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五輪まで半年!地元で意外な影響も

2012年2月15日 17:20
五輪まで半年!地元で意外な影響も

 今年、オリンピックの開催を控えるイギリス・ロンドン。開幕まで半年を切り、準備はほぼ順調に進んでいるが、地元の人たちには意外な影響も出ているという。ロンドン支局・渡辺祐史記者が取材した。

 ロンドン市内にある住宅街。写真家のマリオンさんとデボラさんのもとを訪ねた。5年ほど前に撮りためていたある街の写真を見せてくれた。鉄工所や洋服の工場、おもちゃ問屋。雑然とした中でもカメラに向かって向けられる笑顔。そこには250の会社や商店があった。その街は消え、いまはオリンピックのメーン会場が作られている。そんな街の住民たちのようすを、デボラさんとマリオンさんはこう語る。

 デボラさん「みんなパリでオリンピックをやってほしいと頭を抱えたみたいだわ」

 マリオンさん「移転した何人かは成功したけど、生き残れなかった人もいたのよ」

 7月27日に開幕するロンドンオリンピック。メーン会場は“イーストエンド”と呼ばれるロンドンでも低所得者が多く、治安が良くないとされてきた場所にある。オリンピックをきっかけにそうした地域を再生する。この方針は、ロンドンが開催地に選ばれた大きな理由の一つにもなった。その一方で、そこに元々あった会社や商店は立ち退きを迫られた。

 白を基調にした加工場を前にして「私たちは世界で一番歴史のある、スコティッシュ(スモーク)サーモンの工場なんだ」と語るのは、フォーマン&サンのランス・フォーマン社長。創業は1905年。手作りにこだわった伝統的な手法でスモークサーモンを製造し、ロンドンの高級レストランなどに納品してきたというこの工場。祖父の代から3代にわたり、メーン会場のほぼ中心にあたる場所で店を構えていた。しかし、立ち退きの対象となったことから、補償金などを元手に移転を決断。工場に加えレストランを新設するなど、オリンピックをきっかけに事業を拡大した。レストランのテラスに案内してくれたランスさんは「オリンピック本番ではすごいことになるよ!レストランから花火が見えるのを想像してごらんよ!」と、会場を見つめながら熱っぽく語ってくれた。

 しかし、予想しなかった影響もあった。移転に伴う操業停止などで、売り上げは減少。さらに、ランスさんによると「ルールや取り決めがたくさんあるんだ。時間がたって分かったのは、オリンピックは公式スポンサーのためのものなんだって事だね」と、オリンピック側の制約も厳しいようだ。移転決定から5年たった今も、100以上の企業が立ち退き料などを巡り交渉を続けているほか、3分の1近くは廃業することになった。

 一方、オリンピックを地域再生の起爆剤にしようという試みも進んでいる。メーン会場の目の前には、去年ヨーロッパ最大規模のショッピングセンターがオープンした。店の裏手にある部屋を訪ねると、接客の基本に関する講義が行われていた。生徒のほとんどは地元に住む失業中の若者だ。研修を受けるウィリアムさんは「半年以上無職だったんだ。以前は修理業者で働いていたんだけどここでは新しい仕事の技術を身につけられる」と、語る。このショッピングセンターでは出店にあたり、従業員1万8千人のうち2千人をこうした失業者から採用することにした。研修施設では店に出る前に技術を身につけさせるため実際のレイアウトや商品を再現したカフェや小売店など、仮想の店も設置。シミュレーションを繰り返す。

 客役「トレーニングウエアが欲しいんだけど」

 店員役「外で着ますか?ジムで着ますか?ジムで着る人にはこっちが良いと思います」

 ロンドン市や人材育成会社と共同で運営されイギリスでも珍しいという、この取り組み。つくられた背景には高い失業率の問題がある。中でも若者の失業率は20%を超え、こうした不満は去年夏の暴動の主な要因になったと言われている。研修施設の責任者・ステファニアさんは「ここに来れば長い時間をかけて技術を学ぶことが保証されてるわ。さらに、ただ仕事を見つけるだけでなく、できるだけ長く将来に渡って役立つようなキャリアを身につけさせてあげたいの」と、この施設のあり方を語ってくれた。

 さまざまな思いが交錯する中、本番までいよいよ半年を切ったロンドンオリンピック。調査研究機関のロブ・ホワイトヘッドさんは、オリンピックによる経済効果について「開催に100億ポンド(1兆2000億円)が投じられます。特に建設業界や観光業界が利益を得るだろう」と、予測している。

 スポーツの祭典で変わる人と街。停滞するイギリス経済復活の足がかりにできるのか。地元では期待と不安が入り交じっている。