【入管法を考える】就労マッチングで難民支援に新たな切り口を NPO代表・渡部さんに聞く
外国人の強制送還に関する規定などを盛り込んだ入管法改正案の審議が国会で行われている。賛否が割れる中、難民支援の現場を知る専門家はどうみるか。就労マッチングという切り口で難民を支援するNPO法人「WELgee」代表の渡部カンコロンゴ清花氏に聞いた。
──入管法改正案についてどのように評価しますか
難民申請中の当事者と日々接する中で、「この人はなぜ認定されないのだろうか」というケースが多々ある。たとえば、アフリカの独裁国家で政権の腐敗を告発したため、国家権力に命を狙われている人。シリア出身で泥沼化した紛争から日本に逃れたが、兵役を拒否したため反政府支持とみなされる可能性がある人。こういった人たちが難民申請を却下されてしまうという現実がある。現状の厳しい難民認定率のまま「スリーアウトで強制送還」というシステムに変更すれば、命に関わる問題となる。
(注:現在の入管法では、難民申請中は強制送還されない規定となっているが、改正案では、3回目以降の難民申請者は相当の理由が提出されない限り、強制送還が可能になる規定を盛り込んでいる)
──3回目以降の難民申請者を強制送還できるようにする規定にはどのような懸念がありますか
入管が「“真の難民”ではないのに難民申請をして強制送還を逃れている人がいる」という問題意識を持っていること自体は理解できる。しかし、保護すべき人をきちんと保護するシステムがないにもかかわらずその考え方を適用すると、強制送還されれば命が危うい人たちが本当に命を落とすことにつながりかねない。難民条約等に加盟している人権大国として、まずは難民認定制度を改善していくことから始めなければいけない。「強制送還逃れ」という課題についてはそのあとに議論するべきだ。
──難民審査制度のあり方についてどのように考えますか
難民申請の結果が判明するまでには、平均4年4か月かかるというデータがある。私たちが支援している難民申請者の中にも、申請以降、入管からの連絡がまったくなく、審査のための面談にも7年間で1回も呼ばれていないという人がいる。時間がかかりすぎるうえに、審査プロセスがブラックボックス化しているという問題がある。そもそも、政治の意思が「難民保護」に向けて設定されていないというのが本質的な問題だ。「外国人管理」を判断軸とする入管が難民審査を担い、「難民審査参与員」も政府が任命する仕組みとなっているようでは、独立性があるとはいえない。政府から独立した第三者機関の創設が必要だ。
──入管法改正案をめぐる与野党の修正協議が白紙になりましたが、こうした経緯をどのようにみましたか
第三者機関の創設に関する記述が消えてしまい、議論が振り出しに戻ってしまったと感じた。コマをひとつでも先に進めたかった。難民受け入れには、賛成・反対では割り切れないグラデーションがある。すべての難民申請者に難民性があるわけではないし、すべての難民申請者が制度を乱用しているというわけでもない。センシティブな問題だからこそ、エビデンスに基づいた慎重な議論を行うべきだ。
──「WELgee」ではどのような難民支援を行っていますか
難民支援を行う中で、安定した在留資格を得ることが大事だと痛感した。そこで、2017年に難民申請中の外国人と日本企業をマッチングする「就労伴走」事業を立ち上げた。企業に専門業務で雇用されれば、難民申請中の「特定活動」を高度人材向けの「技術・人文知識・国際業務」に切り替えられる。これまでに388人の求職者が登録。22人の就職が決まり、9人が在留資格を変更することができた。
──どのような人たちを支援していますか
エチオピア出身でエンジニアとして働き、国費留学生として選抜された経験もある人。カメルーン出身で米国企業のプロジェクトマネジャーとして働いていた人。シリア出身で最難関大学を卒業した人や、イラン出身で新薬開発に携わった経験のある人もいる。
──受け入れる側の日本企業にはどのようなメリットがありますか
難民申請者の中には高い語学力や技術力、経営者やコンサルタントなどの経験を持つ人も多い。そうしたスキル・専門性に加えて、逆境を乗り越えてきた経験は日本企業においてもイノベーション創出につながる。
たとえば、ヤマハ発動機はWELgeeのプログラムからこれまでに2名を採用している。アフリカ進出のために現地事情に精通する人材を探していたところ、難民申請中のアフリカ出身者とうまくマッチングすることができた。彼らはアフリカ新規事業開拓チームに参画し、現地出張を重ねるなど、語学力や知見を生かして活躍している。
──就労支援事業を通して社会をどのように変えていきたいですか
「日本には難民は来ない」と思っている人も多いが、企業で活躍する人材を増やすことで、難民受け入れをポジティブなイメージに変えていきたい。迫害されている人をいかに保護するかという切り口だけでなく、ビジネスを通じて難民を支援するという新たな切り口を開拓していきたい。