【コラム】アメリカ大統領選 “ハリケーン対応”が勝敗の分け目か…激戦州ノースカロライナの被災地を歩く(後編)
アメリカ国内で200人以上の死者を出した、ハリケーン「へリーン」の上陸からまもなく1か月。うち96人が死亡した最大の被災地であり、大統領選挙の激戦州であるノースカロライナ州を訪れた。ハリケーンのインパクトは、大統領選の勝敗にどの程度影響するのか?
(NNNニューヨーク支局長・気象予報士 末岡寛雄)
<前編から続く>
■“災害”の選挙への影響は?
被害が大きかったアッシュビルがあるバンコム郡では、被災エリア以外でも“意外な影響”が続いていた。…水道水が茶色いままなのだ。宿泊したホテルの蛇口をひねると水は濁っていて、ペットボトルの水で歯磨きをしないといけない。水道水が衛生的ではないので、スターバックスなどコーヒーショップは軒並みクローズ。レストランも紙皿やプラスチックのフォークで営業を続けていて、コーラやジンジャエールはグラスではなくて缶のままで提供された。
そんな中、ノースカロライナ州では10月17日から期日前投票が開始されている。被害が大きかったバンコム郡では、もともと14か所の投票所が設けられていたが、災害の影響で4か所が閉鎖されている。閉鎖された投票所を回ってみたが、どこも洪水で建物が損壊したわけではなく、ボランティアなど「人手が集まらないこと」が理由だという。地元の選挙管理事務所は、投票場所を変更できるようにするなどの対策を取っている。
期日前投票所を数か所、回ってみたが、どこも午後は大行列となっていた。災害の影響で投票どころでない人がいるのか、被災者や避難所の係員、有権者に聞いてみたが、取材した範囲では、災害で投票に行けない人が多くいるという話はあまり聞かれなかった。
■「災害対応」を争点化…トランプ氏は“偽情報”を発信
ノースカロライナ州の選挙人は「16人」。激戦7州のうち、ペンシルベニア州の「19人」に次ぐ大票田だ。勝敗を占うノースカロライナ州の支持率の差は、トランプ氏がわずか0.6ポイントのリードとなっている。(10月25日現在 リアル・クリア・ポリティクスより)
そんな大接戦の中、トランプ氏は災害と政治を意図的に結びつけ「復興のための政府機関(FEMA)の予算が、不法移民のために使われている」と虚偽の主張を繰り返す。
これに対し、民主党候補のハリス副大統領は「トランプ氏が特にハリケーンの生存者に対し、多くの誤った情報や不正確な情報を流している」と猛反発。FEMAはトランプ氏の主張などについて事実を説明するためのウェブページを立ち上げて、虚偽の情報に惑わされないよう注意を呼びかけている。
ニューヨーク・タイムズは「ハリケーンの被害を受けた州西部のほとんどの郡は共和党が優勢だが、最大都市のアッシュビルは民主党が圧倒的に優勢で、投票率が低くなると選挙結果に決定的な影響を及ぼす可能性がある」と分析。NBCは「投票率が低くなると、どちらの陣営にとっても勝敗を分ける可能性がある」と指摘している。
10月24日現在でバンコム郡では有権者のうち25%、すでに4人に1人が投票を終えているという。
甚大な被害をもたらしたハリケーン「へリーン」は選挙結果にどう影響を与えるのか。激戦州ノースカロライナ州が注目される。
◇◇◇
■筆者プロフィール
末岡寛雄
NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。趣味は音楽鑑賞。