韓国「非常戒厳」の舞台裏 “民主主義を取り戻す”市民ら必死の抵抗…解除後も混迷さらに【バンキシャ!】
7日、バンキシャ!はソウルにある韓国の国会を目指し、車を走らせていた。
バンキシャ!
「道路の両側にはバス、車が埋め尽くすように停車しています」
国会が近づくにつれて、大型バスや車が増えていく。さらに進むと…。
バンキシャ!
「やっぱり入れないです、近くは」
車を降り、徒歩で向かう。前には同じく国会へ歩を進める多くの市民の姿があった。歩くこと、およそ50分。
バンキシャ!
「ようやく国会議事堂の目の前までやってきました。人で埋め尽くされています」
国会前の広い道路を埋め尽くした大勢の市民たち。プラカードを掲げ求めていたのは…。
「尹錫悦は退陣しろ!退陣しろ!退陣しろ!」
この日、国会では尹錫悦大統領の弾劾を求める議案の採決が行われることになっていた。
韓国・尹錫悦大統領
「自由憲政の秩序を守るために非常戒厳を宣言します」
3日午後10時23分、「非常戒厳」を宣言した韓国の尹大統領。「非常戒厳」が出されると、市民の活動は軍の統制下に置かれる。一切の政治活動が禁止され、メディアも統制される強力なものだ。
国中を混乱の渦に巻き込んだこの「非常戒厳」。だが、宣言からおよそ2時間半で解除が決まった。その間に一体、何があったのか。
バンキシャ!は市民が撮影した映像や証言を基にこの“2時間半”を検証。見えてきたのは、民主主義を取り戻そうとする人々の姿だった。
◇
7日、韓国の国会前。バンキシャ!は1人のソウル市民と出会った。29歳のキムさん。
──非常戒厳の宣言が出た時、どこで知って、どういう行動をとった?
ソウル市民・キムさん(29)
「あの日、私は友人と自宅にいて、SNSで非常戒厳が宣言されたことを知りました。そして国会に向かっている議員がいることも知りました。その議員がライブ配信をしていて、『国民は国会に集まるべきだ』と話していたんです」
そのライブ配信の映像。非常戒厳から約20分後、3日午後10時47分に配信しているのは、最大野党「共に民主党」の李在明代表だ。
最大野党「共に民主党」・李在明代表
「尹錫悦大統領が非常戒厳を宣言しました。これを解除するためには国会で採決をしないといけませんが、(大統領が)軍を動員して国会議員を逮捕する可能性がとても高い」
「国民のみなさん、国会に集まってください。国会を守ってください」
韓国の憲法は、「国会議員の過半数が解除を求める決議案に賛成した場合、大統領は非常戒厳を解除しなければならない」と定めている。
配信を見て、家を飛び出したというキムさん。非常戒厳を一刻も早く解除したい理由があった。
ソウル市民・キムさん(29)
「昔、非常戒厳によって多くの民間人が犠牲になったことを知っていました」
「光州(クァンジュ)で非常戒厳が出された時に何があったか、歴史の授業で学んだんです」
韓国で前回、非常戒厳が出されたのは1979年。その翌年、南部にある光州では、これに抗議する市民が軍と衝突。民間人だけで160人以上が命を落としたとされている。
YouTuberとして活動しているという60代の市民。
YouTuber(60代)
「(非常戒厳の宣言を)知人の葬儀中に電話で知り、国会を守らなきゃってタクシーに飛び乗ったんです」
YouTubeで生配信をしながら、国会を目指したという。その映像には、非常戒厳から1時間後の3日午後11時20分すぎ、門の前に到着。そこには、解除に向けた採決をするため議事堂を目指す議員や、それを手助けしようとする市民らが集まり始めていた。門をくぐろうとするが、警察官が盾を持って行く手を阻む様子が。
膠着状態のまま迎えた3日午後11時47分。ここで、ある“異変”が起きる。
「ヘリコプターが飛んでいる!ヘリだ!」
上空に軍のヘリコプターが…。
