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人材育成重視の支援 アフリカ・ニジェール

2013年6月7日 17:07
人材育成重視の支援 アフリカ・ニジェール

 世界で最も貧しい地域の一つといわれるアフリカ西部の国ニジェール。この国で日本の国際援助機関が主導して行う人材の育成を重視した新しい形での支援の現場を取材した。

 国土の3分の2を砂漠が占めているアフリカ西部にあるニジェール。昨年も深刻な食糧危機に見舞われた。住民からは「家族全員に十分な食料を与えられていないんだ。手元にある食料で何とか食いつないでいる状況だよ」という声が聞かれた。ニジェールは世界で最も貧しい国の一つとされ、国際機関も支援に入っている。

 国連のWFP(=世界食糧計画)のスタッフに同行した。急速に治安が悪化していることから、地方に出かけるときには軍の兵士たちが同行する。WFPのヴィグノさんは「我々は常に新しい治安状況に対処しています。治安の状況は刻々と変わっていくんです」と話す。首都・ニアメから約100キロ、乾いた大地が広がる村で新しい形の支援が行われていた。村人は「雨が降った後に、この溝に雨水をためることや、土を湿らせることで、作物を育てることができるんです」と語る。雨がほとんど降らない干ばつに備え、わずかな雨水もためることができるよう人々が溝を掘っていた。そして、工事に参加した人々には日本などによる支援金から手当てが支払われる。キーワードは自立支援。これまでの食糧の配給を中心とした支援から、人々が自分たちで干ばつなどを乗り切るための支援へと比重が移りつつある。

 しかし、取材を続けていると突然、引き返すように言われた。ヴィグノさんは「はっきりわからないが、きょう起きた事件ですぐに事務所に引き返すように言われました」と説明してくれた。この日、国内2カ所でテロ事件が発生。犯行声明を出したのは今年1月、アルジェリアで起きた人質事件の首謀者・ベルモフタル容疑者とされている。地域を覆うイスラム過激派の影。治安の悪化は各国の支援機関にも大きな脅威となっていて、2011年、アメリカやフランスの援助機関も撤退した。

 こうした中、日本の援助機関が現地に留まっていた。JICA(=国際協力機構)スタッフの角田さんは「常に何かしら危険は身近にあるということは意識しながらやっています」と語る。現在、日本のJICAは、ここで教育支援に力を注いでいる。角田さんは「教育を受けた子供たちは仕事を得ることができたり、経済的に自立することができることで、極度の貧困に落ちることで、社会に不安や不信をもって暴力行為に及んでいくことを防げる」と説明する。

 支援の現場を訪ねた。首都・ニアメ郊外の小学校に集まっていたのは生徒ではなく大人たち。教室の中に入ると大人たちが真剣な表情で話し合っていた。学校運営の代表者「学校の運営計画について、意見や質問のある人は聞かせてください」と話す。実はこの学校、生徒の親たちが運営に参加しているのだ。運営に足りないお金は親たちが出し合っている。学校の設備も親や村人たちが自らの手で作っていた。親たちが学校の運営に参加するこのシステムは、JICAの日本人スタッフが提案したもので、あっという間にニジェール中の学校で取り入れられるようになった。

 これまでニジェールでは子供は貴重な労働力、しかし学校の運営に関わることで親たちの意識が変化し、子供達の”学ぶ機会”が飛躍的に増加したのだ。ニアメ市内の小学校に通うブバカール君は「字を書くことができるようになったのが楽しいです。将来は教師になりたいです。子供に教えるのは楽しそうだから」と話す。ブバカール君の父親のスマナママンさんは「以前は、畑とか家畜の世話など、家にいてもらった方がいいと思っていたが、今は、子供の将来を考えて学校に行かせることに喜びを感じています」と語る。このプロジェクトは、今では地元の人々が運営の中心となりつつある。角田さんは「技術的に、どういうところを支援してあげると、住民の方々が持っている力を発揮できるのか。そういうところに開発援助の世界も変わってきている」と話す。

 人々が自らの手で希望をつかみ取るための地道な支援。テロの温床となる貧困からの脱出、そして真の自立につなげることはできるのだろうか。