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参加枠3% パラリンピックと知的障害者

2021年10月13日 21:24

大きな盛り上がりを見せた東京パラリンピックだが、知的障害者の参加枠は少なく全体の3%程だ。背景には知的障害を判定することの難しさに加え、過去の不正事件が落とす影が。パラリンピック以外の大会も紹介しながら知的障害者スポーツの今後を展望する。(国際部・瀧口靖洋)

■パラリンピック「3%の選手」

連日熱戦が繰り広げられ、大きな盛り上がりを見せた今年の東京パラリンピック。過去最大規模となる約4400人のアスリートが参加したが、その大半は、肢体不自由や視覚障害など、何らかの身体障害がある選手たちだ。

一方で、知的障害のあるアスリートは161人と、全体の3%程にとどまっている。全22競技のうち、知的障害者の参加枠があったのは、陸上、水泳、卓球の3つだけだ。

■知的障害を判定する難しさ

なぜか。ひとつには知的障害を判定・評価することの難しさがある。身体障害では、例えば義足を着けていたり、車いすを使っているなど、障害があることが客観的に明らかである場合が多い。それに比べ、知的障害は外見からは分かりづらいこともあり、障害の特性や程度を判定したり、それが競技に及ぼす影響を客観的に評価するのは難しいとされている。

■シドニー大会の不正事件その後12年間の空白

また、知的障害者をめぐっては、パラリンピックの歴史に影を落とすある事件があった。

2000年のシドニー大会。男子バスケットボールでスペインが優勝するが、代表チーム12人中、実際に知的障害があったのは2人だけだったことが後に明らかになる。勝つために意図的に不正が行われていたのだ。不正が発覚したことで、スペインチームは失格。金メダルは剥奪された。

さらにこの問題を受け、パラリンピックの全競技から知的障害者の参加枠そのものが一旦なくなってしまう。その後、こうした不正を防ぐために、知的障害を判定するための国際的な基準の整備が進められることになる。その結果、そうした基準が確立したと認められた競技については、2012年のロンドン大会から知的障害者の参加が再び認められた。

だが対象となる競技は現在も陸上・水泳・卓球の3つにとどまっている。

■もうひとつのパラリンピック?“スペシャルオリンピックス”

一方で、知的障害者が参加できるスポーツ大会はパラリンピックだけではない。代表的なものにスペシャルオリンピックスがある。知的障害者を対象としたスペシャルオリンピックスは、オリンピックやパラリンピックとは別の団体によって運営されているが、オリ・パラと同じように4年に1度開かれる世界規模の大会だ。

直近の2019年に開かれたアブダビ大会には日本を含め世界各地から約7200人のアスリートが参加。単純に選手数だけを比較すると、約4400人の東京パラリンピックよりも規模は大きい。

では、パラリンピックとスペシャルオリンピックスはどのように違うのだろう。まず、パラリンピックは現状では身体障害者が中心だが、スペシャルオリンピックスは知的障害者を対象とした大会だ。4年に1度、世界大会が開かれる点は同じだが、スペシャルオリンピックスでは国・地域レベルの競技会も開催されるほか、日常的なトレーニングの機会も提供されている。

またパラリンピックには、年々競技レベルや注目度が上がるにつれてメダルや記録を重視する傾向が見られるのに対し、スペシャルオリンピックスでは自己の成長や健康増進も大きなテーマだ。その理念には、スポーツを通じて喜びを感じ、健康や友情を育むことなどが掲げられている。

「勝つことより参加することに意義がある」とはオリンピックの理想を表した言葉として有名だが、スペシャルオリンピックスの理念にも、それに通じるものがあると言える。

■アスリートに多様な選択肢を

もちろん、知的障害者の中にも、高いレベルで勝負や記録にこだわりたいアスリートは多くいる。そうした選手たちのためにも、今後パラリンピックで知的障害の参加枠が増えることが期待される。同時に重要なのは、アスリートひとりひとりの個性や目標に合わせて、様々な競技会が選択肢としてあることだ。

パラリンピックだけではない、知的障害者のスポーツ大会に今後も注目していきたい。