米中の緊張が続く中、アメリカを目指す中国人が増加…それぞれが抱える異なる背景とは

緊張が続くアメリカと中国の関係。この夏、バイデン政権の閣僚が相次いで中国を訪問するなど、両国は関係の安定化を模索している。こうした中、いま、さまざまな理由でアメリカへの移住や永住権の取得を目指す中国人が増えているという。その背景を取材した。(ワシントン支局 渡邊翔・嶋太朗)
●「独裁体制から逃れたい」…急増する中国からアメリカへの亡命希望者
バイデン政権発足以降続く大きな問題のひとつが、メキシコと接する南部の国境から流入してくる中南米からの不法移民だ。しかし今年に入り、その不法入国者に占める中国人の割合が急増している。
私たちが話を聞いた20代前半の中国人・孟さん(仮名)もそのひとりだ。名前や年齢、顔を伏せることを条件に取材に応じた孟さん。中国を脱出し、今年7月に西部カリフォルニア州に入国した。南東部の都市・深センで暮らしていた猛さんが中国を脱出したきっかけは、中国政府の「ゼロコロナ政策」だったという。
「去年の後半、私が住んでいた地域に感染者が出て、私も濃厚接触者と認定されたため、実に42日間も隔離されました。朝、仕事に出かけようとしたら、突然中国共産党の職員がドアをノックし、まるで犯罪者のように家から出ることを禁じ、ドアに電子錠を設置したのです。42日間、閉じ込められ、自由を奪われ、働くこともできませんでした」
厳しい隔離政策で、精神的に不安定になったという孟さん。中国のインターネットのアクセス制限をくぐりぬけてアメリカやヨーロッパの民主主義について検索する中で、中国を脱出する決意を固めていった。
「私のような一般人は中国共産党の迫害に対して昔も今も全く無力です。共産党の政策がどんなに独裁的で抑圧的であっても、受け入れるしかないことを悟った瞬間、恐怖を覚えたのです。習近平氏の支配下でピークに達した共産党の独裁体制から逃れるために、アメリカに行くことにしました」
●TikTokに「脱出指南」の動画…アメリカへの過酷な旅
孟さんがアメリカへの亡命のために選んだルートは、中国からビザなしで渡航できる南米のエクアドルから、陸路でアメリカを目指す道だ。SNSで「走線」と呼ばれ、多くの中国人が選ぶ代表的なルートのひとつだ。
①6月下旬 香港を出発→エクアドルへ
②エクアドルからバスで国境へ行き、コロンビアへ
③コロンビアから船でパナマへ
④パナマのジャングルを2日間歩き、難民キャンプからバスと船でコスタリカへ
⑤コスタリカからバスでニカラグアへ
⑥道中知り合った人とバスをチャーターし、ホンジュラスとの国境へ
⑦ホンジュラス・グアテマラを経由してバスでメキシコへ
⑧バスや車を乗り継いで、カリフォルニア州の南の国境へ
⑨国境地帯を走って越え、カリフォルニア州へ(7月中旬)
たどってきたルートの複雑さから、過酷さがうかがえる。コロンビアからパナマまで向かう船は途中で嵐に遭遇し、泳ぐことができない孟さんは肝を冷やしたという。パナマのジャングルでは雨でぬかるんだ泥道を歩き続けた。また、最終的にメキシコから国境を越える直前には地元のギャングに遭遇し、辛くも逃げ切るなど、ギリギリの場面もあったという。