アジアで活躍!サッカー選手・伊藤壇に密着
これまで18の国と地域でプレーし、2015年からはブータンのチームに入団した日本人サッカー選手。その活躍を、松永新己記者が取材した。
ブータンの首都・ティンプーでは、多くの人が民族衣装に身を包み、伝統的な暮らしを続けている。そのティンプーの街中を歩くひとりの男性。プロサッカー選手の伊藤壇選手だ。伊藤選手は2015年、ブータンのサッカーチーム“ティンプーFC”と契約し、ブータン初の日本人選手となった。
北海道出身の伊藤選手は大学卒業後、1998年に現在のベガルタ仙台に入団。2年間プレーしたあと、北海道の地域リーグに所属するが、海外でプレーしたいと考え一念発起。シンガポールをはじめ、タイやブルネイなど、ブータンを含めアジアの18の国と地域のチームに所属してきた。伊藤選手の部屋に案内してもらうと――
「何も無い部屋です。こんな感じです」
10年以上、海外のチームに所属する伊藤選手。海外でプレーを始めた直後は生活などで苦労も多かったという。伊藤選手はこう語る。
「はじめのころはJリーグは恵まれていたから、Jリーグと比べると環境的に大変で文句言っていたけど、考え方を変えて、スタッフが少ない分ケアの仕方を考えたりとか、人間的には成長している実感がある」
部屋にキッチンがないため、外食が中心だ。店員とはこんなやりとりも。
「『しばらく会ってないね』って話してて」
店の人とも顔なじみだ。普段は現地の料理を食べることが多いという。その理由をこう話してくれた。
「海外に出て日本のモノしか食べられないと、地元の人に受け入れられないとかもあるので」
アジアの国でプレーを続ける伊藤選手。“アジアでサッカーをしたい”という思いが原動力となっているという。
「ヨーロッパとか観光で行ってみたいなっていう気はあるけど、次行くとしても間違いなくアジアの国」
ブータンで若い世代を中心に人気のサッカー。伊藤選手の所属するリーグは、首都ティンプーにある7つのチームが参加し、ブータンの代表選手らが在籍している。試合のため、伊藤選手がスタジアムに姿をみせた。手に持っていたものは――
「2つしかないボールのうちの1つです」
このシーズンの残り試合はあとわずか。上位のみが参加できる国内リーグに進出するため、必ず勝つ必要がある。伊藤選手はこう語ってくれた。
「シーズンが短いから1回ケガしたり、レッドカードもらうとチームに迷惑かけちゃう」
現在は自身のプレーだけでなくチームメートの指導にもあたっている伊藤選手。ケガなどでここまでゴールが出ないなど、厳しいシーズンが続いていた。
「後期、僕がチームを仕切るようになってからまだ負けてないので、このまま連勝して ナショルリーグ(国内リーグ)に行ければ最高のかたちなんですけど」
そう話していた伊藤選手は、試合にスタメンで出場。背番号はこれまでプレーした国と地域の数とあわせた18番だ。チームは序盤、相手チームの攻撃にあい、失点。その後も一進一退の攻防が続く。そして後半、スタジアムがざわめく。伊藤選手がブータン移籍後、初となるゴールを決めたのだ。感情をあらわにしてチームメートと喜びを分かち合う。伊藤選手のゴールもあって、チームは勝利。その後の試合にも勝ち、次のリーグへ進むことが決まった。伊藤選手は試合の感想を笑顔でこう語ってくれた。
「ケガでしばらくまともにできていなかったので、ゴールから遠ざかっていたんですけど、1点とるとね、気持ちが良いものですね」
これまで、いくつものリーグで初の日本人選手となってきた伊藤選手には、ある思いがあった。
「日本代表ではないけど、僕の活躍とか出来次第で今後、日本人が続くかどうかということにもなってくる。常に日本代表のつもりでプレーしています」
毎年、新たな国でプレーすることをテーマとしている伊藤選手。旅はこれからも続く。