっくりしました」と話し「日本が世界に向けて、という面で歌舞伎は目を引くと思うので、(平和を考える)きっかけとしてすごくいいんじゃないかなと思いました」と感想を語っています。
■中村橋吾「決して奇をてらっていることではなく」
ステージを終えたばかりの橋吾さんに感想を聞くと「子どもの声で“成駒屋!”って聞こえるとグッとくるんですよね」と振り返り「平和をみんなで作り上げようというステキなイベントで自分の演目がこういう形で役に立つというのは、やってきて良かったなと」と充実感をにじませました。
そして社会問題をテーマにした歌舞伎に挑戦することについては「昔からそうなんですよ。歌舞伎は時事ネタを取り入れたりして。私がやっていることは決して奇をてらっていることではなくて、昔からある文化で」と説明し「私はそれを身近にあるこれから考えなければいけない社会問題を、創作歌舞伎の一つとして取り入れていくというスタイル」と語っています。
■コロナ禍で気づいた歌舞伎の力
歌舞伎を社会に発信する活動を始めたきっかけはなんなのか、橋吾さんに聞くと「以前幼稚園でワークショップを何年かしていました。下の子たちに歌舞伎を見せたり知ってもらえる機会があったらいいねということで、歌舞伎体操というコンテンツをやる機会がありました」と回想し、「その後、小学校での全校生徒に向けたワークショップで小学1年生の女の子が僕のことを指さして“あっ知ってる!”って言って、僕が当時教えていた簡単な姿勢の作り方の体操をやってくれて。終わったあとに親御さんから、“実はこの子、幼稚園にいるときに橋吾さんのお世話になったんですよ。それからずっとこの子は体操をやってるんです”って言われて、その瞬間にすごく自分役者やっていて良かったなと思えたんです」と感銘を受けた経験を教えてくれました。
そして、「コロナ禍で舞台に立てなかったときって、はたして私たち役者という存在ってどうなんだろうってすごく悩んだところもあったんですよ。ましてや(歌舞伎は)家業じゃないですし。でもそのときに自分が役立った瞬間を感じさせてくれた(そのときの)出来事が、役者としての大きな要として残っていたことに気づいて。その確信がコロナ禍で芝居に出られなかったときに見えた一つの足跡だったんです」と、歌舞伎の力を感じたことが活動のきっかけだと語りました。
そして今後については「私の歌舞伎愛をこういった活動を通して人に伝えることによっていろんな人に愛してもらいたいです。なぜかというと自分が好きなものだから、これが一番ですね」と笑顔で語りました。