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異色の社長、“松竹”復活への軌跡 1

2018年7月23日 17:25
異色の社長、“松竹”復活への軌跡 1

キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回のゲストは、松竹株式会社社長の迫本淳一氏。経営状態が悪かった松竹の立て直しと、これまでの苦節、挫折について聞いた。


■迫本淳一氏のプロフィル

迫本氏は、1953年、東京都の出身。1976年に慶応義塾大学経済学部を卒業後、1978年に法学部を卒業。その後、不動産関連の会社に入社し37歳で司法試験に合格。法律事務所に勤務後、米国ハーバード大学ロースクールの客員研究員に。1998年、松竹株式会社に入社。2004年より代表取締役社長に就任している。迫本氏は45歳で副社長に就任して以来、経営状態が悪く赤字続きだった松竹を立て直した。


――今は歌舞伎も人気で、とてもそんな状態だったとは信じられないくらいですが立て直しの秘けつは何だったのでしょうか?

秘けつなんていうとおこがましい感じがするのですが、振り返ってみると、そのとき、そのときに社員と会社が一丸となってそのときの状況に対応できたことがよかったのかなと思います。


■苦節10年 司法試験に合格 挫折に学ぶ


――1つめのキーワードは「苦節10年 司法試験に合格 挫折に学ぶ」。迫本社長は大変ユニークな経歴で驚いたのですが、まず不動産関連の会社に就職したあと、一念発起して司法試験を目指したということですが、そのきっかけは何だったのですか。

法律には興味があったのですが、弁護士になってからビジネスの世界に行けたらと考えました。さらに世界的フィールドで活躍できるようになりたいという思いで弁護士を目指しました。


――当時、すでに結婚していたとお聞きしましたが奥様はどんな反応でしたか。

家内は基本的にはいつも応援してくれます。私は勉強に長い時間がかかったのですが一貫して応援してくれました。


――その司法試験の結果はどうだったのですか。

良いところまではいくのですが全然受かりませんでした。本格的に勉強を始めてからも論文試験が受からず、また子供が生まれたのですが、脳性まひで障害があり苦労は本当に多かったです。世界中の不幸が自分に襲いかかっているんじゃないかという感じでした。


――どのくらいの期間がかかったのですか。

本格的に勉強し始めたのが27歳で合格したのが37歳ですから10年です。


――(モニターに映っている)この写真というのは?

これは合格したときの仲間ですね。まわりのみんなは私より10歳くらい若いですね。


■就職先の事務所探しで傷ついた


――試験に合格したあと、すぐに弁護士活動に入られたのでしょうか。

司法研修所で2年、当時は修養しなくてはなりませんでした。それで就職先の事務所を探すために事務所訪問をしました。

弁護士事務所に行き様子をみて、そこの先生方と食事をするのが普通のパターンなんですが、私の年齢を見た途端に今日は食事なしでこれで終わりという感じでした。結構、傷つくんですよね。

弁護士の事務所は若い人が欲しいので、私の年齢を見るとそんな対応でした。本当に事務所の横の非常階段で足をかかえながら、いじけて、行くのやめようかなと思いながらも一生懸命、事務所訪問をしていたのが思い出としてあります。


――結局、ご縁はあったということですよね。

そうですね。当時、三井安田法律事務所というところが拾ってくれました。


■本当に働くことがうれしかった


――待望の弁護士の活動を始めてからはどうでしたか。

本当に働くことがうれしかったのでめちゃくちゃ働きましたね。大体、朝から夕方の時間までは電話と会議で終わります。

それからみんなと食事に行ったりカラオケをしたりして、そのあと戻ってきて8時か9時くらいから仕事を始めます。のってくるのが12時くらいで、そうするとやめるのがもったいないので3時、4時くらいまで働きました。

松竹に入ってからも忙しかったのですが、12時くらいに自宅に帰ると、家内に本当に人間らしくなったと褒められたくらいです。


■働き方改革 女性の一人一人が違う状況


――まさに当時はそういう時代でしたよね。いま、政府が働き方改革を推し進めていますが、それについてはどう考えていますか。

政府が働き方に関心を持つというのは素晴らしいことだと思います。どうやって良い職場にしていくかということは素晴らしいことです。全体としての競争力を損ねないようにして、健康的に働ける職場はあったほうがいいと思います。そういうバランスがこれからの課題になっていくと思います。

我々も女性社員が多いので、そういう女性社員たちの働き方もこれからは変わっていくと思います。


――女性は結婚、出産、あるいは育児、介護など色々なフェーズで選択を迫られることが多いですよね。

女性でも一人一人状況がかなり違うと思います。出産を経ても、今までと同様に働きたいという人もいれば、子どものほうに少し軸足を置きたいという人もいます。

それからご主人の理解はあるか、保育園に入れられるか、ご両親が手伝ってくれるか、ものすごく状況が違うと思います。そういう一人一人の状況に対応できるような仕組みになればいいかなと思います。


――松竹では具体的に仕組みのようなものはあるのですか。

これは女性社員に限らないのですが、フレックスタイム制を導入して、いまテレワークシステムをトライアルでやっています。モバイルワークとか在宅勤務もできるように、いま検討しているところです。