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【解説】「YCCは植田総裁もできれば早いうちにやめたい?」日銀政策決定会合の内容を経済部の宮島香澄解説委員が解説

2023年7月29日 18:43
【解説】「YCCは植田総裁もできれば早いうちにやめたい?」日銀政策決定会合の内容を経済部の宮島香澄解説委員が解説
日本銀行が金融政策決定会合で一定の金利上昇を容認する決定をしました。決定会合後の植田総裁の記者会見について、経済部の宮島香澄解説委員が今回の会見のポイントを説明しながら、詳しく解説します。

■日本銀行が金融政策決定会合で一定の金利上昇を容認する決定

Q.植田総裁の下での金融政策決定会合も3回目となりました植田日銀がついに動き出したと言うことなんでしょうか

経済部・宮島解説委員
「かなり緊張感がある難しい会見でした。最後のほうにもっと質問受けるべきじゃないかと言うような記者の声もあったんですけれども、ちょっと、政策コミニケーションをしっかりやるという植田総裁の気持ちからすると、記者と会話がうまくいくのか心配になるような状況があったと思います」

「実際に政策が難しいと言うこともあるんですけれどもちょっと私から見ても納得がいかないようなところもありました」

■植田総裁会見のポイント

経済部・宮島解説委員
「こちらが今回の会見のポイントです。まず今の金融政策をどうするかということに関しましては、大規模な金融緩和を維持すると決めました。一方で、その運用の形で、今よりも金利が上がることを容認すると言うことを、運用で金利上昇があってもいいということを決めました」

「この意味としては、今までちょっきり長期金利が0.5%まで上がるとそれ以上にはいかないよう、押さえ込もうとしていたんですけれども、今後はそれを押さえ込もうとしないと決めたんです。」

「本当に金利が1%まで行ったら押さえ込むぞっていう話なんですけれども、このあたりの考え方を中心に会見では記者からたくさん質問が出ていました」

「何のためかというと、リスクに機動的に対応すると。特に物価が上がっている状況の中で、本来のこの政策の効果と副作用が強く出てしまう可能性が今後はあるので、それに対応すると、事前に手当てしたのだと言っています」

「金利が1%まで行っちゃうとオペレーションするというのですが、さすがに今の金利ですぐに1%に行くということは考えていないと言っています。」

「1%行かないんですけれども、今日も0.5を%超えましたが、0.6%はいいのかな、0.8%はどうなんだろうということで、非常に判断が難しいし、市場がどう考えたらいいのかちょっと分からなくなる内容でした」

「一方で、物価の見通しは、今年度のこれまでの見通しを上げました。今年度の物価見通しは+2.5%。一方で、2%行くかもしれないと言う想定もあった来年度に関しては、1.9%です。つまり、今、足もとの物価は結構上がっている。思った以上に上がっているんだけれども、ここから先はどうかと言うと、2%行かないんではないかというのが今の見通しです。」

「その結果、物価の安定目標、安定的に2%に行くという目指している状況には『距離がある』と総裁は話しました」

「あと、金融政策をする上でアメリカの状況は非常に重要になるんですけれども、そのアメリカがソフトランディングの可能性が高まったという言い方をしました。つまり、今もなお心配があるけれども、意外と堅調でうまくソフトランディングできるのではないかという見方でした。」

「また、今こういう風にいろいろな手当てをしなくちゃいけないのは、物価見通しやいろいろな状況を日銀の予想に織り込めてないんじゃないかと言う質問に対して、今の状況は織り込めてないと、いろいろなリスクがあるので今回の手当てをしたということが今回の総裁の説明です」

■日銀の意図と為替・株式市場

経済部・宮島解説委員
「けれども、これはなかなか難しかったです。運用を柔軟化したといったわけですが、会見で総裁が『修正』だとおっしゃいました。そもそもその意図が、もっとわかるかなと思ったんですけれども、思ったほどにはすっきりしなかったという感じがしています。これまで総裁が目指してきたコミュニケーションと比べてどうなのかなと思ったんですけれども、それもあって今日は朝から為替も相当大きく動きました」

「平均株価はいったん800円以上も昨日の終値から下がりました。為替も、いったん140円まで行ってからまた139円ちょっとに行きました。その意味するところは今回の日銀の政策決定をどういう風に受け止めたらいいのか市場が消化しきれてないということだと思うんです」

「金利が0.5%より上となるとどこまでいいかというのを試すことになりますが、そもそも金利がどこまで上がっていいのか、今の金融政策を変えるつもりがあるのか、どの段階で変えるつもりがあるのか。そういったことに様々な?が出てきてしまって、市場が動揺する状況かと思います」

■長期金利上昇を容認した理由

経済部・宮島解説委員
「もともとこのイールドカーブコントロールは異例の措置だと言われていました。植田総裁も就任会見の時に言いました。世の中の人たちも普通の政策ではないと思っていて、植田さんもできれば早いうちにやめたいと思ってるんじゃないかと私は思います」

