【解説】難民申請「無制限→上限2回」ナゼ? 強制送還の新ルール、入管法改正案 閣議決定
政府はきょう、入管法の改正案を閣議決定した。「難民申請の上限2回は譲れない」入管庁幹部がそう強調する強制送還の新ルールも盛り込まれ、国会での激しい論戦が予想される。入管法はどう変わろうとしているのか?内容とその背景を解説する。
■そもそも入管法って?
入管法=正式名称「出入国管理及び難民認定法」は、日本を出入りする全ての人を管理するための法律だ。外国人が日本に滞在するためのルールや、それに違反した場合の入管施設への収容、強制送還などが定められている。
時代とともに改正が重ねられ、おととしも、国会に改正案が提出された。しかしその年、名古屋の入管施設に収容されていたスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が亡くなり、入管施設での処遇や長期収容などをめぐって批判が噴出するなどし、廃案となっていた。
■難民申請“2回まで”
政府がきょう閣議決定した改正案は、おととし廃案になった旧法案に一部修正が加えられたものの、骨格は維持された。今回の改正案の主なポイントは…
【1.難民申請は原則2回まで】
これまでは難民申請の回数に制限は無く、申請中は強制送還されなかった。改正案では申請回数に上限を定め、原則2回とし、この2回で難民と認められなければ、強制送還の対象となる。
【2.監理人による「監理措置」制度】
現行法では、在留資格がない外国人は原則、入管施設に収容される。改正案ではこの「原則収容主義」を見直し、親族や支援者など入管が認めた「監理人」の監督の下であれば、入管施設の外でも暮らすことができるようになる。
■入管法なぜ変える?
政府が入管法の改正を目指す目的は、主に2つ。
1つは、不法に日本に残り続ける外国人の早期の送還だ。入管庁の統計によると、2021年12月時点で、母国への送還を拒否する国内の外国人は3224人。そのうち3割以上に前科があった。事件の種類は薬物関連が多いが、中には性犯罪や殺人も。また、送還を拒否する外国人の約半数の1629人が難民申請中だという。
現在の入管法では、難民申請中の外国人は送還されない。そのため入管庁は、在留資格がなく送還対象であるにもかかわらず、難民申請を繰り返しながら日本に留まり続ける外国人の存在を問題視してきた。
これに対処するため、改正案では「難民申請の回数は原則2回まで」とし、3回目以降の申請は、送還の対象とした。さらに、飛行機で暴れるなどして送還を妨害する行為を取り締まるため、罰則付きの退去命令制度を新設した。
目的のもう一つは「原則収容主義」の転換だ。
これまでの入管政策では、在留資格がない外国人は原則として、入管施設に収容されていた。だが、おととし、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋の入管施設で亡くなったことをきっかけに、入管施設での処遇や長期収容に対し、より厳しい視線が向けられるようになった。
今回の改正案で盛り込まれた新制度の「監理措置」では、逃亡の恐れなどがない場合で、国内の親族や支援者など入管庁側が認めた「監理人」の監督のもとであれば、送還されるまで、収容施設の外で生活を送ることができるようにした。
また旧法案にも修正を加え、入管施設に収容中の外国人についても、3か月ごとに収容の必要性を見直し、必要がないと判断された場合は、監理措置に移行できるようにした。全て収容するのではなく、施設外で生活できるための選択肢を増やし、長期収容の解消につなげる狙いがある。
ただ、改正案に対する批判の声はすでに大きくなっている。
そもそも、日本は難民申請数に対して認定される件数は極めて少なく、さらに今回の改正案で、申請回数にも制限を設けることに非難の声が集中している。「全国難民弁護団連絡会議」は声明で、「真の難民であるのに難民と認められなかった者が、申請を繰り返した場合も強制送還がなされ、迫害の危険にさらされてしまう」などと懸念を示した。
また「原則収容主義」からの転換についても、施設への収容期間の上限を明記しない限り、長期収容の問題解決につながらないとの意見が相次ぐ。ウィシュマさんの妹のワヨミさんも今年1月の会見で、収容の期限を設けなければ「姉(ウィシュマさん)みたいに犠牲者が出るのは当たり前のことになっちゃう」と訴えた。
入管庁の幹部は、今回の改正案について「けしからんという人はいるが、必要な法改正だ。しっかりと必要性を説明する」と話す。また、議論の最大の焦点になりそうな強制送還の新ルールについても「難民申請の上限2回は譲れない」と強調した。
紆余曲折を経て、再び国会で議論されることになった入管法改正案。激しい論戦が予想される。