【独自解説】「北朝鮮のお金は“ババ抜きのババ”」とにかく外貨が欲しい北朝鮮!でも金正恩総書記“肝いり観光ツアー”は大失敗で…参加した旅行ブロガーが驚愕の全貌を公開
北朝鮮が2024年2月から実施している『ロシア人向け観光ツアー』。参加したロシア人男性が明かす、“驚きに満ちたナゾだらけの旅”の全貌とは?「朝日新聞」元ソウル支局長・牧野愛博氏の解説です。
「ツアーは全部設定されて、予定外の行動を取ってはいけない」北朝鮮ツアーに参加した旅行ブロガーが映像公開!他の国ではあり得ない、多くの“ナゾ”に迫る
ロシア人の旅行ブロガー・ボスクレセンスキー氏は、2024年2月に開催された3泊4日の北朝鮮ツアーに参加。北朝鮮ガイドが「美しいものだけを写真に撮ってください」「ホテルを出ての散策は、ガイドと一緒でないと許可されません」と話す通り、多くの注意・禁止事項があり、どれが禁止行為かと常に緊張を強いられていたといいます。また、行き先の変更・自由行動などは一切許されませんでした。ボスクレセンスキー氏は、そうしたツアーの内容を収録した映像を自身のYouTubeに上げ、話題となっています。
Q.一般の観光客が北朝鮮の様子を細かく映像に収めているというのは、初めて見ましたよね?
(「朝日新聞」元ソウル支局長・牧野愛博氏)
「そうですね。最近はいろんな人がYouTubeをやっていますが、これだけ詳しいのは私も初めて見ました」
Q.牧野さんはボスクレセンスキー氏を取材されたことがあると聞きましたが、どういう方ですか?
(牧野氏)
「ロシア・サンクトペテルブルクに住んでいて、YouTubeに自分の旅行記を上げています。この前連絡が来て、次は日本に行きたいから、日本の面白い場所があったら教えてくれと言っていました」
そんなボスクレセンスキー氏が現地で目にした、多くの“ナゾ”に迫ります。まず、ビザの取得・出入国審査・税関検査でも特別なチェックはなく、撮影機材はリスト提出のみで、出国時は映像のチェックがなかったといいます。ボスクレセンスキー氏は「あまりに全てが簡単すぎて怪しいぐらい」と話していて、牧野氏は「通常では、あり得ない。ロシア側への配慮が大きく、観光を活発化させたい思惑を感じる」との見解を示しています。
Q.“ロシア”という国、そして“観光客を呼びたい”という2つの思惑ですよね?
(牧野氏)
「このツアー自体が、ロシアの沿海州と北朝鮮政府との合意でやっています。要するに、ロシア側のお墨付きがありますから、あえて何か問題を起こして、合意事項を壊したくないという思惑があったのでしょう」
Q.一般の日本人が北朝鮮に入るときは、こんな簡単に出入国できないですよね?
(牧野氏)
「入ろうとしたら身ぐるみを剝がされて、一から全部チェックされると思います」
Q.逆に言うと、ツアー中ずっとついて回っているので、ボスクレセンスキーさんが撮影するものは大体わかっていたということもありますか?
(牧野氏)
「そうですね。彼自身も言っていましたが、ツアーは全部設定されて、予定外の行動を取ってはいけないということになっていますから、そういう意味では“危ないものは撮られていない”という自信があったんでしょう」
また、ボスクレセンスキー氏は公園で、おばあさんと一緒にいる子どもに会ったのでチョコレートを渡そうとしたところ、なぜか全速力で逃げられ、現地の一般市民とは交流不可能だと感じたといいます。牧野氏によると「そもそも北朝鮮では、外国人を見たら通報しなければならない」、一緒にいたおばあさんの心理としては「下手に関わると自分も危うくなるため、おばあさんにとっては恐怖でしかない」ということです。
Q.観光客を受け入れているのに、外国人を見たら通報義務があるんですか?
(牧野氏)
「“外国人は基本的にスパイだと思え”という教育をしていますので、このおばあさんにしてみると、『“スパイ”から何か貰ったら、自分は“スパイ”の協力者だと思われてしまう』というふうに考えたんだと思います」
Q.チョコレートといった“嗜好品”を貰ったのを誰かに見られたら危ない、というのもあるんですか?
