カブール空港テロ 起こした組織の実態は?
200人以上が死傷したアフガニスタンの自爆テロ。犯行声明を出した過激派組織「イスラム国ホラサン州」とはどのような組織なのか。タリバンとの関係は?そして日本政府が進める退避計画への影響は?田中浩一郎・慶応大教授に聞いた。
Q:テロを実行した過激派組織「イスラム国ホラサン州」とはどんな勢力?
A:2014年にイラクとシリアに出現した過激派組織「イスラム国」の支部に当たるようなものが、地理的には離れたアフガニスタンとその周辺に出てきた。これが「イスラム国ホラサン州」といわれるもので、ローマ字でいうと「ISーK」ないし「ISーKP」というふうに称されることが多い。
Q:組織の特徴は?
A:「イスラム国」を名乗っているので、「イスラム国」の行ってきた非常に厄介なテロを手段として敵を攻撃したり、文民と戦闘員に関係なく攻撃を仕掛ける。
アフガニスタンでは(崩壊した)政府、展開する外国軍だけでなく、アフガニスタン市民、さらにタリバンとも敵対関係にあるので、彼らも攻撃対象にしてきた。
Q:今回のテロの狙いは?
A:ひとつは混乱しているカブール空港周辺の環境を利用して、たとえばアメリカ軍であるとか、タリバンであるとか、さらにアフガン市民、関係者、これらを殺戮するのにちょうどいい機会を得たということで攻撃を仕掛けた。
もちろんタリバンがアフガニスタンの治安を自らの手で回復するんだとか、あるいはしたんだと宣言していることに水を浴びせるような意味での攻撃でもある。
Q:タリバンが実権掌握した直後のタイミングだが?
A:もともとタリバンの掌握前からカブール市内でも「イスラム国」のテロが起きていた。たまたま今タリバンがカブールに入ってアフガン政府に代わる形で存在しているが、タリバンを攻撃するという意図は前々から持っていたし、今のように空港周辺での混乱があれば、その中に紛れ込んでこういう攻撃を行えばアフガニスタン人だけでなく外国軍である米軍に対しても被害を及ぼすことができるので、格好のターゲットであり、格好のタイミングということで図った。
Q:「イスラム国ホラサン」とタリバンの関係は?
A:まずこれを知るには、タリバンというよりも、イスラム国と国際テロ組織「アルカイダ」との関係を知る必要がある。
「イスラム国」は2014年の春の段階で、アフガニスタンやパキスタンに根城を持っていたと考えられる「アルカイダ」と決別して、そこから対立関係に陥っている。
「アルカイダ」の方は、それ以前からアフガニスタンのタリバンに忠誠を誓う立場にあって、上下関係で見るとタリバンの下に「アルカイダ」がある状態。タリバンの下部組織のように見える「アルカイダ」と「イスラム国」が対立するということは、「イスラム国」から見れば、タリバンも敵であるという、そういう位置づけになる。
Q:テロがまた起きる可能性は?
A:大いにある。混乱が広がるような状況がどこかに見られれば、それを利用してアフガン人であろうとタリバンであろうと狙う。その段階で存在しているかどうかわからないが、外国軍に対しても攻撃を行っていくだろう。
Q:「イスラム国」が標的にしたのはタリバンとアメリカのどちらの比重が大きい?
A:これは正直どちらとも言いかねるし、むしろその両方が合わさったところで攻撃を仕掛けることの効果が大きいということだったと思う。
Q:テロ組織の温床になる恐れは?
A:タリバンが全てを支配するといっても、アフガニスタンという土地を考えると十分に力が及ばないところや、様子を見ることができないところが必ず残る。仮にそこが「アルカイダ」や、今回の「イスラム国ホラサン州」のような組織の根城になる可能性も否定できない。だから、それらの組織が存在していくことは、アメリカがどういう方便を使おうと否定できない。
問題はこうした組織がそこに潜んでいたとしても、アフガニスタン国内、それを超えて周辺の外国、あるいはもっと多く離れたアメリカ本土であるとか日本であるとか、こういったところでテロを起こすだけの力を蓄えることができるか。むしろそちらの方が問題となってくる。
Q:今回のテロが自衛隊を使った日本の退避作業に与える影響は?
A:重大な影響を及ぼす。ただでさえ退避希望者、特にアフガン人がいかにして彼らが空港にたどり着くのかということが困難を極めている。
仮にタリバンの側が、こうしたアフガン人たちの身元をいちいち確認する作業に時間をかけるようになればなるほど、空港へのアクセスが妨げられてしまう。もちろん空港の安全や乗客の安全ということを考えれば必要だが、余計な手間がかかるだけ退避作業が遅れるし、8月31日という米軍撤退の定められた期限に間に合わないということも考えられる。
今回、空港の外でテロが起きたわけだが、空港内に対する攻撃が起きない保証はない。アフガン人も含めた人々の退避活動というのは難しくなったとみる。
Q:アメリカのバイデン大統領が「報復」を宣言したが、どのようなことが考えられるか?
Q:報復というより「償わせる」と言っていると思う。いろんな意味があるわけで、法的に償わせるということもあるし、場合によってはその処刑のような形の軍事作戦によって相手を潰すというようなこともあり得ると思う。
前者については、アフガニスタン国内でアメリカが法的な主権を及ぼすことが実質的にできないので、あり得るのは彼らがアメリカにいつの間にか入ってきたなんてことがわかった場合に、そこで裁きにかける。
後者の場合には臨時的に拠点がどこにあるのかがわかる、あるいは関係者がどこに集まっているというようなことがわかったときに軍事攻撃を仕掛ける可能性はゼロではない。
しかし今後、米軍はアフガニスタンから撤退するということになっているわけだし、それが近く訪れる。米軍が存在しないのにアフガニスタン国内に改めて攻撃を仕掛けるというのは相当難しい話になる。それをやったらやったで、今度はタリバンとの間にまた大きなしこりを抱え込むことになる。
Q:今後アメリカ本土に危険を及ぼす恐れはある?
A:この瞬間、評価するのはなかなか難しいし、ほとんどないと考えていいと思うが、将来にわたってその通りになるとは誰も保証できない。
特にアメリカは、都合のいいところは取り上げるけれども都合の悪いものは存在していないように使ってアフガニスタンからの撤退を決めた。その代償をまたどこかで払うことになるようなことが起きる恐れも否定はできない。