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遺体を火葬せずに“堆肥”に 賛否分かれる中で進む環境にやさしい選択 アメリカ

2023年3月21日 18:54
遺体を火葬せずに“堆肥”に 賛否分かれる中で進む環境にやさしい選択 アメリカ

お彼岸の21日、大勢の人がお墓参りに訪れましたが、今、お墓を持たないという人も増えています。アメリカでは遺体を火葬せずに堆肥に変えて自然にかえすという人が出てきています。環境にもやさしい新たな考え方として広がりを見せています。

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お彼岸の21日、東京都内では朝から墓参りに訪れる人の姿が多く見られました。

墓参りに訪れた家族
「定期的にみんなで集まる機会があるのは、大事にしたいなと」

一方、新しいお墓参りのカタチが注目され始めています。

スマートシニア社 代表・藤沢哲雄さん
「実際にバーチャル上で“ネット墓”を作って、今もう(お墓を)お持ちの方はそこにつなげて」

先祖や故人のデジタル化した思い出を“追悼サイト”と呼ばれるウェブ上のお墓に格納すると、自宅からパソコンやスマートフォンで閲覧することができ、デジタル献花や弔意メッセージ送ることができます。

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アメリカでは、環境に配慮した新しい遺体の葬り方が広がりを見せています。

ワシントン州に住むボビーさんは去年の夏に当時46歳だった息子のショーンさんを亡くしました。ボビーさんが見せてくれたのは、息子の遺体からつくられたという堆肥です。

ボビーさん
「これが私の息子です。息子のショーンです」

ボビーさんは、私たちを大切な場所に案内してくれました。昔から家族の成長を見守ってきた大きな木です。木の下には堆肥袋と思い出の品が置かれていました。

ボビーさん
「この木が息子を育てたように、息子がこの木を育てる。彼は家に戻ったのです。だから息子をここに置いているのです。私は前に進むことができます。彼は再び私の人生の一部となりました」

ボビーさんは朝と夜、この場所に来て話しかけるのが日課だといいます。春が来たら、木の周りにこの堆肥をまく予定だということです。

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遺体の堆肥化は火葬と比べて排出される二酸化炭素の量が圧倒的に少ないため、環境にやさしい選択として注目され始めています。シアトル近郊にある世界最大の規模の遺体の堆肥化施設を訪ねました。

リターン・ホーム社 マイカ・トルーマンCEO
「ここに遺体を置き遺体を完全に有機物で包み、ふたをします。そうすると体は完全に堆肥に変わり、家族のもとにかえされます」

この施設では、体内に残る微生物を活性化させることで約60日かけて遺体を分解し堆肥にするといいます。豚の死骸で作った堆肥のレプリカを見せてもらいました。

リターン・ホーム社 マイカ・トルーマンCEO
「手で触ると全く骨などはなく、完全に変質しています」

遺体1体から作られる堆肥は約110キロほどで、麻の袋に入れられ家族のもとに届けられます。堆肥化の費用は日本円で約65万円ほどで、人種や宗教を問わず全米から問い合わせが増え続けていて、この施設には毎日2、3組が見学に来ています。この日、見学に来た男性も将来、自分の遺体を堆肥化する契約を交わしました。

堆肥化の契約者
「私が堆肥になって、植物が生き続けてくれたら、私の体は魂が出たとしても役割を終えることがないと思います」

遺体の堆肥化は2019年以降、ワシントン州やニューヨーク州など6つの州で合法化されてきましたが、ワシントン州のカトリック教会が「人体の尊厳を十分に尊重していない」と声明を出すなど、アメリカ国内でも賛否が分かれています。この動きに専門家は、次のように話しています。

レイクワシントン工科大学・葬儀学部 トッド・マックスフィールド・マツモト教授
「アメリカでは多くの州で合法化に向けた働きかけが行われていて、今後もその傾向は続くでしょう。ヨーロッパ、アジアその他の地域にも、堆肥化の光景が見られると思っています」

墓石ではなく、遺体の堆肥で育った植物のお墓。環境への意識の高まりとともに国境を越えるかもしれません。