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ロシアの攻撃受ける最前線都市…ハルキウの今 市長語る「地下の学校」

2024年3月30日 14:39
ロシアの攻撃受ける最前線都市…ハルキウの今 市長語る「地下の学校」

2月、ロシアによる軍事侵攻は3年目に入った。ロシアとの国境に近い東部の大都市ハルキウは、日常的に砲撃や無人機による攻撃の脅威にさらされている。侵攻が長期化するなか、子ども達の学ぶ場が地下に移るなど、「新たな日常」を模索する動きも。戦時下の学校教育や市民生活を守るため指揮をとるイホル・テレホフ市長がNNNの単独インタビューに応じた。(国際部・坂井英人)

ロシアとの国境からわずか30キロほどに位置し、侵攻開始直後には市街戦が展開されたハルキウ。侵攻開始前の人口約200万人から大きく減ったものの、いまも約130万人が暮らすウクライナ第2の都市だ。2月、NNNの取材班がハルキウに入った際は、破壊された建物は目につかず、店舗も営業し人通りもあるなど、一見すると通常の市民生活が維持されていた。

しかし、市内を取材し始めると、生々しい攻撃の爪痕が次々に現れる。そして、直前に滞在していたキーウに比べ段違いに多い空襲警報の数が、ここがロシアの攻撃の脅威にさらされる最前線の街であることを如実に物語っていた。

ハルキウ市内では相次ぐミサイル攻撃のため学校での授業ができなくなり、全面的なリモート授業を余儀なくされている。その中で去年9月に始まったのが、地下鉄の施設に教室を設置した「地下鉄学校」だ。5つの駅にそれぞれ1クラス20人ほどの教室が複数あり、日本の小学校から高校にあたる1年~11年生、約2200人が通っている。

シェルターも兼ねた地下の教室では空襲警報も聞こえず、友達と席を並べて楽しく授業を受ける子ども達の笑顔があった。ただ、市内の学校に在籍する約10万9000人のうち、この地下鉄学校に通えるのはほんの一握りだ。

ハルキウ市は地下鉄学校に加え、より多くの子ども達が一度に通える専用の地下校舎の建設も進めている。こうした計画の陣頭指揮をとるハルキウ市のイホル・テレホフ市長が今回、NNNの単独インタビューに応じた。

■「子ども時代」を奪わせない・・・地下鉄学校のわけ

――なぜ「地下鉄学校」を作ったのか?

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「これは(不本意だが)やらざるを得なかったことです。我々は子ども達の学ぶ機会を確実にするために、できる全てをしなければなりません。砲撃が続き、ハルキウの空が完全に守られない現状では、子ども達がそうした学びの機会を得ることができません。だから『地下鉄学校』を作らざるを得なかったのです」

――リモート授業ではなく、実際に通える場を作ることの意義をどう考える?

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「人生は一度きりです。敵(ロシア軍)が我々の子ども達の『子ども時代』を奪うことはできません。学校という場は子ども達にとってとても大切です。(去年)9月1日に(地下鉄)学校を開いてから、私たちは子ども達同士のふれあいを目にしてきました。最初はおびえていた子ども達が、今は全く違った姿になりました。彼らは楽しそうに、互いに関わり合っています。これは私たちにとっても非常に重要なことです」

――専用の地下校舎も建設している。こうした地下の学校を今後も増やす?

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「残念ながら、その通りです。敵(ロシア軍)はどこにも去って行かないし、ハルキウへの攻撃はさらに頻度が高まっています。子ども達にとって大きな危険があり、命を守るためにも本来の(地上の)学校は再開できません。しかし子ども達は学ばなければなりません。今後も徐々にこうした(地下の)学校を作っていくことになると思います」

■地上で授業再開のためにも「防空システムを」

インタビュー中、テレホフ市長は地下の学校について「作らざるをえなかった」「残念だ」などと、本来あるべき学校の姿ではないとの思いを言葉の端々ににじませた。地下鉄学校には子ども達が遊ぶためのおもちゃが用意されるなど、できるだけ快適に過ごせるよう工夫がこらされているが、走り回るスペースもなく、外も見えない閉鎖的な空間だ。テレホフ市長は本来の地上の校舎での授業を再開するために最も必要なのは、ミサイルや無人機攻撃を防ぐ最新の防空システムだとして、西側に供与を求めた。

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「『2年』という節目は2月24日というこの1日にしかありませんが、実際のところハルキウは2年間、戦時下にあるのです。静かな日は1日もありませんでした。空襲警報や、爆発のない日は1日もありません。私たちは自分たちや子ども達の生きる権利のために戦っているのです」

「我々の空を(防空兵器で)『封鎖』することは可能です。実現するためには、現代的な防空システムが必要で、世界にはそれを持つ国があり、いま非常に必要とされています」

「空を『封鎖』することができれば、人々は安全だと感じ、本物の(地上の)学校も再開できます。だからこそ、今日のハルキウが抱える第一の戦略的な課題は防空なのです」

■「この街は我々のふるさと」

侵攻開始前より人口が減ったものの、今なお130万人が暮らすハルキウ市。ロシアによる攻撃が日常的に行われる中、人々がこの街で暮らし続けることについてテレホフ市長は、「街の防衛能力にも貢献し、住民もそれを理解している」と話した。

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「いままでもハルキウは快適な都市でしたし、私たちは清潔さを非常に重視しています。これは私たちの精神に関わることです。市は人々に(暮らしやすい)環境を作り出しています。戦争がもたらす諸々の恐ろしさに関わらず、暖房・温水・電気は供給されています」

「2022年2月24日以降、多くの人が街から逃れました。戦争前に200万人近かったハルキウの人口が30万人あまりにまで減った時期もありました。しかし(ウクライナ軍のハルキウ州での反転攻勢が成功したあと)人々は戻ってきました。まず第一に、この街は我々のふるさとだからです。我々はこの街を非常に愛しているのに、なぜそのふるさとを離れなければいけないのでしょう?確かに戦争が続いています。人々はこの街に暮らし続けることがお互いを助け、ひいてはハルキウやその防衛能力の支えにもなると信じているのです」

最後に、日本の支援について感謝の言葉も口にした。

ハルキウ市 イホル・テレホフ市長
「日本政府と日本の人々の支援に感謝しています。(日本は)軍事的な支援はできませんが、我々はすでに(発電機など)公共事業向けの様々な機器を受け取っています。我々の地下の学校についても、空調設備の支援について日本と話し合いが行われています。こうした支援に非常に期待しています」

「2年間、静かな日は1日もなかった」とテレホフ市長は語った。ハルキウにはあちこちに攻撃の爪痕が残り、増え続けている。にも関わらず地下鉄が運行し、インフラが機能し、130万人が暮らし続ける現実をみると、地下鉄教室に掲げられていた「壊れない街 ハルキウ」というフレーズには単なるスローガン以上の重みを感じた。

新たな地下校舎は基本的な工事が完了し、早期の運用開始を目指して準備が進められている。ロシアの侵攻によって子ども達の学びの場が大幅に制限されるなか、長期化という現実に向き合い、理想の形でなくとも「子ども時代」を守ろうとするハルキウ市の戦いは、残念ながらこれからも続くことになる。

※インタビューは2024年2月20日に実施