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穴からモフモフ…中国流 障害者も稼ぐ社会

2021年10月10日 17:18

■“壁の穴”に大行列も 斬新アイデアで話題

上海のオシャレな通り「永康路」。レストランや雑貨店などが並ぶ街の一角に、灰色のコンクリートの壁に縦30センチ、横15センチほどの穴が空いているだけの店がある。看板も出ていない。しかし、その穴の前には人だかりができている。並んでいる人に話を聞くと。

「こんな店、他では見たことがない」
「アイデアが素晴らしい」

皆さん大絶賛。店の前でしばらく様子を見ていると…。

■看板もイスもテーブルもない、不思議なカフェ

穴から出てきたのは、まるで熊のような茶色い毛に覆われたモフモフの手。その手が、穴の中から客にコーヒーを渡した。実はここは熊のような手でコーヒーを渡す、ちょっと変わったスタイルの「カフェ」。イスやテーブル、注文カウンターなどカフェらしいものは一切ないが、モフモフの手がかわいい!とSNSで大人気に。去年12月のオープン当初は人気のあまり、コーヒーを受け取るのに数時間待ちという大行列に。警察官が付近の交通整理にあたるほどだった。

■“熊の手”カフェ誕生の理由 広がる共感

注文をするには、穴の下にある二次元コードをスマホでスキャン。画面上でコーヒーやラテなどの商品を選択し、決済まで全てスマホで完結する。「スマホで注文」+「穴からモフモフの手で商品を渡す」という独特のスタイルには、理由がある。

実は穴の向こう側で働いている店員のおよそ6割は、耳が不自由な人。このカフェには「客との会話が出来なくても、楽しく働ける場所を作りたい」というオーナーの思いが詰まっている。中で働く店員に話を聞かせてもらうと、手話で応えてくれた。

耳の不自由な店員
「このカフェで働く前は、仕事探しがなかなかうまくいきませんでした」
「今はこのような話題の店で働けて、自分の力で生きていけるのは本当に嬉しいです」

■アイデアで「支援」をビジネスとしても成功させる

現在“熊の手カフェ”は上海4店舗、南京と杭州に1店舗の合計6店舗で運営していて、耳の不自由な店員17人が働いている。カフェのオーナーは中国人だが、日本文化が大好きで店名は日本語で「HINICHIJOU(非日常)」に。熊の手からコーヒーを受け取る“非日常”の体験を通じて、障害者が働くチャンスを広げようとしている。

■コロナ禍で20兆円市場“障害者も稼ぐ”チャンス拡大


中国ではコロナ禍がきっかけで、障害者の経済的な自立が進んでいる。子どもの頃の感電事故で両腕を失った楊さんは、足で包丁を使いこなし自炊している。数年前にそうした日常生活を動画で配信しはじめると、明るいキャラクターからたちまち人気者に。今ではフォロワーが970万人を超え、多くの企業から商品の実演販売の依頼が舞い込むようになった。

中国では新型コロナウイルスの感染対策として、各地でロックダウンや外出制限が行われたことでライブコマース(生中継の実演販売)が急拡大した。フォロワーの多い「インフルエンサー」と呼ばれる人には、大企業から依頼が殺到し一回の報酬は数千万円。年収、数億円を稼ぐ人も現れた。さらに漁師や農家までも魚や野菜を自ら生中継で販売するようになり、中国のライブコマース市場は2020年に年間20兆円を超える巨大産業に成長した。

■諦めていた仕事…人生を変えたライブコマース

スマホ1つで始められるライブコマースは、企業への就職や仕事で収入を得ることを諦めていた障害者の社会進出を後押しした。湖北省に住む金鈴さん34歳は、成長ホルモンの病気で身長が1メートル28センチで止まっている。身長が低いことで何度も就職を断られてきたが、コロナ禍の2020年6月、宝石の販売会社に「ライブコマース担当」の社員として就職が決まった。

金鈴さん
「背が低いから、どこへ行っても子どもと間違われ、仕事が見つかりませんでした」
「今は働けて自信が持てるようになり、家族や友達にも感謝しています」

中国では駅にもエレベーターがあまり設置されておらず、街中でも段差が多いなどバリアフリー化の遅れが目立つ。「障害者に優しい社会」とは言いがたいが、その一方で、ビジネスの発想を積極的に取り入れて障害者の社会進出を切り開くアイデアは次々と生まれている。障害者が生き生きと働く姿が印象的だった。

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