異色の社長、“松竹”復活への軌跡 4
松竹株式会社社長の迫本淳一氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。4つ目のキーワードは、「型があっての型やぶり“缶コーヒー”に学べ」。その真意とは?
■あくまで伝統は継承しつつ
――「型があっての型やぶり~」、これは能の言葉だそうですね。
そうですね、これは能の言葉が元々で、亡くなった中村勘三郎さんがよく使っていた言葉です。やはり、まず型をきちんと継承する、それなくして勝手なことをやると、それは型なしになると。で、きちっとした型をやった上で、その型を破っていくという勢いが必要なんだと、つまり伝統を継承しつつ、新しいことにも挑戦するという意味です。
――その新しいこととは、具体的にはどういったことになるんでしょう。
さきほど申し上げた「NARUTO」や「ワンピース」、新しい演目に挑戦していくことなど、裾野を広げるような努力、子どもたちにも見ていただけるようなものにチャレンジしていくという、そして新しい技術も使って、世界的にも展開していくということもしています。
■ラスベガスを驚かせた“成功体験”
――最近、ラスベガスでも歌舞伎を公演されていると思うんですが。
ええ、ラスベガスで、MGMさんと組んで、ベラージオの噴水の所で、プロジェクションマッピング…いま映像出ていますが、これ噴水の所に舞台をつくって、ああいう鯉(こい)を当時の染五郎さんと今の幸四郎さんが演じました。だいだい、ベラージオは3000人くらいのお客さんで5回公演なので、3万人を目標にしてたんですが、ベラージオ始まって以来、5回公演で10万人の方に来ていただきました。
――こういうプロジェクションマッピングとか、新しい技術もどんどん取り入れていらっしゃいますが、今後のグローバル展開に向けたカギは、どういったところにあるんでしょうか。
これはMTGさんの技術をチームラボでやってもらったんですが、こういう技術なんかを使えば、その国その国に向けてローカライズできると思うんですよ。ですから日本のものをそのままもっていくというだけではなくて、その地域に向けてローカライズしていくことがすごく重要かなと思っているんです。
――ラスベガスとかですとこういうアクションとかすごく好まれそうですよね。
そうですね、すごく喜んでいただいて良かったなと思っています。
■コカ・コーラの戦略に学ぶ
――そのローカライズというのがコンテンツ作りにも当てはまるということなんでしょうか。
そうですね、この話は最初、聞いたときはびっくりしたんですけども、自動販売機の中で一番売れてるのは「水」かと思ったら、「缶コーヒー」だと。缶コーヒーの中で一番シェアが高いのはジョージアだそうです。ジョージアはコカ・コーラですから、アメリカの会社です。アメリカって、缶コーヒーを飲む習慣がないじゃないですか、だからあれはアメリカの会社であるコカ・コーラが日本用にローカライズした商品なんです。
ですから、そういうローカライズした商品を展開できるというところに強さがあると思うので、我々も、コンテンツもローカライズできるようなものを作って、そういう人材ができるようにしたいなと思います。
――今後はよりいっそうコンテンツの時代になってきますよね。その新たな秘策というのは何か考えていますか。
新たな秘策というのは、結局、そういうコンテンツをつくるところと、展開するところで、どれだけ人材ができるようになるか、それで多少失敗しても挑戦できるような場をつくっていくということを愚直に繰り返していくということかなと、まあ、人材に尽きるというふうに思います。