【解説】「身を引く」岸田首相…総裁選不出馬会見の“表と裏” “ポスト岸田”レースに号砲
岸田首相は14日、来月の自民党総裁選に立候補しない意向を表明しました。電撃表明となった、その理由とは。以下の3つの疑問について、政治部官邸キャップの平本典昭記者が解説します。
●首相が不出馬決断の裏側
●なぜこのタイミング
●次の自民党総裁は誰
──まず1つ目。岸田首相が不出馬の決断をした裏側では、一体何が起きていたのでしょうか?
表の理由と、裏の理由があると思います。表の理由としては岸田首相が会見で挙げた2つのキーワードがありました。
1つ目は「党が生まれ変わる姿勢」を見せること。今回の総裁選で問われるのは「刷新」でしたが、岸田首相は自分が替わることが「党の刷新」に一番効果があると判断した、とみられます。
2つ目は「裏金事件のトップとしての責任」をとるということです。
裏金事件発覚後当初は、首相側近から「この問題は安倍派の問題なので、岸田総理に責任はない」と責任を回避する声も確かにありました。しかし、その後、与野党問わず「普通の会社なら、社長である自民党総裁が組織としての責任をとるべき」という声が大きく出て、このタイミングで責任をとった形と思われます。
岸田首相自身は「再発防止の道筋をつけることが自分の責任」と言い続けてきましたが、14日の取材で、別の首相側近議員は「2月、3月頃からいずれはけじめをつける、辞める選択肢は持っていた」とも、明かしています。
──表の理由として「刷新」や「責任」という言葉がありましたが、裏の理由は何なのでしょうか?
裏の理由は、一言でいえば総裁選での勝つのが難しいと判断したのだと思います。実は、岸田首相の周辺では強力な対立候補が現時点でいない中で「出馬すれば勝てる」という声もあったんです。
ただ、総裁選の候補者の名前が出てくる中で、ある自民党幹部は「党内情勢を冷静に分析し、出ても勝てないという判断に至ったのだろう」と指摘しています。
自民党内の情勢に加え、野党との戦いという意味でも、厳しさが増していました。というのも来年秋までには必ず衆院選がある中で、若手議員からベテラン議員、そして岸田首相と距離のある議員から近い議員まで「岸田首相では選挙は戦えない」という声が大勢を占めていたんです。
最新の情報ですが、岸田首相が14日午後にある側近議員に電話し「総裁選に勝てても衆院総選挙には勝てない」と、判断の理由を伝えたというのです。ある岸田首相の側近も14日、対野党との戦いの中で「自分が替わることが衆院総選挙に勝つ道」と判断したとわれわれの取材に明かしました。
岸田首相は14日の会見で新しい総裁に求められることは「共感」と言っていました。内閣支持率も回復しない中で、自分の手では「国民の共感」を再び得ることは困難だと判断して、不出馬の決断をした、といえると思います。
──とはいえ、この決断に驚いた人は多いと思います。お盆のまっただ中、このタイミングでの決断というのは、平本さんは予想していたのでしょうか?
取材をしていると、実はある政府関係者は「元々、一昨日まで予定されていた外国訪問を終えれば、総理としての仕事が一段落し辞任を表明する可能性がある」と話していました。
ただわれわれは、出馬、不出馬、両にらみで取材を続けていましたが、多くの首相側近、周辺が「判断は盆明け」と言っていたので、予想より早いタイミングではありました。
このタイミングだった理由も「表の理由」と「裏の理由」があるとみています。まず表の理由のポイントとなるのは、来週20日に自民党総裁選の日程が決まることです。
ある首相側近は「そこまでに総裁の態度が決まらないと、他の候補が判断できない」ため、きょう(14日)、表明したと説明しています。
岸田首相は13日夜、表向きは首相秘書官と食事をするとなっていましたが、実は、裏では側近の木原幹事長代理と2時間弱、会談をしていたというんです。
複数の政府関係者は、その場で最終的に出馬はしないという会見を14日に行うという判断したと話しています。この決断を党幹部や関係者に伝えたのは午前11時半の会見の直前だったといいます。首相の秘書官に対してさえ、会見の数時間前に伝えたという、サプライズ発表でした。
──では、裏の理由は?
裏の理由はこうみています。ある首相側近は「このタイミングで辞めることで今後の影響力を一番キープできるため」と説明しています。仮に総裁選に出馬してもし負ければ「これまでの実績がすべて台無しになってしまう」とも話している人もいます。
永田町に「キングメーカー」という言葉があります。安倍さんもそうでした。今でいえば、麻生さん、菅さんも党内に大きな影響力を持っています。岸田首相は今、辞めることで引き続き首相経験のある政治家として、影響力を維持し続ける狙いがあったこともうかがえます。
──だからこそ、このタイミングだったということですね。では、最後の疑問です。総裁選は9月ですが、どういった候補が出馬しそうでしょうか?
きょう(14日)の岸田首相の不出馬表明で総裁選の号砲がなったと言えます。候補者として名前が挙がっているのが茂木幹事長、高市経済安保相、石破元幹事長、河野デジタル相、小林前経済安保相、野田元少子化相、小泉元環境相の7人です。
まず、出たいんだけど岸田首相が出ると出馬しづらい、という候補が2人いました。現職の幹事長、茂木幹事長と現職の大臣、河野デジタル相です。この2人は出馬の意向、意欲を周囲に示しています。
最大のポイントは2人も関係が深く“応援をぜひともほしい”という麻生副総裁がどちらを支持するか、という点です。
そして、早速14日に動いたのが石破元幹事長です。「20人集まれば出馬したい」と発言しました。総裁選に出馬するのは20人の仲間、推薦人が必要で、石破氏の最初のハードルはこの仲間集めとなります。
次に注目は「世代交代」という点で、若手候補への期待が今回の総裁選で高いということです。具体的には小泉元環境相と小林前経済安保相です。2人ともに40代の候補です。当選すれば「刷新感」は出る一方で、政治経験は少ない2人です。
岸田首相の言葉を借りれば、次の総裁には「団結」「政策力」「実行力」で、「ドリームチーム」をつくってほしい、ということでしたが、ある現職閣僚の1人は、若手候補について「圧倒的に経験が少なく混乱するだけ」と指摘しています。
団結できず混乱し、政策の実現ができなければドリームチームどころか、「悪夢」となり、次の選挙で野党につけ入る隙を与えるだけになる可能性もあります。
総裁選まではきょう(14日)から1か月余り。新たな総裁候補たちが立候補を目指し、政策論争を戦わせていきます。
私たちが共感できるリーダーは一体、誰なのか、厳しく見ていかなくてはいけないと思います。