「ただ、副作用や景気や様々なバランスがは非常に難しい。そんな中で急速な物価高があり、これに対してどういう風にするかなど対応で意見が割れていたと思います。今、目標とするのは、政策を続ける中で賃金上昇と景気の好循環がちゃんとうまく回って、安定的な物価目標を達成するということが大事なんですけれども、その中で副作用を減らすにはどうしたらいいか、この先もアメリカの景気も含めてどうなるか、どう対処したらいいかということを相当な議論をしての結果だと思います」

「6月の決定会合の時は、近く総選挙があるかもしれないと言われていたので相当政策を動かしにくかったと思うんですけども、今回は一旦総選挙の予測が秋以降となったことで、今金利を上げてほしいと思う関係者の人たちは今回あげて欲しいという気持ちは強かったです」

「市場も催促をするような部分もあったと思っています。あのそれで6月の前回に比べると何か動かすと言うところではやりやすかったかと思います」

■日本経済の状況・関係者の共通認識と違い

経済部・宮島解説委員
「中でも意見が分かれていたということですが、そのバランス、間をとったということなんですかね、非常に難しい局面です」

「みんな前提は実はそんなに違っていなくて共通認識としてこの長短金利操作は異例の政策であるということは、みんな思っているわけです。それから今の日本の状況で物価高、円安で国民生活への打撃は避けたい。それに対してもしっかり対処するべきだと思っている。それからアメリカの景気の心配。堅調だと言ったものの、来年以降どうなるか。アメリカの景気がとても悪くなると日本は大抵景気が悪くなりますので、今金利を上げてしまうことが、その先日本の経済に悪影響を与えることがないかということを非常に心配しています」

「その中で今はあげたほうがいいのかそれとも上げたらやっぱり来年まずいのか、そういった議論の中で今日の結論。ほんとに受け止めが難しいんですけれども、何もやらないわけにはいかない、でもあの明確な変化とまでには言いたくない、そんな感想を持ちました」

「植田総裁は今のこの政策を変えるんだったら撤廃まで早く行きたいのではないかと思っていました。それはやはり相当経済がしっかりしないと撤廃ができないのでだから、植田さんは慎重に思っているのだなぁと理解していたんですけれども。ちょっときょうのところで微修正をはかり、この幅が0.5と1%これどう考えていったらいいのかわからないメッセージでした」

■記者や市場とのコミュニケーションは

経済部・宮島解説委員
「事実上の政策修正ということになると思うんですけれども、記者とのやりとりもかなり厳しかったので、市場とのコミュニケーションはかなり難しかったなと思います」

「会合の前に日銀の幹部の発言で思いっきり円高になり、その後総裁の国際会議での会見でまた円安に戻ったりと、受け止めが難しかったんですけれども、きょう結論が出ると思ってたんですが、意外と難しかったと思います」

■植田総裁「時間軸効果」が重要

経済部・宮島解説委員
「ひとつ思うのは日銀総裁と市場との間で意識しているポイントが違うんじゃないかと。つまり、植田さんは時間軸効果、少し長い時間で考えることが大事だと会見でも言っていました」

「つまり、金融政策は、ただ今の状況だけを見てやるものじゃなくて、金融を引き締めた場合も半年から1年半後に効いてくるので、その時の日本の経済の状況はどうなのか世界がどうなのかを考える、先の予測が非常に重要だと言っていたんですね。一方で、市場の人たちはどちらかと言うと、たった今の指標に影響されるというところもあります。ですから、植田さんが時間軸で見ているところが充分理解されてないところもあるのかなと思っていました。銀行関係者ですとか、早く政策修正をしてほしいという期待はありますのでそういった思惑、それか相場が硬直してることへの思惑、そういったものがあります。コミュニケーションが難しいなと思っていましたが、きょうもっと難しくなったなと、これから丸一日ぐらい市場がどう受け止めるか見たいと思います」

■アメリカ経済の先行きと影響

経済部・宮島解説委員
「もう一つアメリカの状況、植田さんはアメリカに関して非常に慎重な見方を持っていたと思います。いろいろパイプもある方なのでいろいろな方と連絡をとって、状況を調べていたといいます。26日にはアメリカのパウエルFRB議長が、ご自身の意見ではなくFRBのスタッフの経済の見通しを紹介したものなんですけれども『今年後半からの成長鈍化が目立つが、もはや景気後退はない』と言う見方があることを紹介しました。つまり植田さん自身もずっとアメリカのこの先というのはかなり金融政策をする上で意識してきて、26日にこういう発言が出ましたので意外といいのかなそこは気にしすぎる必要がないのかなと思った可能性もあります」

「これも含めて来年以降これからどうするのかマイナス金利の撤廃もテーマとなってきますので、まずは9月の政策決定会合でこの先日銀がどういう方向に向かうのかということが示される可能性もあると思います」

(2023年7月28日 日テレNEWS24より)