農林水産物の輸出好調をけん引する意外な存在 日本のホタテが輸出額急増のワケ
2月に発表された2021年の農林水産物・食品の輸出額は、政府が目標として掲げていた「1兆円」を初めて超えました。その勢いをけん引するのは、実はホタテ。今年1月の輸出額は、なんと前年同月比83.2%の伸び!なぜ急成長しているのでしょうか?
前年比25.6%増の1兆2358億円と初めて1兆円を超えた2021年の農林水産物輸出額。2022年も1月時点の輸出額は昨年同月比3.7%増と好調を維持しています。そこに一役買っているのが、ホタテです。
実は、日本で生産される水産物で現在、世界から最も人気を集めているのがホタテ。年間の輸出額は639億4300万円で、昨年から2倍以上に増えました。今年1月に至っては、前年同月比で83.2%プラスと驚異の伸び率を見せています。 ホタテの輸出額は、いったいなぜ急増しているのでしょうか?
理由の一つは、海外での「ホタテ需要の高まり」です。
JETRO・日本貿易振興機構の農林水産・食品市場開拓課の安東利華さんによると、日本のホタテの最大輸出国である中国では、もともと乾燥させたホタテの貝柱をダシとして使う文化があり、多く食べられてきたそう。コロナ禍で一時その消費が落ち込んだものの、去年からは経済活動の活発化とともに、需要が高まっていると言います。
また、干したホタテだけでなく、中国国内での飲食店では「身が大きく質が良い」日本のホタテの人気が高まるばかり。外食産業が回復する中、旅行する代わりに日本の味を食べたいという客のニーズが大きくなっているそう。
その状況は、中国に次ぐホタテの輸出相手国であるアメリカでも同様です。加えて、アメリカ国内でホタテの漁獲量に制限がかけられたことから、輸入量が増え、ホタテの単価上昇にもつながったとのことです。
海外でのホタテ需要の高まり。実は日本側のプロモーション努力もあってのことなのです。
日本産の農林水産物・食品のブランディングのために海外の消費者向けプロモーションを担う組織としてJETRO・日本貿易振興機構内に設立された「日本食品海外プロモーションセンター」では去年、香港と台湾で日本産ホタテやブリ、タイの消費拡大を狙う大規模なキャンペーンを行いました。
コロナ禍で委縮しがちな社会情勢にあっても活発な経済活動をみせる“春節”に向けたもので、地元の人気料理家を起用してレシピ開発やテレビ出演を行ったり、協力飲食店をインフルエンサーが訪問し日本産のホタテやブリを使ったメニューを味わう様子を動画配信するなどの情報発信を行いました。その結果、ホタテフライなど地元ではもともと知られていなかった食べ方も広まったのです。プロモーションに携わった渡邉彩子さんは、「日本産ホタテの人気を高めることに貢献した実感があった」とその手応えを語りました。
こうした需要の高まりに、日本国内での生産量の増加がこたえることで、輸出額の急増につながったと考えられています。
そしてもう一つ、加工や輸送技術の向上もホタテ人気を支える重要な要素です。そもそも味や大きさ、品質の面で高い評価を得ている日本のホタテですが、その品質を保ったまま輸出できるようになったことで、よりその価値を高めているのです。
他国でとれるホタテは水揚げされた後、陸上でそのまま保管されるケースが多い一方、日本のように水揚げされてすぐ冷凍加工する方法はより鮮度が高いという強みがあります。
さらに、近年は瞬間的に冷凍する技術の発達によって生のホタテとほぼ変わらない味を保てるようになったうえ、なんと、生きたまま空輸で海外へ運ぶことから「空を泳ぐホタテ」と呼ばれる商品まで登場。高い人気を呼んでいるんです。
「空を泳ぐホタテ」の正体は、岩手県釜石市のふるさと納税返礼品としても人気の、自然に近い状態で大事に養殖された高級ホタテ。中でも、大きく肉厚なものだけを厳選し、海水に浸かった状態で航空機に積み込み、出荷します。
お得意先は香港の中華料理店やタイの寿司・日本食店で、値段は冷凍で運ばれるホタテの2.5倍以上!それでも「値段に見合う鮮度・味だ」と継続的に購入する顧客が多いと言います。「空を泳いで」やってきたホタテは生きたまま届くので、香港の中華料理店では店舗のいけすで泳がせておき、客の前で調理する演出が評判になっている店もあるそう。
日本食品海外プロモーションセンターによると、日本産ホタテが世界各地から求められる状況は今後もしばらくは続くとみられており、「日本産ホタテ」の価値をさらに広めていくことで、値を落とさず輸出額を増やしていく方針です。センターの渡邉さんは、「ゆくゆくは、サーモンやマグロのように『生でおいしい水産物といったら日本のホタテ!』と海外の方にもすぐに思い浮かべてもらえるような存在にしていきたい」と夢をふくらませています。