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「撮るな!撮るな!」取材妨害に尾行まで、強まる中国の言論統制・・・記者が見た異様な実情

2022年6月26日 9:39
「撮るな!撮るな!」取材妨害に尾行まで、強まる中国の言論統制・・・記者が見た異様な実情

習近平政権による厳しい「ゼロコロナ政策」が続く中国。現状を訴えた中国人記者は収監、ネット上の異論は削除の対象になる。33年前の天安門事件で拘束された記者も嘆くほど強まる近年の情報統制・・・3年半、中国で取材を続けてきた記者が見た「言論統制」の実情とは。

■取材妨害続く「なぜじゃない!」

2020年6月、私は世界で初めて新型コロナの感染拡大が起きた中国・湖北省武漢を取材した。クラスターが発生した海鮮市場へ行きカメラを向けると、すぐさま警備員が駆けつけた。

警備員
「撮影はだめだ」
記者(私)
「なぜですか?」
警備員
「なぜじゃない! 我々はなんの通知も受け取っていない。なぜじゃないんだよ」

建前上は自由な取材を許されているはずだが、警備員のほかに警察も駆けつけ、立ち去るよう警告を受けた。

また、ウイルス研究所に近づき撮影を始めると、私たちに気づいた警備員が走って近づいてきた。

警備員
「撮るな、撮るな」

取材依頼はすべて拒否され、敷地の外から建物にカメラを向けることすら許されない状況だった。

■尾行も・・・ナンバープレートがない不審な車

その後も、武漢には何度も取材に入ったが、ホテルを出て市内を車で移動中、黒い不審な車が1時間以上つけてくることがあった。尾行だ。さらに不審なことに車のナンバープレートが外されていた。

なぜ追いかけてくるのかを尋ねるために車を降りて近づくと、不審車はバックをしながら私たちから離れていき、その後走り去っていった。

行動を監視されることが多く、中国が、いかにこの問題で情報を統制しようとしているかが伝わってきた。

■中国人記者は拘束・・・体調悪化で車椅子姿に

武漢の現状を伝えようとしたのは、私たち外国メディアだけではない。中国人のフリージャーナリスト、張展(ちょう・てん)さんは、ロックダウンされた武漢から情報を発信していた。ところが「ウソの情報を流した」として当局に拘束された。

拘束されてから7か月後、裁判所で私たちのカメラがとらえたのは車椅子で出廷する張さんの姿。実は、無実を訴えてハンガーストライキを続け、体調が悪化していたのだ。結局懲役4年が言い渡され、張さんは今も刑務所の中にいる。

■ネット上の言論統制、コロナ対策批判許さず

また、中国が続ける厳しい感染対策、「ゼロコロナ政策」を疑問視した言論は、削除の対象となる。

中国のSNS「ウィーチャット」の国連の公式アカウントで、WHOのテドロス事務局長が「ゼロコロナ政策は持続可能とは思えない」と発言した映像が投稿された。ところが「この映像は規則違反のため削除した」とされ、閲覧できなくなっている。

一切の異論を許さない状況が続いているのだ。

■天安門事件の"当事者" 今も続く行動監視

そして中国の言論統制の"象徴"ともいえ、今もタブー視されているのは33年前に民主化運動が武力で鎮圧された「天安門事件」だ。

6月上旬、私は北京市内に住む女性を訪ねた。中国の報道記者で、天安門事件の前日に「書いた記事が学生運動の指針になった」として拘束された高瑜(こう・ゆ)さん、78歳。いまも、行動監視など警察当局の厳しいマークを受けている。

■強まる言論統制「世論を恐れている」

私は3年前、天安門事件から30年の節目に高さんを取材。久しぶりの再会となったが、中国の言論統制は、この3年でさらに厳しくなったという。

高瑜さん
「(言論発表の)唯一の場所がツイッターだけど、絶えずに警告を受けている。そのせいで息子の仕事もなくなった。母が発した言葉が原因で、それも、わずか140文字のツイッターによってです」

ツイッターで中国の人権問題について発信したことがきっかけで、長男が圧力を受け、仕事をやめざるを得なかったという。

およそ半世紀にわたり中国の言論統制と向き合ってきた高さんに、いまの中国をどう分析するか尋ねてみた。

高瑜さん
「ゼロコロナ政策を使って、社会の統制、言論の統制を強めていると思う。ウイルスと戦うのではなくて、人間と戦っている、社会と戦っているんです。世論を統制せざるを得ない、世論を恐れている」

■混乱下で"安定"狙い統制 国民の意識変化に注目

私はこの3年半様々な取材をしてきた中で、強まる言論統制は「今の中国をよく表している」と感じた。

習近平指導部としては、先の見えない「コロナとの戦い」で混乱する社会を、言論を統制することで安定させる、という目的があるのは明らかだ。

ただ、過剰な統制は市民の不満を高めるほか、特に若い世代は統制を乗り越えて海外の情報に自由に触れている人も多くいる。

国の行く末を選ぶのは中国国民自身だが、今後、中国社会がどう変化していくのか、注目を続けたい。

(NNN中国総局 槻木亮太)

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