【解説】トランプ氏“暗殺未遂” 「容疑者の素顔」「突き上げた拳」「銃撃後の支持率」
鈴江奈々キャスター
「『容疑者の素顔』『突き上げた拳の意味』『銃撃後の支持率』の3つのポイントについて見ていきます。この容疑者の素顔はどこまでわかってきたんでしょうか?」
近野宏明・日本テレビ解説委員
「射殺されたのはトーマス・クルックス容疑者(20)。まだ若い青年です。アメリカメディアによると、銃撃事件があったペンシルベニア州に住んでいて、介護施設で勤務していたといいます。そして、共和党の党員として有権者登録をしている一方、過去には民主党系の団体に寄付した記録があるというふうにアメリカメディアは報じています。ただ、この事件の肝心の動機については、まだ何もわかっていません」
鈴江キャスター
「一般的に民主党支持から共和党支持に変わることというのは、アメリカ国内ではあることなんでしょうか?」
近野解説委員
「今でこそ共和党と民主党の政策の隔たり、考え方の隔たりはとても大きくなって見えますけれど、もともとは重なっている部分も大きいです。なので、共和党支持から民主党支持、あるいはその逆というのも決して珍しいことではないといえます」
斎藤佑樹キャスター
「動機が何であれ、大統領候補者が演説中に狙われるって衝撃ですよね」
近野解説委員
「今回の事件は、歴史的な警備上の失敗だといわれています。アメリカメディアによると、クルックス容疑者が発砲したのはトランプ氏が演説していた場所から約120メートル離れた場所です。シークレットサービスの警備のエリアの外にいたということです。銃撃の直後、クルックス容疑者はシークレットサービスによって射殺されました。クルックス容疑者は約180メートルの距離を備えた射撃場をもっている施設の会員だったといいます。ただ、どの程度練習をしたのか、あるいは全く何もしていないのか、そこらへんの詳しいことはまだわかっていません」
鈴江キャスター
「そして2つ目のポイント、『突き上げた拳の意味』。事件直後に撮られたトランプ氏の写真です」
近野解説委員
「抜けるような青空。アメリカのみならず世界中に鮮烈な印象を残したと思います。たなびく大きな星条旗、傷を負いながらも力強く拳を高く掲げたトランプ氏」
森圭介キャスター
「今回の事件は死傷者も出ていますし、本当に民主主義に対する挑戦でもあり、冒瀆(ぼうとく)だと思いますが、この写真で英雄視する気はもちろんないですが、シークレットサービスのみなさん、さらには拳を上げた大統領候補ということで、今回の選挙を象徴する一枚にはなっていますよね」
近野解説委員
「そういうことですよね。よくよく考えてみると、要人警護の常識としては、今回のように一撃を万が一にも受けてしまったときには、警護官がとにかく取り囲んで自分が盾になると。その上で第二波、第三波を絶対に受けないようにというのが警備上の常識です。容疑者は射殺されたとはいえ、この時点ではまだ単独犯行とも断定できない瞬間です。だけれども、今回はトランプ氏本人が取り囲む警護官をかき分けてでも前に出ていく。そして生中継のテレビカメラに見えるように自ら闘う姿勢をアピールした。その様子に会場では大きな歓声とどよめきが上がりましたし、息をのんでテレビを見ていた視聴者にとっても、トランプ氏の『不屈のイメージ』を印象づけた結果になったと思います」
鈴江キャスター
「日本にいる私たちも第一報を聞いたときに、写真を見たときに強烈なインパクトを受けましたし、これが世界中に伝わった一枚となりました」
鈴江キャスター
「もう一枚、近野デスクが注目したい写真があります」
近野解説委員
「覆いかぶさったシークレットサービスの足の間から、地面に伏せているトランプ氏の横顔をとらえた写真です。トランプ氏がしゃがみ込んでから立ち上がるまでの間に、わずかな隙間からとらえられたショットです」
鈴江キャスター
「足の間から写真なんですね」
近野解説委員
