北京五輪で続いた青空やりすぎ?大気汚染対策の裏側を取材
悪名高い北京の大気汚染も、オリンピック期間中は影を潜め、青空が広がった。中国政府はこの「オリンピック・ブルー」を実現するために、周到な準備と大気汚染対策を打ってきた。ただ、一部の地区では「空気が汚れるから薪を燃やすな」との指示が出され、寒さに耐える市民の姿も。その実情を取材した。
■開幕直前まで大気汚染が深刻に
今年1月、中国政府は「去年の北京の大気が中国の環境基準を初めてクリアした」と発表。
確かに筆者が北京に住み始めた3年前よりも、少しずつ青空の日が多くなってきている。ただそれでも、日本と比べると大気汚染ははるかに深刻で、オリンピックが開幕する直前まで、遠くの景色がかすむ日が続いていた。
本当に青空が広がるのか心配したが、結局、大会期間中は雪が降った日を除き、おおむね青空だった。
世界から注目される五輪に合わせた青空の演出は、素直に感心した。
■やりすぎ?大気汚染対策で「かまど」封じる
一方で、“オリンピック・ブルー”とも言われる青空を実現するために打った対策の中には、「やりすぎ」と批判を浴びたものも。
去年11月以降、北京に隣接する河北省山海関区では、地元政府が次々と住民の「かまど」を封じて回ったという。取材で現地を訪れると、確かに多くの住民の家で、コンクリートやゴムのようなものでかまどが封じられ、使えなくなっていた。
このかまどは、特に中国東北部の田舎では床暖房としても使われるため、多くの住民が寒さに耐えなければいけなくなった。
私たちの取材に応じた80歳を超える老人の家は、屋内でも10℃に満たない寒さで、孫が布団にくるまって勉強していた。老人は、「従わないと大変なことになる、仕方ない」と諦めの表情で語った。
なぜ、かまどを封じたのか?中国メディアによると、この地区は「国家的な大気観測地点」に指定されていて、地元政府が一時的にデータを改善するために、薪を燃やさないよう対策を打ったのだという。
代わりに“クリーンな暖房”として電気を使う暖房器具を渡したというが、取材に応じた住民たちは口をそろえて「暖かくならない」と不満を述べた。
別のいくつかの省でも同様の「かまど封じ」が行われ、国営メディアが「環境保護は大切なことだが、煙を出さないことを追求するあまり、市民を凍えさせてはいけない」と指摘する異例の事態となった。
■青空を「当たり前の景色」に出来るか
このほか、大気汚染の主要な要因とされる近隣の省の製鉄所を大幅に減産させたり、大会期間中は北京に入る大型車両を制限したりといった対策も。
さらに、風物詩となっている旧正月の春節を祝う花火も、今年は北京市全域で禁じ、違法に販売したなどとして逮捕者も相次いだ。
2008年の夏季オリンピックの際にも、中国政府は工場の停止などを通じて青空を実現したが、一時的なもので、深刻な大気汚染が戻ってきてしまった。
今回とった措置の多くも、オリンピックに合わせた“その場しのぎ”が多く、このまま青空が続くかというと難しそうな状況だ。
一方で、習近平指導部が再生可能エネルギーの導入や新エネルギー車の普及など、環境対策に本腰を入れているのも確かだ。
経済成長の足をひっぱりかねない難しい課題に対して、中国がこの青空を日常的なものに出来るのか、そのために今後どのような政策を打ち出していくのか、今後も注目していきたい。
(NNN中国総局 槻木亮太)