水没の危機を救え!海に浮かぶ「未来の“水上都市”」
温暖化の影響で、世界の海面水位が上昇しています。上昇率は1993年から2002年までの10年と比べ、2倍になったということです。海抜の低い世界の島国では水没の危機が迫る中、海の上に「街」を浮かべるという壮大な計画が、いま注目されています。
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タイの首都バンコクから車で約1時間。海面上昇の象徴的な場所があります。
海に突き出すように建つ寺で「水上寺院」とも呼ばれています。
かつてこの寺の周囲は陸地で、村があったということですが、いま見える景色は様変わりしています。電柱など、生活の跡はわずかしか残っていません。陸の浸食は30年ほど前から始まったといいます。
水上寺院 ソムヌック僧侶
「海によって土地が浸食されたため、村人たちは逃げなければならなかった。いま残っているのは寺1つだけです」
寺敷地内を見てみると、海面上昇に備えて高床式の新たな寺が造られていました。
国連機関であるWMO=世界気象機関は今年4月、温暖化の影響で、世界の海面水位がこの10年間で年平均4.62ミリメートル上昇したと発表。上昇率は1993年から2002年までの10年と比べ、2倍になったということです。
水上寺院 ソムヌック僧侶
「浸食と共存する方法を見つけなければならない」
危機感を強めている国は他にもあります。インド洋に浮かぶ島国、モルディブです。ハネムーンの旅行先としても人気のリゾートです。
ただ、地元の人たちが住むビリンギリ島を訪れてみると、砂浜が浸食され、根があらわになっています。
約1200の島からなるモルディブ。島の8割が海抜1メートル未満で、今世紀末には国土のほとんどが水没するおそれがあると指摘されています。海面上昇は、国そのものの存続に関わる深刻な問題なのです。
島の住民(72)
「(浸食で)島は以前よりも小さくなっています。この子たちの世代までは大丈夫だと思いますが、その次の世代には島がなくなるかもしれません」
政府は生き残りをかけて、大規模な開発を進めています。埋め立てて造られた人工島「フルマーレ」です。もともとは首都の人口過密を解消するために造られましたが、将来的には海面上昇で島に住めなくなった住民の住まいも建設する考えです。
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さらにいま、世界から注目される壮大な計画が進んでいます。
海の上に東京ドーム約50個分の広さの楕円形の環礁があります。ここに「街」を浮かべるというモルディブの「水上都市」計画です。
海に浮いたたくさんのブロックの上に、3万人が住む家ができるほか、商店や学校、映画館なども整備される予定です。移動には舟を使うといいます。
実際に浮かべられたモデルハウスに行ってみると、まさに水辺のイメージ。
記者
「地面は砂になっています。実物大ということで結構広いですね」
「揺れてる感じはしない」
海に浮いているとは思えないほど安定していました。
ブロックは補強された環礁の内側に設置されます。この環礁が防波堤のような役割を果たすため、揺れを感じることはほとんどないということです。
伸縮する柱で海底とつながっていて漂流を防ぐほか、将来、海面が上昇しても、ブロックごと上昇して都市が水没しない仕組みです。
その上に建つ家は頑丈で、開放的な作りになっています。玄関を入ると、奥のリビングからは海が望めます。2階はメインのベッドルーム。テラスやバスルームを備えています。間取りは3LDK。屋上にバルコニーもついていて、販売予定価格は約2800万円です。太陽光発電を完備するなど環境にも配慮されています。
開発企業フローティングシティ イブラヒム・リヤズさん
「これがモルディブのあるべき姿です。私たちには海があるのですから、誰もがこの景色を楽しんでほしい」
オランダの会社が政府と協力して進める「水上都市」計画。完成予定は2027年です。
開発企業フローティングシティ イブラヒム・リヤズさん
「私たちはこれが海面上昇との闘いを生き抜く答えだと確信しています」
対策を進める一方で、モルディブ政府は温暖化という根本的な問題に、日本を含む先進国が真剣に取り組む必要があると訴えます。
アミナト・シャウナ 環境相
「温室効果ガスの80%を排出しているのはG20諸国です。私たちのような国を救うには、世界・国家・地域レベルで温室効果ガスを削減する必要があり、その実現には日本政府と日本国民が大きな役割を担っています」
全国地球温暖化防止活動推進センターによると、日本では、もし海面が1メートル上昇すると、全国の砂浜の9割以上が失われると予測されています。
海面上昇の脅威は、ゆっくりと、しかし確実に私たちの足元に迫っています。