【解説】アメリカ大統領選 支持率僅差の大接戦…その背景は?
日本時間の5日夜に投票が始まるアメリカ大統領選挙は、まれにみる大接戦になっています。日本テレビの元ワシントン支局長だった近野宏明解説委員が解説します。
アメリカ大統領選はいよいよ、日本時間の5日夜から投票が本格化します。日本では10月の衆議院選挙が「超短期決戦」と言われましたが、アメリカでは対照的に1年間という長い選挙戦になります。その間、国民の支持はどう動いたのかをひもといていくと、どうして今も大接戦が続いているのかが見えてきます。
まずは最新の全米の支持率です。日本時間5日午後4時の時点では、ハリス氏が48.7%、トランプ氏が48.6%と、ハリス氏が0.1ポイント上回っています。
――4日にはトランプ氏が0.1ポイント上回っていましたが?
実は日本時間の5日朝の時点では2人とも全く同率だったということで、それくらい最終盤までもつれ込む大接戦となっています。
振り返ってみると、民主党は現職のバイデン大統領、共和党はトランプ氏を「本命」として今年の最初に大統領選が始まりました。今年始めから支持率のグラフを見てみていくと、当初、1月は2.3ポイント差でトランプ氏がリードしていました。(トランプ氏46.6% バイデン大統領44.3%)
そして、春になると大統領経験者としては初めて起訴されたトランプ氏の裁判が4月から本格化しました。トランプ氏は4つの事件で起訴されていて、このうち不倫の口止め料を不正に処理したとされる事件では34の罪に問われていて、5月30日には有罪の評決が出ました。
初公判の後も有罪評決が出た後もトランプ氏の支持率は確かに下がってはいましたが、それでもバイデン大統領を上回ったまま推移していました。
有罪判決が出てもトランプ氏の支持率がそこまで下がらなかったのは、いわゆる「岩盤支持層」、何があったとしてもトランプ氏を支持するという人たちは、この裁判についても「魔女狩りだ」と主張しているトランプ氏の言い分を文字通り受け取っている。むしろ逆風が強くなるほどに支持・結束が強固になっていく、そんな構図です。
夏前にはまたトランプ氏が徐々に支持率を伸ばしていく時期がありました。一方でバイデン大統領が支持率をガクンと下げているんですが、その理由がトランプ氏とのテレビ討論会でした。
民主党 バイデン大統領(6月27日)
「私たちがやるべきこと…“医療保険”を打ち負かした」
共和党候補 トランプ前大統領(6月27日)
「そうだ、彼は“医療保険”を打ち負かしたんだ」
テレビ討論会でバイデン氏は、「コロナを打ち負かした」というところを言い間違えてトランプ氏に揚げ足を取られたのです。声がかすれたり、言葉に詰まったり、討論会は終始、精彩を欠きました。その後も挽回すべきところ、ゼレンスキー大統領をプーチン大統領と言い間違えたり、身内のハリス氏を宿敵のトランプ氏と呼んでしまうといったことが続きました。
さらに7月13日に全米を揺るがす大事件が起きました。トランプ氏の銃撃事件です。激戦州のペンシルベニア州での演説中に銃撃を受けて右耳を負傷しました。血を流しながらこぶしを突き上げるトランプ氏にすさまじい歓声が会場でわき上がりました。
結果としては完全にトランプ氏に対する追い風となりまして、支持率ものばしました。事件から6日後、7月19日に支持率が3.1ポイント差に広がりました。(トランプ氏47.8% バイデン大統領44.7%)不屈の強いリーダーという姿をアメリカだけでなく世界中に見せつけた結果だと思います。
万事休すということで、バイデン大統領は選挙戦からの撤退を表明。そして後継者にハリス氏を指名しました。
トランプ氏対ハリス氏という新たな構図になったのが7月末です。トランプ氏が支持率で逆転をされたのは8月5日ですが、この翌日の6日に民主党はハリス氏を正式に大統領候補に指名しました。
その後は夏から秋にかけてだいたい2ポイントほどハリス氏が支持を伸ばす一方で、少しトランプ氏が水をあけられました。
この先に何があったのか。
共和党候補 トランプ前大統領(9月10日)
「(移民たちは)猫を食べている。そこに住む人々のペットを食べているんだ。これがこの国で起きていることだ」
ハリス氏とのテレビ討論会で、トランプ氏が不法移民の問題を追及する中で「移民が住民のペットを食べている」と全く事実とは異なる発言をしたのです。差別発言は絶対に許されませんが、トランプ氏は不法移民たちがアメリカ治安を悪くしているとか、働く場を自分たちから奪っていると主張していて、今の政権でその不法移民対策を担当しているのはハリス氏ですから、その原因を作ったのは彼女なんだと繰り返し強調してきました。
大統領選でもう1つ言えるのは、いつも最後の最後は「目先の経済」が重要な選択基準になります。トランプ氏が訴える不法移民への危機感というのは、雇用不安とか止まらない物価高とかに毎日直面している国民にすれば、「体感」に一定程度響いて浸透している。そういう見方になります。
それを示すかのように10月26日には、またトランプ氏がハリス氏を逆転しました。27日にはトランプ氏の集会でコメディアンが「プエルトリコはゴミの島」と移民をやゆして差別的な発言をした後も、支持率に大きな変化はなくて、もつれながら今に至っています。
アメリカの抱えるさまざまな課題がこの戦いの中で議論、論戦になってきたことがわかります。その集大成としてのアメリカ国民の1票、1票の選択がいよいよ示されることになります。
(日本時間2024年11月5日午後4時半ごろ放送 news every.より)