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「原発の新増設は経産省の悲願」“次世代”原発とは? 岸田首相が原発新増設の検討を指示

2022年8月27日 15:16
「原発の新増設は経産省の悲願」“次世代”原発とは? 岸田首相が原発新増設の検討を指示
エネルギー政策を担う経済産業省(東京・千代田区)

原発建設の「凍結」解除か? 24日、岸田首相が“次世代”原発の開発・建設について検討を指示した。正式に決定すれば、東日本大震災以降「凍結」されてきた原発新増設の政府方針は大転換となる。そして今考えられている“次世代”原発とはいったいどのようなものなのか?現時点で具体的には示されなかった。

■「原発の新増設は経産省の悲願」

ある経産省幹部は、かねてこう語っていた。「原発の新増設は、経産省の悲願だ」

2011年、福島第一原発で起きた未曽有の大事故。以降、政府は原発の新増設や建て替えを「凍結」し、触れることさえ許されない事実上のタブーとなっていた。しかし、事故から11年が経ったいま、ロシアのウクライナ侵攻に伴い世界のエネルギー情勢は混乱。そして国内では電力需給の危機と紙一重の夏が、ようやく終わりを迎えようとしている。

そうした中、岸田首相が発した“次世代”原発建設の検討指示は、経産省にとって「悲願」に向けた一歩といえる。また、近年加速する脱炭素社会に向けた議論のなかで、温室効果ガスを出さない原子力は世界的に「クリーンで安定的な電源」として再評価されている。タブー視され続けてきた原発の新増設は、「次世代」と「脱炭素社会」のキーワードを追い風に、再び検討の俎上(そじょう)に上ったのだ。

しかし、そもそも“次世代”原発とはいったいどのようなものなのか?

■“次世代”原発とは?

政府が検討を進めている“次世代”原発は大きく5種類ある。

①革新軽水炉
既存の原発がベース。燃料溶融を受け止める「コアキャッチャー」などの技術を搭載。欧州や中国で建設が進む。(EPRやAP1000など)

②小型モジュール炉(SMR)
出力30万kW以下。設備の大半を工場で生産可能。建設費や工期を削減でき経済的。

③高温ガス炉
冷却材にヘリウムガスを利用することで約1000度の高熱を利用できる。水素も取り出せる。

④高速炉
高速の中性子による核分裂反応により核燃料を燃やす。「核のゴミ」の発生が少ない。

⑤核融合炉
水素原子が核融合する際のエネルギーを活用。


“次世代”原発は、既存の原発よりも安全性が向上し、発電効率が良いとされている。

ある原発プラントメーカー幹部は建設までの時間軸から逆算して、有望な“次世代”原発の種類を絞り込む。

原発プラントメーカー幹部「この業界では計画立ち上げから立地選定、審査、建設、稼働まで12年。建設だけなら5年くらい。となると2035年をターゲットにするとそろそろ火がついている。次に建てるなら革新軽水炉だ」

既存の技術を生かすことができ、かつ国内の大量の電力需要をまかなうためには「革新軽水炉」が最有力だと話す。その次は「高温ガス炉」。すでに国内に研究炉(茨城・大洗町)があり、その開発において日本が他国をリードしている原子炉だという。

経産省の審議会も「革新軽水炉」は他より早い2030年代に運転開始を目指すとする工程表をまとめている。ただし、「革新軽水炉」が“次世代”に分類されるか否かには議論がある。というのも、欧州や中国では既設の最新原発の改良型としてすでに建設され、営業運転もしているからだ。

原発を規制する側である、原子力規制委員会の更田豊志委員長も24日の会見で、「国際コミュニティーでネクストジェネレーションといえばSMRや高温ガス炉のことで、(革新軽水炉とされる)EPRやAP1000は次世代炉とは呼ばない」と話している。

“次世代”という言葉は、すなわち技術的に“最新”のようにきらめいて聞こえるが、すでに革新軽水炉が他国で使われているのであれば、国際的な“次世代”の定義から外れるのではないかと指摘した形だ。にもかかわらず、政府が“次世代”という言葉を使うのは、安全性と効率の向上をイメージさせることによって、新増設の推進に不可欠な「国民の理解」を得やすくするからだ、という見方がある。

何としても原発の新増設を実現したいという経産省の「悲願」が“次世代”の3文字の背後にほの見える。

「新しい原発の建設ですか。電力需給が厳しいことは知っています。けど、なんか納得いかない思いがしますよね…」

そう複雑な胸の内を明かすのは、原発事故で故郷を追われ、現在も避難先で暮らしている男性だ。今、福島第一原発はどうなっているのか? 現状をみると、私たちの“次の世代”に残してはならぬ大きな課題が横たわっている。

25日、東京電力と国は、福島第一原発の廃炉で最大の難関とされる、事故の際に溶け落ちて固まった「燃料デブリ」の取り出しについて新たな発表を行った。2号機で年内に開始するとした計画を、最長1年半程度延期するという。これで2度目の延期となった。

東京電力のもともとの計画では、廃炉完了は事故が起きた2011年を起点にして30年から40年かかるとされている。今回の延期でも「廃炉完了時期」に変更はないと強調するが、先はまだ長い。廃炉も除染も、いまだ終わりは見えないのだ。

それだけではない。事故によって吹き出した原発をめぐる諸課題も、事故から11年経ってなお解決に向けて前進した訳ではない。事故の際に住民が計画通り避難できるのかといった疑問はなお残り、現時点で約22兆円とされる事故処理費用は、今後も膨らみ続けるとみられているのだ。

そして日本が原子力発電を始めた当初からの課題である、「核のゴミ」の最終処分場は、いまだに建設先が決まっていない。

エネルギーの安定供給は喫緊の課題。既存原発の再稼働だけでなく、原発を建設するか否かについて、タブーなく正面から議論する必要があるのではないか。そして同時に、原発をめぐる諸課題も広く議論すべきだ。私たちの課題を「次世代」に引き継ぐことのないよう、建設の検討と並行していまの世代のうちに道筋を付けねばなるまい。