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【解説】備えあれば憂い無し 緊急時の携帯ローミング実現は? どこまでできる?

2022年8月19日 17:01
【解説】備えあれば憂い無し 緊急時の携帯ローミング実現は? どこまでできる?

通信障害が起きた時でも他の会社の回線に切り替わり、携帯電話を使えるようにする「ローミング」。検討が進む中、実現できるのか?携帯大手各社はどう考えているのか?経済部で通信企業を担当する岩永記者が解説します。

■KDDI通信障害は過去最大規模

7月2日におきたKDDIの大規模な通信障害。電話やメールだけでなく、インターネットもつながらなかったためスマホ決済やコンサートのeチケットが開けないなど、様々な混乱が各地で起きました。スマートフォンを活用するフードデリバリーの配達員の中には、その日はまったく配達ができなかった人も。

また、110番・119番など緊急通報もできなかったため深刻な問題となったという人もいます。

今回のKDDIの障害は61時間以上にわたって、のべ3000万人以上が影響を受けました。いまや携帯電話は生活に欠かせないもの。長時間の障害は本当に困ります。

仮に自分の契約している通信会社で障害がおきたとしても、他の会社の回線に切り替わり、自分の携帯電話をそのまま使うことができれば助かります。そのような仕組みを「ローミング」と言います。このローミングについて、今、通信各社が、実現に向けた検討を加速させています。

■ローミング実現できる?

実は以前にも、東日本大震災の教訓から同じように検討が行われました。しかし、当時使われていた通信規格の3Gでは会社によって通信方式が異なっていたことが壁となり、緊急時のローミングの実現はかないませんでした。

一方、現在の4Gの通信規格は携帯各社で通信方式が統一されていて、技術的には可能となっています。そして、何より携帯電話回線はインフラとしての重要度が3G時代よりも増しているため、必ず実現しなければというムードが高まっています。

■各社や国はどう考えている?

ドコモをグループの傘下に持つNTT島田社長は「できるだけ早く実現できるように協力していきたい」、KDDIの高橋社長も「積極的に実現したい」、ソフトバンクの宮川社長は「本気で考える時期にきた」とそれぞれ話しており、各社の本気度がうかがえます。

一方、国も動き出しています。総務省が9月にも、関係がある企業・団体を集めて「事業者間ローミング等に関する検討会」を立ち上げる予定です。寺田総務大臣も「年内に基本的な方向性を整理したい」としています。

■どこまでローミングするの?

この“基本的な方向性”とは「どこまでローミングをできるようにするのか」ということです。

通話だけを使えるようにするのか、メールも必要か、インターネットも使えるようにするのか?いろいろな選択肢の中から方向性を決めることになります。利用者からすると全部のサービスが使えたほうがいいのは間違いありませんが、そう簡単にはいかないようです。

■ローミングによって回線がパンクしてしまう?

ドコモ、KDDI、ソフトバンクはそれぞれ数千万人のユーザーを抱えています。例えば、KDDIのユーザーが“4000万人”程度いると仮定して、7月と同じように通信障害がおきたとします。

ドコモと、ソフトバンクにローミングでそれぞれ2000万人ずつのKDDIユーザーの通信が流れていったとした場合…

大量の通信が流れた先であるドコモ、ソフトバンクの回線もパンクしてしまいます。どこの会社も自社のネットワークの規模を契約数に合わせたサイズで作っているため、外部からたくさんの通信が入ってくることは想定して設計されていないのです。

通信障害が連鎖してしまう恐れもあります。つまり障害が起きた時に、その代わりとなる受け皿として他の通信会社がすべて請け負うことはできないのです。そのためローミングで使えるサービスを限定しなければいけません。

■現実的なのは緊急通報だけ?

そこでローミングできるサービスをどこまでに限定するのかということが議論になります。議論はこれからですが、今実現する可能性が高いのは110番・119番といった緊急通報だけのローミングです。

NTT島田明社長も「なるべく早く実現するようなことで対応していくのがいいのではないか」「(ローミング範囲が)広がれば広がるほど、議論は長引いてしまう」と話し、ローミング実現のスピードを重視し、緊急通報に限ったローミングの議論からスタートすべきとしています。

一方で緊急時だからこそネットも使えたほうがいいのではという考えもあります。

ソフトバンクの宮川潤一社長は「110番・119番の通話の確保だけで世の中のパニックが収まるのかと考えると、残念ながらあまり機能しない」と話し、緊急通報のローミングだけでは不十分では…という考えを示しています。

さらに「電話とメールとウェブで何が起こっているのかを見られるくらい」を「最低限の通信」としてローミングできるよう「検討していきたい」とも述べています。

■回線をあらかじめ貸し借りしておくアイデア

しかし、インターネットやメールまでローミングできる範囲を広げると、通信が流れた先がパンクしてしまう恐れがあります。

そこで宮川社長はこんなアイデアもあげています。

障害がおきていない時から、あらかじめ一定量の回線をお互いに貸し借りして持っておき、障害がおきたときに、その回線を使って対応するというアイデアです。これなら障害がおきても他の会社への負担が大きくならずに済むことになります。最低限のネットサービスなら使えるかもしれません。宮川社長はこの案を今後の各社の議論で提案していくとしています。

通信は命を守るためのものでもあります。障害が発生しても混乱がないようにする議論を進めてもらいたいと思います。

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