韓国で迎える旧正月 脱北者たちの思い
ソウルで開かれたのど自慢大会で歌声を披露したのは北朝鮮から逃げてきた脱北者だ。そんな中、脱北した女性は「民族大移動という民族最大の祝日を過ごすことになりますが脱北者には行くところがありません」と、あいさつした。旧暦の正月を迎えてもふるさとの北朝鮮には帰ることができない。家族を残してきた人もいる。同じ境遇の者どうしが楽しく過ごそうと初めて開かれたのだ。のど自慢大会のルールは、日本と同じで鐘が鳴ったら途中でやめなければならない、なかなか厳しい。しかし会場は盛り上がっていて席を立って踊り出す人や、前に出てきて歌声に合わせて踊る人もいて、のど自慢大会をおおいに楽しんでいた。脱北した女性は「機会さえあれば毎日出たいです」と、語った。
韓国に来る脱北者の数はここ数年、一気に増え、去年の末には2万人を超えた。しかし、キャッシュカードの使い方から学ばなければならない彼らは、社会生活になじめず職場で差別を受けることもあるという。仕事のない脱北者が6割近くにのぼるという国の調査もある。
午前6時、氷点下の寒さのなか、商品のもちを丁寧に切り分けているのは、脱北者のパク・ソユンさん。脱北者が働く場所を作ろうと去年10月に立ち上げられたこの店で、開業当初から働いている。6年前に韓国に逃げて来たが、なかなか仕事につけない苦しみを味わってきた。ソユンさんは「これからは私より苦労をしている人、私より後から来た脱北者の手助けをしたいんです」と語った。
この日、ソユンさんは家族と過ごしていた。ソユンさんが脱北した後、母親、そしてほかの3人の兄弟も次々に北朝鮮を脱出し、ここソウルで暮らしている。ソユンさんは「北朝鮮で迎える正月はソウルに比べたらあまりにもみすぼらしいです。豆腐の天ぷら、ジャガイモの天ぷら、もち、それしかなかったです」と話し、家族と一緒に、新しい年を迎える幸せをかみしめている。また、ソユンさんは「行くことができない故郷だから心の中で行って、母と家族とこうやって過ごすつもりです」と、語った。
旧正月を翌日に控えたこの日、ソユンさんの店では、新年のお祝いに欠かせないもちを200人分用意して、脱北者に配った。もちを受け取った脱北した男性は「なにしろ正月だから、正月には伝統の雑煮をつくるからみんな喜ぶよ」と、うれしそうだ。ソユンさんは「おいしく召し上がってよい正月を!」とその男性に手を振って見送った。
それぞれの居場所を探しながら旧正月を祝う脱北者たち。南北を自由に行き来できる未来はまだ見えない。