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【解説】「フェイクニュース対策」の実態を探る――ファクトチェックには“弱点”も…気をつけておきたいこととは

2023年7月7日 21:33
【解説】「フェイクニュース対策」の実態を探る――ファクトチェックには“弱点”も…気をつけておきたいこととは

「フェイクニュース」に注目が集まる中、さまざまな機関が積極的にファクトチェックや、検閲などを通じて「フェイクニュース対策」に取り組むようになった。一方で、このフェイクニュース対策の活動には、不透明な側面や課題が多い。(国際部 内山瑞貴)

■フェイクニュース対策の裏側

ネット上などに溢れている偽情報、いわゆる「フェイクニュース」が増え続ける中で、その対策も活発になってきている。

例えば、フェイスブックを運営するアメリカのIT大手「メタ」は2022年3月、ウクライナのゼレンスキー大統領の偽動画を見つけ、削除した。

ロシアのSNSに投稿されていたのは、ゼレンスキー大統領がカメラに向かって話す動画。しかしよく見ると、大統領の頭部の色が不自然に見える。メタによると、この偽動画は「ディープフェイク」というAI技術を使って作られたものだということだ。

アメリカメディアによると、ゼレンスキー大統領の偽動画はユーチューブでも見つかり、削除された。

このように、さまざまな機関が積極的にフェイクニュース対策に取り組むようになったが、この「対策」自体もまだ十分ではない。問題をたくさん抱えているという実態を探っていく。

■問題(1) ファクトチェックをめぐる問題

まず1つ目は、ファクトチェックをめぐる問題だ。アメリカを拠点とするファクトチェックのサイト「PoliteFact」は、政治に関連する主張や声明を「真実」「半分真実」「誤り」などと評価し、なぜそのような判断になったのか、そのプロセスや情報源を記載する活動を行っている。

ただ、このようなファクトチェック活動の大きな問題の1つに、「検証の対象国に偏りがある」という面がある。例えば、カナダのあるシンクタンクが2022年まで行ったファクトチェックを見ると、「3分の2」はロシアが対象となっている。

一方で、ファクトチェックの対象となりにくい国もある。

アメリカ政府は2022年3月、「ロシアが化学兵器を使用する準備をしている可能性が高い」と発表した。しかしこの発表については、3週間以上経って、アメリカメディアが「ロシアに対する『情報戦』の一環であり、証拠がなかったことを当局者が認めた」と報道するまで、この情報を検証するファクトチェックは出てこなかったのだ。メディア研究者らは、西側諸国のファクトチェックの対象が敵対国に偏っていることに懸念を示し、自国の情報も同じ基準で厳密に検証すべきだと主張している。

■問題(2) 「検閲」をめぐる問題

2つ目は「検閲」をめぐる問題だ。「検閲」とは、SNS会社などのビッグテック企業が自ら、あるいは政府などから要請を受けて、偽情報とみなされた投稿の削除、表示制限、あるいは発信したアカウントの停止といった措置を講じることを指す。

2022年末から2023年にかけてツイッターから流出したとされる内部文書「ツイッター・ファイル」をご存じだろうか。この文書には、“アメリカの政府機関が偽情報を発信しているなど、疑わしいと判断したアカウントをまとめたブラックリストを複数の民間団体と共同で作成し、ツイッターにその削除や表示制限を要請している”との主張が書かれている。これが事実かは分かっていないが、もし情報統制のプロセスに政府が大きく関わっているとなると、政府に都合の悪い情報を隠すことも可能になってしまう。

■メディアリテラシーを高めるためには

これまで見てきたファクトチェックや検閲などの問題点を考えると、情報が正しいのか、間違っているのか、誰かに判定してもらうことには限界があり、かえって危険な面もあるように感じる。やはり自分でフェイクニュースを見抜く力を高める必要がありそうだ。

そこで、メディアリテラシー、つまりフェイクニュースに惑わされずに情報を得るための「教育」がカギとなるだろう。教育といっても、今は子供だけでなく大人も学べるツールが多く開発されている。

オランダで作られた「Bad News」というオンラインゲームがある。プレーヤーがフェイクニュースを扱うサイトの制作者になって、実際にフェイクニュースの作成などを行う。

例えば、選択肢の中から「ビタミンCサプリには放射性廃棄物が含まれている」というような、人々が食いつきやすいインパクトのある内容をSNSに投稿することを選ぶことで、左側にある“偽の信頼性のバロメーター”を上げ、できるだけ多くのフォロワーを獲得する…というものだ。

こうした“フェイクニュースを流す側の意図”を知ることで、フェイクニュースそのものへの意識を高める狙いがある。

また、2022年のメディアリテラシー・ランキングで欧州で1位となったフィンランドでは、「情報を鵜吞みにしない」ための教育にも力をいれている。

    ◇

アメリカはかつて、イラク戦争のときに“イラクが大量破壊兵器を持っている”ことを根拠として戦争を始めた。しかしその後、そうした兵器はなかったことが明らかになっている。

国際社会の中で、特に戦争などが絡む際には、世論を誘導するために誰かが意図的に偽の情報を流すことがある――こうした可能性を頭に入れておくだけで、情報の見方も変わってくるのではないだろうか。

「今、このタイミングで言っているということは、こういう意図をもって言っているのかもしれない…」と、一歩引いて物事を冷静にとらえてみる。ニュースの背景を考えてみる。こうした習慣をつけるということが、大切になる。