あと5か月なのに…五輪熱狂ない市民のワケ
夏のリオデジャネイロオリンピック開催まで約5か月となったが、舞台となるブラジルでは市民生活に異変が起きている。オリンピックを迎える街の「いま」を取材した平本典昭記者がリポートする。
今月上旬に行われたカーニバル。この熱気は毎年変わらないが、オリンピックを前に市民生活に異変が起きていた。
大都市サンパウロ。ここには、富裕層がタクシーとしてヘリコプターが使えるサービスがある。2年前は10機がフル稼働する人気ぶりだったが、状況は一変した。「ヘリタクシー」の業者は「客は2年前の半分に減りましたよ。ヘリも売ったし、パイロットも減らしました」と話す。
人気サービスが一転した「苦境」となった原因は、ブラジル経済の悪化だ。南米の大国・ブラジルでのオリンピック開催が決まったのは2009年。著しい経済成長を遂げるさなかだった。
ところが、直後から成長率は急激に落ち込み、2015年はマイナスに。通貨レアルが下落し、物価が上昇、内需も振るわないのが現状で、大都市でもシャッターが閉まったままの店が目立つ。
その影響がオリンピック開催にも出始めている。オリンピック会場と街とを結ぶ地下鉄の工事現場。資金繰りが厳しく、工事が遅れているのだ。一部区間は建設断念にすら追い込まれている。
専門家によると、国民の心理状態にも変化が出ているという。
ブラジル経済が専門のトレンゴウゼ教授「ブラジル国民の気分は、(サッカーの)ワールドカップほど高まっていません。失業率は高くなり、経済成長率も悪いですから」
サンパウロ郊外に住むロベルトさん一家の元を訪ねた。ロベルトさんは7歳の娘と妻・イネスさんとの3人暮らしだが、5年前に職を失い、15万円だった月収は3万円ほどに減った。
イネスさん「昔は日曜に家で夕食なんてありませんでしたよ。いつも外食でしたから。娘の将来が、いまの私たちより良くなっていることだけ願っています」
生活が苦しさを増す中、ロベルトさん夫妻は「オリンピックは、賛成ではありません。生活に何の変化も、もたらしません」(ロベルトさん)、「オリンピックなど気にかけていません。考える余裕もありません」(イネスさん)と話す。
経済の悪化で歯車が狂い始めたブラジル。熱狂の中で大会を迎えることはできるだろうか。