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【解説】黒田総裁の後任人事 次期総裁は誰? 政策はどう変わる?

2022年9月1日 5:00
【解説】黒田総裁の後任人事 次期総裁は誰? 政策はどう変わる?

アベノミクスによるデフレ脱却の大方針のもと2013年3月に就任した日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が来年4月8日に任期満了を迎えることになっています。次の総裁は誰になるのか。今後の金融政策の課題について日本テレビ報道局 経済部の広芝学記者が解説します。

■総裁人事 注目のワケ

日銀総裁の任期は5年間ですが再任が可能で黒田総裁は、2018年に再任され、現在までに9年5か月と歴代最長の在任期間となっています。アベノミクスを進めていた安倍政権が長期政権だったことが大きく影響したからです。

来年4月、10年ぶりに総裁が代わるのではということで市場で注目されています。日銀の総裁といえば日本の経済や金融市場に大きな影響をあたえる人物のひとりと言われています。さらに、現在の物価の高騰も日銀総裁の人事に注目が集まるきっかけとなっています。

黒田総裁は今年6月、講演の中で、「家計が値上げを受け入れている」と発言しました。この時期は、ウクライナ情勢を背景とした資源価格の高騰や、急速に進む円安などで食品を中心に値上げラッシュが進んでいて、この発言が切り取られ波紋を呼びました。

日銀は「物価の番人」といわれるように、物価の安定を図ることが大きな、役割の一つです。日本は、多くを輸入に頼るため、このところの急激な円安による物価の高騰をうけて、日銀の金融政策に対する関心が高まっているのです。

世界中で記録的な物価高が進む中、アメリカ、ヨーロッパの中央銀行は、物価高を抑えようと相次いで『利上げ』に踏み切っています。一方、日銀はというと、金利を低く抑える世界から見れば異常とも言える大規模な金融緩和を今も続けています。

総裁の交代で「正常化」に向かえば利上げもありうるのでは、との見方もあり関心が高まっています。

■日銀総裁どう決まる?

日銀の総裁人事を最終的に判断するのは岸田総理大臣です。具体的には政府が来年の通常国会へ人事案を提示して、それが国会で同意されると正式に決定する形です。

これまで多くは日銀出身者と財務省の出身者がなっています。市場では次は日銀出身者で特に副総裁経験者の可能性が高いのではと言われています。

■次期総裁 求められる資質

いまの大規模な金融緩和策をどうしていくか焦点となる中、どういった人が次の総裁に求められているか。

過去に黒田総裁のもとでも日銀の審議委員を務めていた野村総研の木内 登英(きうちたかひで)エグゼクティブ・エコノミストに話を聞きました。

「まずは、金融政策の正常化を円滑にやっていくことが一番重要だと思います。黒田総裁は『正常化という考えはない』というように思います」

「しかし、もうこれだけ金融緩和を続けても成果もないですし、最近は日本銀行の政策が硬直的なことで、円安が進んで批判も浴びているということを考えると、日本銀行の事務方は、正常化という選択肢を視野に入れているのではないかと思います」

「ただ、金融市場に大きな混乱を及ぼさないように、うまくやってほしいと思います。日銀出身者の人の方が金融市場を混乱させないよう調整することが上手くできるっていうことなんですね。」

木内氏によると次の日銀総裁に求められる資質は2つ。

①金融政策を正常化に向けて戦略が出来る人
②金融市場が混乱しないように調整が出来る人

■2人の候補 副総裁を経験

日銀の後任人事については内閣改造後にも本格化するのではとみられていました。

関係者の話では官邸は近く、日銀総裁候補へのヒアリングやインタビューなど行うことを考えていたのですが、しかし、いわゆる“統一教会”問題の深刻化で、「今はそれどころではなくなっている」との話もきこえてきました。

一方でエコノミストの間では雨宮正佳(あまみやまさよし)日銀副総裁と中曽 宏(なかそひろし)日銀元副総裁の二人の名前が候補として挙がっています。

雨宮正佳氏は日本国内の政策通として知られている人です。

アベノミクス政策のもとでコロナ対応でも前代未聞の国債購入の上限を撤廃する政策を打ち出した人だと言われています。また国内の政財界にもパイプがあると言われています。

一方で中曽宏氏は国際派で知られている人物です。アベノミクス時代の2013年から2018年まで日本銀行で副総裁を務めていました。リーマンショック後の世界的な金融危機への対応など国際金融界での知名度は抜群と言われています。

候補に挙がっている二人について木内氏は、「金融政策をずっとやってきた雨宮さんはいまの大規模緩和策の正常化をうまく進められるのではという点で期待する声が高まる可能性がある。一方で、アメリカの景気が後退するなど金融市場が不安定になれば国際派で海外とうまくコミュニケーションをとれる中曽さんを選ぶ可能性が出てくるのではないか」と話しています。

仮にこの二人のうちいずれかが日銀総裁に選ばれた場合、今後の金融政策に違いは出るのでしょうか――

経済学者で金融政策に詳しい、帝京大学の宿輪純一教授は「どちらが総裁になったとしても現在の日本の物価の水準だと金融政策に関しては違いが出てこないだろう。いまの日本の状況では出来ることは限られている。いきなり利上げをすることは考えられない。どちらがなっても政策自体は大きく変わらないのでは」と話しています。

財務省の元幹部からは「黒田総裁は、このまま政策を変えずに、突っ走る。こういう頑迷なひとより柔軟な対応が出来る雨宮さんがいいんじゃないか」という声があります。

一方で、ある市場関係者は「黒田総裁と距離がある中曽さんの方が色々と変えることが出来るのでは」と話しています。

■官邸・霞が関の動きは?

日銀後任人事について官邸の目立った動きはありませんが、関係者によりますと水面下では様々な思惑があるといいます。

安倍政権の前まで、日銀総裁は事実上、財務省と日銀の意向で決まってきたのですが、今、財務省とその周辺からは「雨宮さんを総裁にし、初の女性副総裁などの組み合わせを推している」という声があがっています。

その一方で、「中曽さんを総裁にして年次的にもバランスの取れた組み合わせの人事がいい」という声なども出ているということです。

日銀総裁の後任人事には総理の周辺や官僚の動きによって左右される部分もありますが日本経済の事を真剣に考えてくれる敏腕が期待されています。