海洋放出決定たまり続ける「処理水」とは?
東京電力・福島第一原発に上空から近づく。するとそこには1000基もの巨大なタンクが並んでいる。この中の水をめぐって、政府は13日、ある判断をくだした。「処理水」を海洋に放出する。事故から10年、ようやく1つの転換点を迎える。はたして、その処理水とは何なのか?
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■全く違う「汚染水」と「処理水」
福島第一原発では放射性物質に汚染された水が現在も毎日約140トン出続けている。10年前に起きた事故で1~3号機の原子炉内にあった核燃料が溶け落ちて固まり、現在も熱を発している。これを放置すると、高濃度の放射性物質がさらに漏れ出すことになりかねない。そのため、水をかけ続けることで冷やしているが、溶け落ちた燃料に触れた水は放射性物質を含むようになる。さらに、建物に地下水や雨水が入り込むことで水の量が増えている。これが「汚染水」だ。
汚染水に含まれるほとんどの放射性物質は「ALPS(アルプス)」と呼ばれる装置で取り除くことができる。こうして浄化処理された後の水が「処理水」と呼ばれている。つまり、汚染水と処理水は全く異なるものだ。
これまでは処分方法が決まっていなかったので、年間約5~6万トンずつ増える処理水も保管し続けなければならなかった。福島第一原発の敷地内には、現在、1000基を超えるタンクがある。しかし、このタンクの容量も来年の秋以降、限界を超えるとされている。
政府は、処理水の処分方法について、事故直後から検討してきた。その結果、まず、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を徹底したうえで、最後まで残る「トリチウム」が基準値を下回るまで十分薄めてから海に放出することを決定した。
■処理水に含まれる「トリチウム」
それでは、処理水に残ってしまう放射性物質トリチウムとはどのような物質なのか。実はトリチウムは水素の仲間で、雨水や人体などにも微量ながら存在している。トリチウムは水と同じ性質を持つため、トリチウムだけを処理水から分離することが難しい。そのため、処理水を海水で100倍以上に薄め、国で定めている濃度限度の40分の1にして放出する方針だ。
これは、世界保健機関(WHO)で定める飲料水のガイドラインと比べても、7分の1にあたる。実は、日本を含めた世界の原子力施設でもトリチウムは発生しており、施設のメンテナンスの際などに薄めて海に放出されている。経産省によると、例えば、韓国の古里原発で液体として放出しているトリチウムの量は年間約55兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理工場では年間約1.4京ベクレルに上るという。福島第一原発でも事故前にはトリチウムを出していた。
今回決まった基本方針では、トリチウムの年間の放出量について福島第一原発が事故前に通常運転していた時に目安としていたのと同じ、「22兆ベクレルを下回る水準」とした。まずこの水準で放出を始め、量については定期的に見直すという。
■処理水放出に向けて
今後、処理水を海洋放出する前にトリチウムの濃度を薄める必要があるが、そのためには処理水と混ぜる海水を取り込むためのポンプなど、新たな設備が必要となる。また、浄化処理が途中のままタンクに保管されている汚染水は、ALPSでもう一度、処理をしてトリチウム以外の放射性物質が確実に基準を下回るまで取り除いておく必要がある。
そのため、実際に海洋放出が始まるまでには2年程度かかる見通しだ。そして、2年後に放出が始まったとしても、全ての処理水を放出し終えるには、約30年かかるという試算もある。
■漁業関係者の強い懸念
地元の反対は根強い。事故後、福島県では、安全性を確かめるため漁の回数を制限した形で操業してきた。今月からようやく事故前の水準に戻そうと移行し始めた矢先の決定に、漁業関係者は反発している。
そのため政府は今回、放出前後に漁場などでトリチウムの検査を行い、風評被害の対策を強化したうえで、それでも生じた風評被害には原発を持つ東京電力が賠償することを担保する方針だ。政府や東京電力は、処理水への理解を広げ、風評被害をできるだけ抑えることが必須の課題だ。