【解説】トランプ氏、1期目との違いは? “中間選挙までに実績を”就任直後から大統領令連発
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鈴江奈々キャスター
「トランプ大統領は日本時間21日未明、第47代大統領に就任しました。まずは約30分間行われた就任演説、その“言葉”を見ていきます」
トランプ大統領(就任演説)
「みなさんはアメリカの黄金時代の幕開けを目撃しているということになる」「アメリカは間もなくかつてないほど偉大で、強大な国になるだろう」
鈴江キャスター
「このようにアメリカファースト、“アメリカ第一主義”の強い言葉が並んだ演説でもありました」
国際部・小林部長
「アメリカ大統領の就任演説というと、通常はその人がどう国を導いていきたいかといった理念や価値観など、大きなビジョンを語ることが多いのですが、トランプ氏の場合は、具体的政策や自分がやりたい項目を羅列した印象が強かったと思います」
国際部・小林部長
「ある意味、大統領っぽくない、トランプ氏らしいビジネスマン的な思考だと感じました。中でも、私が今回注目したのは『exceptional』という言葉です。これは例外主義的な、特別な、という意味合いで、アメリカは他の国とは違う優位性、優越性があり、世界の中でも特別なポジションなんだと強調したわけです」
「4年間のバイデン政権で失われた優位性を取り戻すんだと。そのためには国境を閉じて、外国に関税をかけ、化石燃料を増産して物価やエネルギー価格を下げる。それによって国内製造業を強くするんだ、ということを言っています」
「これは、非常に内向きで、アメリカの繁栄のみを追求するような価値観だと言えます。まさに『アメリカ第一主義』。世界と協力して、さまざまな課題に取り組む…それこそ地球温暖化や戦争などの課題に取り組む、という思想はなく、外国との関係は、言ってみれば『損得勘定』。自分たちにどんな『見返り』があるのかといったところに1つの価値基準を置いている。外国は対立する『競争相手』なんだという思いが強くにじんだ演説でした」
「こうしたトランプ氏の価値観を、アメリカ国民の大半が支持し、一部の人は熱狂しているわけです。それだけ多くのアメリカ人が、現状に不満や不安を抱いていて、ある意味、自信をなくしている表れなのかなと思いました」
鈴江キャスター
「経済を立て直してほしいという思いもありそうですね。その後、トランプ大統領は当初の宣言通り、さっそく動き出しました」
●バイデン政権時代の78の行政命令の取り消し
●気候変動問題に対する国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱
●WHO=世界保健機関からの脱退
●来月1日からカナダとメキシコからの商品に25%の関税を課すことを検討
●メキシコとの国境警備のため国家非常事態を宣言し、軍隊を派遣すると表明
鈴江キャスター
「いろんな項目にわたり、かなりのスピード感をもって発表しましたね」
国際部・小林部長
「大統領令の署名は、通常は大統領の執務室で行うものなのですが、今回は支持者の前で次から次に署名して、ペンを投げるなど、かなりパフォーマンスもありました。一期目と違い、初日から100本以上署名すると言っていて、すでに何十本も署名したという情報もあります」
「まさにスピード感を重視しているわけで、理由としては2年後に控えた中間選挙があります。それまでにインフレ対策など、目に見える実績を出さなければいけないということで、急いでいるわけです。そのために自分の政策を通しやすくするための“イエスマン人事”と言われる、熱狂的な支持者たちを政権の内部に置くというやり方をしています」
鈴江キャスター
「2年後の中間選挙までに、とにかくやりたいことを矢継ぎ早にやっていきたいということですね」
国際部・小林部長
「はい。最初の2年が勝負だということはトランプ氏自身、十分に自覚していると思います」
斎藤佑樹キャスター
「スピード感があるのは悪いことではないと思いますが、われわれとしては、日本への影響も気になります」
国際部・小林部長
「日本や世界への影響という意味では、関税の影響も大きいと思いますが、もう1つ注目しているのは、トランプ氏の掲げる化石燃料の増産、そして環境規制の撤廃です。トランプ氏は、EV(電気自動車)補助金など、バイデン政権が推し進めてきた環境施策を撤回すると。地球温暖化対策を進めている世界の潮流とはまさに逆行する動きです。アメリカは二酸化炭素の排出量が世界第2位ですから、その大国がこの気候変動問題で大きく後退してしまうというのは、世界への影響も大きいと思います」
「もう1つ注目なのが、連邦政府機関や官僚組織の改革に非常に意気込みを持っているという部分です。予算や人員を大幅に削減して政策を実現する、障害を取り除いていく、ということをやろうとしている。大統領に権限を集めて、思い通りに物事を進める思惑があるんです」
鈴江奈々キャスター
「そしてきょう(日本時間21日)の就任式はトランプ氏の言動だけでなく、出席者の顔ぶれも話題となりました。式の一幕を捉えた写真には、メタ社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏、テスラのCEOイーロン・マスク氏、アップルのCEOティム・クック氏。さらにはアマゾン共同創業者ジェフ・ベゾス氏、そしてグーグルのCEOスンダー・ピチャイ氏の姿も。前列にアメリカIT界の著名人が並びました」
森圭介キャスター
「前回の第1次政権の時には、IT企業とは距離をとっている印象がありましたが、今回はかなり近い印象がありますね」
国際部・小林部長
「大転換しましたね。これはみなさん、選挙や就任式に高額献金した貢献者なんです」
「トランプ氏はマスク氏らの影響もあり、AIやビットコインの普及、宇宙開発など先端技術の開発に意欲的なんです。これはひとえに、中国に先を越されたくない、競争に負けられないという強い思いがあるわけです。そこで、規制を緩和してアメリカのIT企業がビジネスしやすい環境づくりを進めようということです。このIT企業の経営者にとっても、ウィンウィンの関係だと思います。ただ大企業との関係が密接になりすぎると、利益相反のおそれも出てきますし、インフレに苦しむ一般の国民の意識との乖離(かいり)というのもあるので、バランスが問われます」
鈴江キャスター
「世界にさまざまな影響がこれからも及びそうです」
国際部・小林部長
「日本にも関税や防衛費増額などを要求してくる可能性はあるのですが、こういう時こそ、日本は世の中の責任ある役割を果たせるよう、日本の立場をしっかりと認識して、それをトランプ氏に伝えていくことが大切です」