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コロナ独自路線スウェーデンから何を学ぶか

2020年11月15日 10:18
コロナ独自路線スウェーデンから何を学ぶか

フランス・ドイツ・イギリス…新型コロナウイルスの第2波によりヨーロッパ各国は2度目のロックダウンに追い込まれた。感染の第一波を乗り越えこれから経済の立て直しをと期待していた人々の間には失望感が広がっている。こうした中、独自路線を貫いているのが北欧スウェーデンだ。国の感染対策を指揮する公衆衛生学者のテグネル氏はパンデミックが始まってから一貫して「人々を家に閉じ込める対策は長期間続けられるものではない」「ロックダウンは経済や人々の精神面への“副作用”が大きい割には感染抑制の根拠に乏しい」と主張。他の国とは異なった緩やかな規制を続けている。

スウェーデンのやり方を単純に他の国に当てはめることはできないが、そこから何を学ぶことができるのか。現地の実情を取材した。

■市民「ロックダウンしなかったおかげで…」

今月7日、首都ストックホルムに取材に出ると目抜き通りは大勢の人で賑わい、人々はレストランで食事を楽しんでいた。ロックダウンに追い込まれたヨーロッパの主要都市とは対照的な光景だ。スウェーデンの感染対策は消毒を徹底する、人との距離を保つ、大人数の集会は禁止するといった基本的なものだ(ただし、マスクの着用は積極的には推奨されていない)。
歩いている人に話を聞いてみるとその多くから共通する答えが返ってくる。「ロックダウンしなかったことで精神的な安定を保てている」というものだ。ロックダウンはせずに長期的に可能なレベルの感染対策を継続するというスウェーデン政府の方針は一定程度、国民の理解を得ているようだ。


■ロックダウンしなかったから死者が大きく増えたとはかぎらない?

一方で、スウェーデンで深刻な被害が出たことも事実だ。イギリス王立医学協会はスウェーデンについて「近隣諸国と比較すると感染率、入院率、死亡率が高い」と指摘。人口が1千万人程度にも関わらず6000人以上が新型ウイルスで亡くなっていて、人口比で見れば数万人単位の死者が出ているヨーロッパの主要国と同水準だ。

「割合的には東京都で6000人以上が命を落とすレベル」と聞けばいかに大きな被害か分かるだろうか。スウェーデン国内でも「間違った施策によって多くの命が失われた」との指摘する専門家もいて、私たちのストックホルムでの取材でも「守るべき人達、つまり病気の人たちやリスクグループの人たちよりも、経済的な面を重視してしまった」と疑問を投げかける人もいた。

これだけ死者が出ているのだからロックダウンをしなかったのは失敗ではないのか?この問いに対しスウェーデン政府はロックダウンをしたからといって被害が抑えられたという根拠はないとの立場を示している。スウェーデンでの死者の多くは高齢者でその大半は高齢者介護施設にいた。死者の増加はこの高齢者介護施設の医療体制が不十分だったことが大きく影響し、ロックダウンを行わなかったことと直接の因果関係は無いというのだ。高齢者施設で多くの死者が出たのは、ロックダウンしたイギリスやフランスなどでも同様に起きた問題だった。スウェーデン政府も「ロックダウンはしない。それで死者が出るのは仕方ない」と主張しているわけではない。春の第1波の際は、ピークが来る前に集中治療室の病床を倍増したほか、野戦病院を設けるなど先手を打って医療崩壊を防いでいる。また第1波で多くの被害が出た高齢者介護施設の医療体制については現在、感染対策強化がはかられているという。

■現地日本人医師が語る~ロックダウンなしを貫くことの意義

私達はスウェーデンの感染対策から何を学ぶことができるのか。ストックホルムの大学病院に勤務する宮川絢子医師に話を聞くと、興味深い答えが返ってきた。

宮川医師
「スウェーデンが他の国と違う対策をとったことにより、今後検討できる範囲というか、可能性が広がったのではないかと思います。スウェーデンもロックダウンしていたら『しなかったらどうなるのか』というのを検証するのは難しかったのではないかと。スウェーデンが独自の対策をとったことによって、(今後)理解できることが多くなるのではないかと思います。」

宮川医師はひとつの例として「学校の閉鎖」をあげた。ヨーロッパの多くの国では1度目のロックダウンの際に学校を閉鎖したが、その結果、イギリスでは子供たちの学力に深刻な影響が出たほか、精神状態にも負荷がかかっていたことが分かっている。一方、スウェーデンは学校を閉鎖せず、結果的に学校の現場で深刻なクラスターも起きなかった。ヨーロッパ各国は2度目のロックダウンの際はほとんどの国が学校を閉鎖していないが、第1波で学校を閉鎖しなかったスウェーデンの例が参考になっている部分は少なくないだろう。
感染拡大の勢いは当面収まりそうにない。各国は副作用に耐えながら今後もロックダウンを続けるのか判断を迫られる。その際にスウェーデンの例が検証されることになるかもしれない。
ところで現地で暮らす宮川医師自身はスウェーデンの対策をどう見ているのか。スウェーデンは成功していると思うか質問してみた。

宮川医師
「感染対策だけを狭い視野でみて、感染による直接の死者だけということで考えるのではなく、やはり経済問題ですとか、子供の成長の問題ですとか、そういうことを色々な分野の方の力を合わせて、広い視野でみて決めていかなければいけないと思います。スウェーデンは様々な観点を考慮しているので、そういった姿勢はどの国にも必要になってくると思います。新型コロナウイルスの感染によって失われる命だけでなく、(経済や精神面などの問題で)間接的に失われる命というのは今後看過できないと思いますので、いろいろな方面から総合的に対策を考えていかなければいけない。スウェーデンの対策が良かったとは言いませんけど、このような姿勢は今後大事になってくると思います。」

■長期化するウイルスとの戦いをどう乗り切っていくのか

くしくもヨーロッパ各国では2度目のロックダウンに反対するデモが広がっている。深刻な打撃を受けている飲食業やエンターテイメント業界によるデモでは「これ以上は持ちこたえられない」という悲痛な声が上がる。強制的に経済活動を止め人の移動を制限するロックダウンは多くの市民の生活を破壊してしまう。

長期にわたる新型ウイルスとの戦いの中で感染によって失われる命だけでなく「間接的に失われる命」をどう守っていくのか。また子供の成長や学習への影響をどう低減させるか。国民との信頼関係のもとでゆるやかな規制を継続するスウェーデンの取り組みについては、WHO(世界保健機関)の専門家も「これから目指す新たな日常という意味で、多くの点で未来のモデルを象徴している」と評価している。宮川医師も指摘するように独自路線を貫いてきたスウェーデンの事例を比較・検証することの意味は少なくない。