「あっちに下りようとしているぞ!」
すると、3日午後11時50分頃、警察官の制止を振り切り、一部の議員や市民らが敷地の中へ。撮影者も門をくぐり、議事堂へと向かう。まだ軍の姿は見当たらない。
しかし、まさにこの頃、敷地内にある運動場に軍のヘリが着陸。国会を制圧するため、およそ230人の兵士が降り立った。
その様子を目撃したというソウル市民(65)は、「家で焼いたチーズケーキを冷ましている時に、非常戒厳のニュースが出たんです」「(国会に)駆けつけると、ヘリが次々と下りてきて、このあたりには装甲車もきていました。そして、完全武装した兵士が歩いて行くのが見えたので追いかけたんです」と話す。
しかし、日付が変わる頃。非常戒厳から約1時間半、4日午前0時頃、ついに議事堂の入り口に兵士が姿を見せる。
議場には「非常戒厳」解除に向けた採決のため、議員らが集まっていた。市民らは兵士が建物に入ろうとするのを阻止する。
撮影者
「軍人は帰ってください!軍人は入ってくるな!」
すると…。
「ありえないよ。窓ガラスを割って入るなんて」
兵士は窓を割り、力ずくで議事堂の中へと突入した。今度は中で待ち構えていた人々が、兵士の前に立ちはだかる。消火器の噴射であたりは真っ白に。
議事堂のあちこちで続いた攻防。そして、非常戒厳が宣言されてから2時間半がすぎた4日午前1時。ついに…。
「非常戒厳の解除要求決議案が可決されました」
人々が守り抜いた議場で、“解除”を求める決議案が可決。議長が「戒厳の無効」を発表した。
民主主義を守ろうと国会に駆けつけた韓国の市民たち。採決に至ることができた背景には、軍隊側のトップの“ある決断”があったことも、明らかになった(韓国メディアによる)。
軍隊側のトップ
「議事堂に突入したら、議場の議員を引きずり出せと命令を受けていたが、明らかに違法行為にあたると思い、その命令を守らなかった」
“議場の議員を引きずり出せ”という命令に背いたという。
国会では7日、尹大統領の弾劾を求める採決が行われたが、投票数が規定に達しなかったため、採決は不成立となった。
弾劾採決を見守った市民
「不成立となったことに憤りを感じています。早いうちに弾劾を実現してほしい」
韓国メディアによると、検察は尹大統領に対し、内乱の疑いで捜査を始めたという。
(12月8日放送『真相報道バンキシャ!』より)
バンキシャ!
「道路の両側にはバス、車が埋め尽くすように停車しています」
国会が近づくにつれて、大型バスや車が増えていく。さらに進むと…。
バンキシャ!
「やっぱり入れないです、近くは」
車を降り、徒歩で向かう。前には同じく国会へ歩を進める多くの市民の姿があった。歩くこと、およそ50分。
バンキシャ!
「ようやく国会議事堂の目の前までやってきました。人で埋め尽くされています」
国会前の広い道路を埋め尽くした大勢の市民たち。プラカードを掲げ求めていたのは…。
「尹錫悦は退陣しろ!退陣しろ!退陣しろ!」
この日、国会では尹錫悦大統領の弾劾を求める議案の採決が行われることになっていた。
韓国・尹錫悦大統領
「自由憲政の秩序を守るために非常戒厳を宣言します」
3日午後10時23分、「非常戒厳」を宣言した韓国の尹大統領。「非常戒厳」が出されると、市民の活動は軍の統制下に置かれる。一切の政治活動が禁止され、メディアも統制される強力なものだ。
国中を混乱の渦に巻き込んだこの「非常戒厳」。だが、宣言からおよそ2時間半で解除が決まった。その間に一体、何があったのか。
バンキシャ!は市民が撮影した映像や証言を基にこの“2時間半”を検証。見えてきたのは、民主主義を取り戻そうとする人々の姿だった。
◇
7日、韓国の国会前。バンキシャ!は1人のソウル市民と出会った。29歳のキムさん。
──非常戒厳の宣言が出た時、どこで知って、どういう行動をとった?
