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【解説】トランプ氏とバイデン氏に明暗 米大統領選

2023年5月12日 19:01
【解説】トランプ氏とバイデン氏に明暗 米大統領選
トランプ氏は起訴後、共和党内での支持を拡大し、大統領選候補者レースでトップを独走する

来年行われるアメリカ大統領選挙まであと1年半。ワシントンでは早くも「またバイデン大統領対トランプ前大統領の構図になるのでは…」という雰囲気も漂い始めている。ただ、訴訟などの不安材料もありながら支持を固めていくトランプ氏に対し、再選出馬を表明したバイデン大統領は早くも逆風にさらされている。「ダークホース」であるデサンティス・フロリダ州知事の動向も交え、最新の情勢を解説する。(ワシントン支局・渡邊翔)

■「天敵」CNNに7年ぶり出演のトランプ氏、番組は大荒れ

5月10日の夜、トランプ氏が向かい合っていたのは「天敵」であるCNNテレビのキャスターだ。「タウンホール」と呼ばれる市民も交えたCNN主催の対話集会に出席したのだ。大統領時代からCNNを「フェイクニュース」だと目の敵にしてきたトランプ氏。出演は実に7年ぶりだ。

「(24年大統領選の候補になった場合、選挙結果は)公平な選挙であれば受け入れる」「もし(バイデン政権が)大規模な歳出削減をしないなら、デフォルト(=債務不履行に)させてしまえば良い」

会場に集まった共和党支持者からは、「トランプ節」のたびに大きな拍手が起きる。トランプ政権でホワイトハウス担当記者だったキャスターの質問をたびたび遮り、観客に語りかけるようなスタイルで持論を展開した。発言の中には「2020年の大統領選挙では不正があった」「ウクライナにあまりに多くの軍事支援をしているため、我々は自分たちで使える弾薬がもうない」など、”誤情報”の発信も目立った。CNNは放送直後から「ファクトチェック」の記事を掲載して対抗したものの、米メディアは、トランプ氏をゴールデンタイムの番組に生出演させたことに対し、CNNが「大惨事だった」などと厳しい批判にさらされたと報じた。

■起訴でも敗訴でも落ちない支持率…「敵」を作るスタイルが生む「トランプ引力」

9日に発表された「モーニング・コンサルタント」の調査では、野党・共和党支持者の中で、トランプ氏の支持率は何と60%。2位のデサンティス・フロリダ州知事(19%)を大きく引き離してトップを独走する。3月末に不倫の口止め料支払いをめぐって起訴された後、デサンティス氏との差はむしろ拡大。自らを「被害者」と位置づけ、「敵」と戦う姿勢をアピールして岩盤支持層を固める「トランプ・スタイル」の底力が改めて示された。

9日には、ニューヨークの連邦地裁がトランプ氏の90年代の「性的虐待」の責任を認め、6億円を超える損害賠償の支払いを命じたが、アメリカではこの敗訴の影響も限定的だとの見方が強い。今回のCNNへの出演も、「敵地」に乗り込み、戦う姿勢をアピールした形になり、米メディアは、「前回の大統領選以後のどんな出来事よりも、トランプ氏が共和党の大統領候補になる可能性を高めることになったかもしれない」と評している。

ワシントンを長年取材するアメリカのあるベテラン記者は、逆風にさらされても、そのたびに支持者に強烈に働きかけて支持を回復させてしまうトランプ氏を「磁石のようだ」と評する。「ある種の引力が、何があっても、共和党の人々をトランプに引き戻してしまうんだ」。

一方、共和党のもう一人の有力候補、デサンティス知事は、トランプ氏に差を広げられて苦しい戦いが続くものの、なお出馬に向けて準備を進めている。4月には日本など4か国を歴訪し、外交手腕もアピール。知事周辺のひとりはNNNに対し、現状では6月初旬に正式に出馬を表明する可能性が高いと明らかにした。この側近に、トランプ氏に差をつけられる中、逆転に向けてどのような戦略を描いているのか尋ねた。

「まず、トランプ氏が、国境の壁建設など、公約したことを達成できなかったということを示す。その上で、『若者と老人』『米軍にいた経験の有無』『起訴された人とされていない人』など、とにかく2人のコントラストを強調する。トランプと政策の方向性は同じだが、劇場型すぎない真面目な人間だ、とアピールするべきだ」

この戦略だけで、トランプ氏を逆転できるかは疑問が残る、ただこの側近はさらに、「機密文書の扱いをめぐる捜査など、より深刻な事案でトランプ氏がさらに起訴された時に、有権者がどう反応するかだ」とも語った。別のシンクタンク関係者も「起訴が2つめ、3つめと出てくるのをじっと待ち、その瞬間に『反トランプ』『新世代の候補者』を打ち出して反トランプ票をまとめる、これしか道はない」と指摘していて、トランプ氏の「訴訟リスク」が、共和党予備選挙を左右する最大のファクターになる構図は変わっていない。

一方、現職のバイデン大統領は先月末に再選出馬を正式に表明したばかりだが、わずか2週間後に公表された世論調査の数字が波紋を広げている。5月7日に公表された有力紙ワシントンポストなどの世論調査で、バイデン氏の支持率が就任以降最低の36%に下落。さらにトランプ氏との直接対決を想定した設問では、バイデン氏支持38%に対し、トランプ氏支持が44%と上回った。大きな争点となる経済政策をめぐっても、「トランプ政権時代の方が良かった」と答えた有権者が54%と、バイデン氏(36%)を大きく上回ったのだ。

80歳と高齢のバイデン氏だが、再出馬で与党・民主党内がまとまった背景には「トランプ氏に勝てるのはバイデン氏しかいない」という認識が強く影響していた。今回の調査は数ある世論調査のひとつではあるものの、この「前提」が崩れたことで、バイデン氏の今後の支持固めに影響する可能性は否定できない。アメリカメディアも「再選活動に大きな打撃」などと報じている。

さらにバイデン大統領は債務上限引き上げをめぐる野党との交渉や、新型コロナウイルスの「公衆衛生上の緊急事態」終了に伴う移民の流入など、対処すべき課題を数多く抱える。「前途多難」の状況の中、この逆風を乗り越えられるかどうかが、再選にむけて最初の試金石になる。