「だと考えられます。銃撃されたときの動画を改めて見返してみたところ、しゃがみ込んで伏せてから立ち上がるまでの時間がちょうど1分くらいでした。そして、その後、拳を振りかざすまでが1分14秒くらい。この大混乱の中で、この瞬間のトランプ氏が今説明したような振る舞いをどこまで頭の中でイメージしていたのか、非常に考えさせられる一枚です」
近野解説委員
「そしてもう一つ、気になるキーワードもありまして、それがトランプ氏が事件の後でSNSで発信したコメントの中にあります。『考えもつかぬこの出来事を防いだのは神のみだ。我々は恐れることなく、悪に直面しても信仰心と反骨の精神をもち続ける』。この『神』というワードと『信仰心』というワード、非常に大きな意味をもちます」
鈴江キャスター
「そうなんですね」
近野解説委員
「この数年、野党共和党、特にトランプ氏の支持基盤にはキリスト教保守派の占める重要性がとても増しています。彼らはトランプ氏について、聖書に忠実な自分たちの信仰の世界を実現してくれる“特別な人物”だというふうに位置づけています。こういう信仰心と愛国心が一体になったナショナリズムといえるうねりが今、アメリカで起きています」
陣内貴美子キャスター
「今回の危機がトランプ氏を応援する人たちの団結につながるという可能性もあったということですね?」
近野解説委員
「そういうことです。支持者のみなさんにとっては、トランプ氏はやっぱり何か神がかり的な、特別な『何か』があるんではないかという思いを、今回の事件から再確認する可能性があると考えられます」
鈴江キャスター
「続いての3つ目のポイント、『銃撃後の支持率』。変化というのは実際あるんでしょうか?」
近野解説委員
「トランプ氏がどこまで結果について意図していたかは、もちろん、わかりませんが、ここまで説明したような動きは、銃撃を受けながらも機転を利かせて強い姿勢を示したリーダーという印象を受けますよね」
「こうした振る舞いや言葉がもたらす結果について、アメリカの過去の事例を1つ紹介します。1981年3月、就任から間もないレーガン氏、当時の大統領がみまわれた暗殺未遂事件です。レーガン氏が車のすぐそばで至近距離で胸を撃たれ、シークレットサービスや側近が車の中に有無を言わせず大統領を押し込みました」
近野解説委員
「そういう場面でしたので、レーガン氏は今回の事件のような振る舞いをこの現場では見せることは出来なかった。ただその後、搬送先の病院での発言が大きな意味をもつ一言になりました。それがどういうことかというと、レーガン氏は緊急手術のために自らを取り囲んだ医師や看護師にむかって『君たちはみんな共和党員だよね? そうならいいけど』と問いかけました」
「レーガン氏は言うまでもなく共和党の(当時の)大統領で、このときは民主党の現職を破ってからまだ数か月ということで、命の危機にひんしながらもこういうジョークを飛ばしたという『機転』とか『ウイット』が非常に高い評価を受けた。結果として支持率もぐんと上がって、今となっては共和党の歴代大統領の中でもレガシーの1人になりました」
「ちなみに言われた側、ジョークで質問された医師のほうも『きょう一日は全員が共和党員です、大統領閣下』と切り返したというのも、いかにもアメリカという感じです。今回の事例は、こういう過去の事例も思い起こさせるというわけです」
鈴江キャスター
「トランプ氏が銃撃された事件というのは決して許されないことですが、それを経て今、大統領選にトランプ氏が勝利するという観測は何か変化があるんでしょうか?」
近野解説委員
「厳密な世論調査の結果というのはまだ手元にありませんが、誰が選挙に勝つか、ブックメーカーの予想をまとめたものがあります。アメリカの政治分析サイト(リアルクリアポリティクス)ですが、事件を受けてトランプ氏の勝敗予想が急上昇しているというのが最新のデータです」
鈴江キャスター
「一方で暴力は決して肯定できるものではありません。トランプ氏の1日も早い回復が望まれます」