×

財界トップら唱えるDX コロナに効くのか

2021年1月3日 15:46
財界トップら唱えるDX コロナに効くのか

■「DX、遅れているのは政府だけ」(経団連・中西会長)

「“日本は遅れている”というのは政府だけであって、ちゃんとした企業はしっかりやっています。大丈夫です」。これは「デジタル化における日本の遅れ」について問われた経団連・中西宏明会長の発言である。意図は政府批判ではなく、企業のデジタル化への取り組みは深化し、広がっているということを力説した勢いで出たものだ。

中西会長は「DX(デジタルトランスフォーメーション)が日本の競争力強化の意味で一番大事」「単純に効率を上げて安く良いものをつくれば売れる時代ではない」という。

肝はデータとデジタルの活用で「新しい価値を客(取引先やその先にいる消費者)と一緒につくっていく」ことだ。「新しい価値をつくる」というと抽象的だが、デジタルの進展で消費者の多様なニーズにこたえることが可能となり、急速に様々な新規事業が生まれている。

たとえば、「所有」しなくても「シェア」することが容易になったことで、車でもカーシェアが広がった。カーシェアを容易にするアプリができた。月単位や年単位で車を借りることができるサブスクリプションができた。

このように、デジタル化の進展は車だけでなく、あらゆる分野で新たなサービスや製品の新機能の創出につながっている。消費者としての個人の欲求にこたえるだけでなく、医療、教育、行政、金融、物流の分野でデジタルを活用して、質を向上したり課題を解決したりしていくことが日本の成長につながる、というのが「中西経団連」の主張だ。

中西会長曰く「商売の実感からいうと、DXに関して各社相当手を打っている」。「“客の客”と一緒に次の価値をどうやってつくるのかにビジネスのターゲットが行っている」という。

つまり、中西会長の母体の日立製作所の状況を見ても、取引先にとどまらず、その先にいる企業とまでDXを活用して新しいサービスや、技術、製品など「新たな価値」をつくり出そうという動きが活発になっているというのだ。

キーワードとなっている「新たな価値づくり」。その「新たな価値」を生み出す原動力はどこにあるのか。中西会長は「重要なのはダイバーシティ(多様性)」だという。同一感覚の中で同じような育ち方をしてきた人たちが議論をしていると、客と一緒に新たな価値をつくり上げていこうという風にならないという。

■「トップは四の五の言わずにダイバーシティをつくり出す」(経済同友会・櫻田代表幹事)

奇しくも、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事が年頭会見で重要性を強調したのも「ダイバーシティ」だ。櫻田代表幹事が常日頃から繰り返し「イノベーションはダイバーシティから生まれる」との考えを披露してきた。「ジェンダーだけでなく、国籍、年齢、文化的背景などのダイバーシティがある中で、侃々諤々(かんかんがくがく)議論することでイノベーションが生み出される」「組織のトップは四の五の言わずに、まずダイバーシティの状況をつくり出すことだ」と主張する。

経済同友会は2021年を「イノベーションによって経済社会を再設計する年」と位置づけた。牽引役の一つは、やはり「デジタル」だ。日本は国民皆保険で医療、介護のリアルデータが豊富にあるなど、ヘルスケア、介護、製造業の領域で強みを出せるとし、これらの分野で世界最先端の事業モデルの確立を目指すべきとしている。

“イノベーションの牽引役は民間企業。経営者は勇気を持って将来の成長分野に投資をしていくこと、そして目標達成の阻害要因となっている規制を壊していくこと”、と呼びかけた。

一方「政府の最大の役割は、ビジネスの進化を妨げないこと」とした。「デジタル化などによる変革があらゆる業種や業界に及べば、従来の産業構造の枠には収まらないビジネスやサービスが生み出される。これを前提に規制を見直さなければならない」と指摘する。

■「現在の状況を変えて生き延びたいという企業がたくさんいる」(日商・三村会頭)

デジタル化を進めているのは中小企業も同様だ。日本商工会議所の三村明夫会頭は「このコロナ禍で、自分の会社を変えたい、ビジネスモデルを変えたい、新しい市場を狙いたい、デジタル化をやりたい、M&Aをやりたい…いろんな形で、現在の状況を少しでも変えて生き延びたいという企業、これはたくさんいる」と述べた。

コロナの前までは「中小企業のデジタル化対応はなかなか難しい」と言われていたが、コロナを契機に、eコマースの活用も相当程度増えている。先を走る大企業は中小企業のデジタル化を支援できるのか?

2020年、日商・三村明夫会頭がかねて呼びかけていた「大企業と中小企業が共栄する仕組み」がスタートした。大企業との取引で中小企業が不利な立場に置かれるケースが多いことから、これを是正するため、大企業がネット上で「適切な取引」を宣言するポータルサイトだ。

この宣言には、中小企業のデジタル化を支援することも盛り込まれている。日本の産業界は、中小企業も大企業もベンチャーも、結束して、デジタルを活用し新たなサービス、技術、製品を生み出して、コロナ前よりも飛躍することができるのか? 勝負の年となる。

※画像は「2020年の新年祝賀会」