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【解説】相次ぐ“自動車不正”…制度そのものにも疑問の声 浮き彫りになった2つの《課題》

2024年6月8日 8:02
【解説】相次ぐ“自動車不正”…制度そのものにも疑問の声 浮き彫りになった2つの《課題》
記者会見で認証不正発覚について説明するトヨタ自動車の豊田章男会長(3日)

自動車などの量産に必要な「型式指定」の申請をめぐり、新たにトヨタ自動車など5社での不正が発覚した問題。国交省による立ち入り検査も進む中、多くの企業が関わる自動車業界なだけに、日本経済への影響も懸念されている。

しかし、ある政府関係者が、制度の「仕組み自体を問題視する声も出てくる」と話すなど、認証制度そのもののあり方にも疑問の声が上がる事態に。

“不正問題”だけでは片づけられない今回の事案が浮き彫りにした2つの《課題》とは。

■課題(1)“実態に合っていない!?”国の認証制度

国交省の発表によると、例えば業界最大手のトヨタでは、歩行者と車が衝突した際、歩行者の被害をどの程度軽減できるかをはかる試験で、虚偽のデータを提出するなどしていたという。

しかし、国交省が「虚偽」と表現したこのデータは、トヨタが自社で行った「開発試験データ」であった。さらに、トヨタによると、この「開発試験」は、国の認証試験より厳しい条件で行われたものだったという。そのため、トヨタの豊田章男会長は、「安全性に問題はない」と説明した。

ただ、試験は本来、法律で定められた条件で実施する必要がある。そのため、たとえ国の認証試験より厳しい条件で行われていたとしても、これらは「不正行為」である。豊田会長も、「不正といえば不正。認証の部分でやってはいけないことをやってしまった」と歯切れが悪かった。

■“国の認証試験よりも厳しい試験”で“不正”の違和感

今回、不正が発覚したのは、トヨタのほかに、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの合わせて5社にのぼった。不正の事例も様々だが、5社とも、国交省に対し「安全性に問題はない」と報告している。

こうしたことから、ある政府関係者は、「ここまで大規模だと、不正をロクにチェックしてこなかった旧来の仕組み自体を問題視する人も出てくる」と話し、認証制度のあり方自体に疑問を投げかけた。

不正が発覚した5社のメーカーのうちのある関係者も、「不正が発覚したタイミングで言う話でもないが、国交省の認証はわかりにくい」「実態に合っていないルールだ」などと、認証制度そのものに疑問を呈した。

その一方で国交省は、現在の認証制度は国連などの基準に適合していることなどから、制度に問題があるとの声について、「我々としては疑問に感じる」と述べている。

しかし、「今の実態を踏まえ、何をすべきか議論を進める」とも説明し、国交省の有識者会議で、今後も不正を未然に防止する対策などについて検討していく考えだ。

■課題(2)“「認証のプロ」が官民で不足!?”日本全体の人手不足

相次ぐ“自動車不正”は、日本が直面する「人手不足」の課題も浮き彫りにした。

例えばトヨタの会見では、豊田会長自身も「認証制度をよく理解できていなかった」とした上で、認証の「全ての工程を理解した人がおらず、属人的な技能に頼っている部分もある」と説明した。トヨタほどの大企業ですら、認証に関わる専門知識を持つ人材が不足している側面も露呈した。

しかし、人手不足についていえば、認証を担う側である官庁の人員不足も課題である。ある政府関係者は、「不正を見抜くための十分な数の公務員を確保できていない」と指摘した。

さらに別の政府関係者も、「最近、役人の数が足りず、大変な現場が増えている印象。これにより世の中に悪影響が生じているとしたら良くない」と話し、公務員全体の人手不足が与える様々な影響に懸念を示した。

■競争激化の自動車市場…今後も世界で“日本車が勝つ”ために

相次ぐ“自動車不正”が突き付けた、2つの《課題》。豊田会長は、「トヨタは完璧な会社ではない。間違いがあったときに立ち止まり直していく」と強調したが、大前提として、法律から逸脱した行為は、どんな理由であろうと、処罰の対象である。

日本車はこれまで、「安全で安心」だとして、その「技術力」が高く評価されてきた。

既に、EV(=電気自動車)開発などで国際的な競争が激しさを増している中、今後も「安全な技術力」で世界に勝ち続けるためには、今回の問題をきっかけに、不正を生じさせないための認証制度はどのような仕組みであるべきか、さらには認証に関する専門的知識を持つ人材をどのように確保していくかなどの議論が求められる。