相次ぐ開発 航空機市場に見る中国の存在感
今、中国では国産のジェット旅客機の開発が次々に進められている。航空機製造の分野で中国が存在感を示し始めた背景には何があるのだろうか。原田敦史記者が取材した。
昨年11月、中国・広東省で航空ショーが行われた。人々が見上げる先には、アクロバット飛行する中国の国産戦闘機“殲10”。中国が独自開発を進める次世代ステルス戦闘機がデモ飛行を行う様子も初めて公開された。会場には中国空軍の戦闘機などと並んで、ミサイルが搭載可能な無人偵察機も展示されていた。次々に公開された中国の最新軍用機。軍事技術の高さをアピールし、将来の外国への輸出を狙ったものとみられる。
ただ、中国が力を注ぐのは軍用機だけではない。中国の旅客機メーカーが開発した小型旅客機“ARJ21”は、中国国内の地方路線などへの投入を念頭に開発が進められている。今回、特別に機内の取材が許可された。
座席は2列と3列で、通路は1本。地方路線向けということで、かなりコンパクトな機体だが、座席は普通の旅客機と同じだ。座席数は約90席。アフリカのコンゴ共和国など外国からの注文も含め、すでに278機が受注され、まもなく市場に投入される予定だ。
同じようなサイズの機体としては、三菱航空機が開発を進める日本初のジェット旅客機“MRJ(=三菱リージョナルジェット)”がある。ゆくゆくは競合していく機種になるとみられている。開発を行う中国のメーカーも日本のMRJを意識している。ある航空メーカーの営業部長はこう話す。
「我々は中国国内の市場をメーンにしていて、徐々に海外にも展開して行く予定です。もちろんMRJはライバルです」
航空機の製造の分野で実力を高める中国。さらに、150席以上の座席数を持つ、より大型の旅客機も開発中で、今年中にも初飛行を行う見通しだ。航空ショーの来場客からは「とても素晴らしいです。我が国は、航空機の製造技術を完全に掌握したと思いました」という声を聞くことができた。
急速なレベルアップの背景は何なのか。そのヒントを求めて天津へ向かった。
何機も飛行機が並ぶ広大な空間。ヨーロッパの航空機製造大手“エアバス”の最終組み立て工場だ。ヨーロッパ以外では、唯一の組み立て工場がここ中国にある。約400人の従業員は、ほとんどが中国人だ。工場内を案内してくれたエアバス天津の現場責任者は、ある機体を指してこう教えてくれた。
「この航空機は製造開始から201機目です」
エアバスは航空機製造の現地化を進め、ボーイングからシェアを奪うことに成功。中国でのシェアは、この10年で3割から5割に拡大した。工場の周辺には航空関連のメーカーが集積。主翼などは中国メーカーが製造を請け負い、中国側も技術の底上げができるなど、互いに良い結果を生んでいるという。エアバス中国のトップ・陳菊明総裁は、その技術力に自信を見せる。
「最初は確かに多くの人が品質検査を通り抜けられないのではと不安もあったが、生産した航空機を見ると、品質はヨーロッパで製造したものと何ら変わらない」
旅客機の製造で存在感を強める中国。将来はより大型機の開発、製造も見据えている。