野生のゾウが人を襲撃 死者も… エサ求めて侵入? 共存に揺れるタイ
野生のゾウに襲われて人が亡くなったりけがをしたりする事故がタイで多発しています。生活や信仰の上でもタイの人々にとって欠かせない存在のゾウ。一体、何が起きているのでしょうか。
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東南アジア・タイ中部。大きな体を揺らしながら走る野生のゾウの群れ。その姿は人々が暮らす集落の近くにまで迫っています。
「家の方に向かってるぞ!」
いまタイではゾウが民家に侵入し、人を襲うケースが多発、死者も出る事態となっているのです。
3月19日、タイ・ブリラム県で、遺影に向かい手を合わせる女性。母親が野生のゾウに襲われ命を落としました。ゾウが現れたのは、仕事場の天然ゴム農園です。
ゾウに襲われ母親を亡くした女性(17)
「ここにいました」
今年2月、泊まり込みの農作業を終えた後、小屋で寝ていたところ、突然ゾウが侵入してきたといいます。映像には、母親を襲ったとみられる野生のオスのゾウが映っており、暗闇の中、2頭がペアになり現場周辺を歩いていました。
ゾウに襲われ母親を亡くした女性(17)
「このあたりにはゾウがエサを求めてやってきますが、決して人を傷つけることはありませんでした。とても怖いです。農園にも近づきたくない」
タイの政府機関によると、2023年、ゾウに襲われ亡くなったのは21人。けがをした人は29人で、10年ほど前と比べ約3倍に増えています。
被害が増える一方で、ゾウはタイで最も大切に扱われる特別な動物です。
地元住民(タイ・アユタヤ県)
「ゾウは戦いの際、乗り物として活躍し、大切にされています。強い絆で結ばれていますよ」
人々の生活や信仰とも切っても切れない存在です。そのゾウと人間の間でなぜ“悲劇”が増えているのでしょうか?
現在、タイに生息する野生のゾウは4000頭以上。ゾウの保護で個体数が増える一方、森林開発により生息域は縮小。その結果、ゾウはエサ不足に陥り、人間との距離が“急接近”しているのです。ゾウによる被害を防ごうと、ボランティアでパトロールにあたる住民は、こう語ります。
ゾウパトロールの男性
「ゾウの保護団体などは、ゾウと人間は共存できると言いますが、私は共存なんてできないと思います」
こうしたグループは各地で結成されているといいます。彼らが携帯しているのは威嚇用の銃に火薬玉です。ゾウを傷つけず民家から遠ざけるのが目的です。
この日は、首都バンコクから車で2時間半ほどの集落で、3頭のゾウの目撃情報があり出動しました。
その道中には…
杉道生記者(NNNチャチュンサオ)
「こちらはかなり大きくへこんでいるんですが、ゾウの足跡だということです。こちらにも続いていますね」
ゾウの捜索に使うのは、赤外線カメラが搭載されたドローンです。上空から捜索すること約3時間。
赤外線カメラが、ゾウの姿を捉えました。30人ほどの捜索隊がゾウを追います。
火薬玉の威嚇でゾウを民家から遠ざけ、ドローンで森にかえったことを確認しました。こうした活動は深夜まで毎日のように続いています。
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タイの人々の命を守る新しい試みも行われています。人工知能=AIを使いゾウを監視・追跡するのです。
プロジェクト担当者が画面を見ながらこう説明します。
「黄色い点はカメラを配置している座標です。カメラがゾウを捉えると、このように写真が表示されます」
このシステムは、タイ王室の支援で3年前に完成しました。野生動物保護区などがある5つの県に37台のカメラが設置されていて、指令センターで監視。AIがゾウを識別すると、顔の向きから進行方向を予測します。スマホアプリを通じて、対象地区に警告を発信する仕組みです。
プロジェクト担当者
「トラブルが増え、問題に直面していることは認めざるを得ません。それは国家レベルでの大きな問題です」
国のシンボルともいえるタイのゾウ。どう共存していくのか、難しい課題に直面しています。