返還から26年…静まりかえる香港 ねじ伏せられた“自由”「ここまで野蛮な統治に落ちて…」 語り続ける決意
香港返還から26年を迎えた。返還後50年は維持されるはずだった香港の「高度な自治」は、中国による統制によって徹底してねじ伏せられてきた。2019年の民主化デモを追った映画を制作し、今も香港に残って制作を続ける映画監督に、静まりかえる香港の現状を聞いた。
(NNN上海支局 渡辺容代)
■激変した香港…市民を覆う“白い恐怖”
1日でイギリスから中国に返還されてから26年を迎えた香港。その直前に現地を訪ねると、街には節目を祝う看板や、中国による統治をたたえるプロパガンダが至る所に掲示されていた。
「デモに参加した人々は、この道を通って立法会(香港の議会)へと進んでいったんです」――同行したカメラマンが指した先には、4年前、香港の人々が自由を求めて声を上げた幹線道路が延びていた。香港では今や、デモの名残を見つけることさえ難しい。
香港では返還後も、中国本土とは異なる制度を適用する「一国二制度」のもと、高度な自治が認められてきた。しかし2019年、香港で身柄を拘束された容疑者を中国本土に引き渡すことができるとする「逃亡犯条例改正案」の採択をきっかけに、抗議活動が大規模なものに発展した。
“混乱の収束”を名目に中国政府が介入し、翌年、反政府的な言論を取り締まる「香港国家安全維持法」が施行。これまでに市民やジャーナリストの逮捕が相次いでいる。
一見して日常を取り戻したかに見える香港だが、市民の中には息苦しさを感じる人も多い。香港国家安全維持法は「犯罪とされる行為」の定義が曖昧で、何が逮捕の理由になるのか分からないためだ。条文にはっきりと明記されていないことを指して、“白い恐怖”という表現も生まれているという。
■ねじ伏せられた自由「ここまで野蛮な統治に落ちて…」
民主化デモを追ったドキュメンタリー映画を制作したキウィ・チョウ監督に、香港の現状について聞いた。映画は香港では公開できないものの、2021年にカンヌ国際映画祭で緊急公開され、大きな反響を得た。タイトルは、デモのスローガンである「時代革命」。今の香港では、この言葉を口にすることさえ逮捕の理由となり得る。恐怖はないのだろうか…?
チョウ監督は笑いながら話した。
「映画の制作は秘密裏にやっていました。公開した後、追跡や嫌がらせを受ける覚悟はありましたが、意外とそうした行為はありませんでした。追跡や脅迫や拘束などがない理由は…1つ挙げるとすると、彼ら(当局)が映画の宣伝になりたくないのだと思います」
ただチョウ監督はすぐに表情を変え、香港国家安全維持法について、こう訴えた。
「ある人がひどい目に遭ったり、ある人が無事だったり…この法律は本当に『法律』なのでしょうか? 法治社会だった香港が、徹底した“人治”社会に変わってしまった」
「香港は元々、自由な文明社会でした。それがここまで野蛮な統治に落ちてしまった。これが今の香港の現状です」
■SNS投稿を問題視 中国「改正反スパイ法」施行…不当拘束に懸念
中国の暴力的なまでの言論統制は、香港だけに留まらない。今年3月には、香港出身の女子大学生が日本に留学していた際、SNSに「香港独立」に関する書き込みをしたとして逮捕された。
さらに中国ではスパイ行為の摘発を強化する法律が改正され、7月から施行される。中国政府による恣意(しい)的な運用が懸念されている。
中国への返還から50年間は守られるはずだった香港の“自由”。チョウ監督は、わずか3年で覆された香港の姿を通じて、「世界は中国の野心を理解したのではないか」と話す。
「中国は、自分たちの利益のために、香港の法治を無視して、人道主義、経済、全てを破壊しようとしている。これは世界中の人に大きな警告になる」
中国により沈黙を強いられた香港の実情は、ますます国際社会から見えづらくなっている。海外へ逃れる人も多い中、チョウ監督は香港に留まり続ける決意だ。
「やはり使命感があります。今の香港がウソだらけなことも耐えられない。香港で話せる人がいないから、僕が話していきます」