ソウル市民・キムさん(29)
「あの日、私は友人と自宅にいて、SNSで非常戒厳が宣言されたことを知りました。そして国会に向かっている議員がいることも知りました。その議員がライブ配信をしていて、『国民は国会に集まるべきだ』と話していたんです」
そのライブ配信の映像。非常戒厳から約20分後、3日午後10時47分に配信しているのは、最大野党「共に民主党」の李在明代表だ。
最大野党「共に民主党」・李在明代表
「尹錫悦大統領が非常戒厳を宣言しました。これを解除するためには国会で採決をしないといけませんが、(大統領が)軍を動員して国会議員を逮捕する可能性がとても高い」
「国民のみなさん、国会に集まってください。国会を守ってください」
韓国の憲法は、「国会議員の過半数が解除を求める決議案に賛成した場合、大統領は非常戒厳を解除しなければならない」と定めている。
配信を見て、家を飛び出したというキムさん。非常戒厳を一刻も早く解除したい理由があった。
ソウル市民・キムさん(29)
「昔、非常戒厳によって多くの民間人が犠牲になったことを知っていました」
「光州(クァンジュ)で非常戒厳が出された時に何があったか、歴史の授業で学んだんです」
韓国で前回、非常戒厳が出されたのは1979年。その翌年、南部にある光州では、これに抗議する市民が軍と衝突。民間人だけで160人以上が命を落としたとされている。
YouTuberとして活動しているという60代の市民。
YouTuber(60代)
「(非常戒厳の宣言を)知人の葬儀中に電話で知り、国会を守らなきゃってタクシーに飛び乗ったんです」
YouTubeで生配信をしながら、国会を目指したという。その映像には、非常戒厳から1時間後の3日午後11時20分すぎ、門の前に到着。そこには、解除に向けた採決をするため議事堂を目指す議員や、それを手助けしようとする市民らが集まり始めていた。門をくぐろうとするが、警察官が盾を持って行く手を阻む様子が。
膠着状態のまま迎えた3日午後11時47分。ここで、ある“異変”が起きる。
「ヘリコプターが飛んでいる!ヘリだ!」
上空に軍のヘリコプターが…。
「あっちに下りようとしているぞ!」
すると、3日午後11時50分頃、警察官の制止を振り切り、一部の議員や市民らが敷地の中へ。撮影者も門をくぐり、議事堂へと向かう。まだ軍の姿は見当たらない。
しかし、まさにこの頃、敷地内にある運動場に軍のヘリが着陸。国会を制圧するため、およそ230人の兵士が降り立った。
その様子を目撃したというソウル市民(65)は、「家で焼いたチーズケーキを冷ましている時に、非常戒厳のニュースが出たんです」「(国会に)駆けつけると、ヘリが次々と下りてきて、このあたりには装甲車もきていました。そして、完全武装した兵士が歩いて行くのが見えたので追いかけたんです」と話す。
しかし、日付が変わる頃。非常戒厳から約1時間半、4日午前0時頃、ついに議事堂の入り口に兵士が姿を見せる。
議場には「非常戒厳」解除に向けた採決のため、議員らが集まっていた。市民らは兵士が建物に入ろうとするのを阻止する。
撮影者
「軍人は帰ってください!軍人は入ってくるな!」
すると…。
「ありえないよ。窓ガラスを割って入るなんて」
兵士は窓を割り、力ずくで議事堂の中へと突入した。今度は中で待ち構えていた人々が、兵士の前に立ちはだかる。消火器の噴射であたりは真っ白に。
議事堂のあちこちで続いた攻防。そして、非常戒厳が宣言されてから2時間半がすぎた4日午前1時。ついに…。
「非常戒厳の解除要求決議案が可決されました」
人々が守り抜いた議場で、“解除”を求める決議案が可決。議長が「戒厳の無効」を発表した。
民主主義を守ろうと国会に駆けつけた韓国の市民たち。採決に至ることができた背景には、軍隊側のトップの“ある決断”があったことも、明らかになった(韓国メディアによる)。
軍隊側のトップ
「議事堂に突入したら、議場の議員を引きずり出せと命令を受けていたが、明らかに違法行為にあたると思い、その命令を守らなかった」
“議場の議員を引きずり出せ”という命令に背いたという。
国会では7日、尹大統領の弾劾を求める採決が行われたが、投票数が規定に達しなかったため、採決は不成立となった。
弾劾採決を見守った市民
「不成立となったことに憤りを感じています。早いうちに弾劾を実現してほしい」
韓国メディアによると、検察は尹大統領に対し、内乱の疑いで捜査を始めたという。
(12月8日放送『真相報道バンキシャ!』より)
最終更新日:2024年12月9日 9:46