(牧野氏)
「例えばTシャツなど、英語・外国語のついた製品を持っていると通報されたりすることがありますから、そういう意味では心配したのかもしれません」
そんな市民たちは、金日成広場前に来たら必ず自転車を降りて、歩いていたといいます。牧野氏によると「金日成主席への敬意を表すものだ」ということです。また、車で行ける距離なのに飛行機で移動させられたといい、牧野氏は「周囲を見せない、また整備不良を見せたくない」との見解を示しています。
Q.『周辺の町・村・道路などを見せたくない』という思惑があるんですか?
(牧野氏)
「北朝鮮の道路はアスファルトがほとんどなくて、コンクリートやセメントで造っています。開城(ケソン)から平壌まで行ったアメリカの友だちに聞いたのですが、寒暖差も激しいのであちこち穴が開いていて、スピードを出して走れないそうです。幹線道路も、必ず住宅との間に林を作ったりして、見せないよう工夫しています。やはり目に入るのが嫌なんでしょう」
そして、首都・平壌であっても、渋滞がなかったといいます。
Q.一般の方が自動車を個人で持っていることはないんですよね?
(牧野氏)
「“マイカー”という概念がありません。北朝鮮では、運転手という職業自体が労働党員のエリートです。あと、ガソリンがないので節約しなければいけないということになっていて、曜日ごとにナンバー制で『この曜日は奇数の番号は走っていい』とか『週末は特定の部署の車以外は平壌の中を走ってはいけない』とか、そういうルールがあります。運転免許証を持っているだけでエリートですから、全然感覚が違いますよね」
また、都市部ではドル・人民元がメインで流通していて、自国通貨は釣り銭用⁉ということです。
Q.よっぽどドルが欲しいんでしょうか?
(牧野氏)
「ドルでしか買えないものがありますよね。例えば、北朝鮮でみんなが欲しがっている携帯電話は、ドルでしか買えません。一方で、北朝鮮のお金はいつ為替がぐちゃぐちゃになるかわからず、時々“貨幣改革”をやって急に使えなくなったりして、すごくリスクがありますので、当然誰でもドルが欲しいと思います」
Q.国民も一定程度、ドルを持っているんですか?
(牧野氏)
「持っています。北朝鮮のお金って、要するに“ババ抜きのババ”みたいなものですから。ドルで払って、しょうがないからお釣りの調整として持っているということです」
Q.“闇市場”で、『ドルや人民元じゃないと買わせないよ』みたいな所もあるんですか?
(牧野氏)
「それはそうです。ただ、党の人間らが見張っていますから、そういうのは党の人間に見えないような所でやるというのが常識です」
観光業は「“北朝鮮が苦しい”ということを自白している行動」⁉金正恩総書記“肝いり観光事業”失敗で大ピンチ!次なる一手は―
金正恩総書記“肝いり観光事業”が、今ピンチだといいます。2024年2月時点では、定員100人に対し98人が集まっていましたが、3月に入って参加者が激減。最終的には、14人しか集まっていないということです。米・メディアは、「度が過ぎた規制が原因だ」と分析しています。
観光事業活発化のため、北朝鮮側もPRに尽力しています。ロシア・モスクワの観光産業展に初出展し、北朝鮮の担当者は「北朝鮮観光の潜在性と考え方を説明する」と話しています。また、新たなツアーを続々発表しました。
それが、『子どもの日・特別ツアー 3泊4日の旅』です。ロシアの子どもの日(6月1日)を含めた日程となっていて、費用が大人約13万6000円・子ども約11万7000円。プール・動物園・遊園地などが訪問地となっていましたが、参加者が集まらず、中止に…。
しかし、2024年6月17日~24日には『神秘的でエキサイティングな7泊8日の旅』を開催予定です。費用が一人約23万円で、平壌(博物館・地下鉄など)・開城(世界遺産など)・自然散策などが訪問地となっています。『神秘的な寺院やモニュメントを訪れ、伝統的な料理と地元の人々のホスピタリティーをお楽しみください』とありますが、牧野氏によると「ロシア人はリゾートのない旅行には興味がない。開城が新たに加わるが、行きたい!とはならないだろう」と指摘しています。
Q.ロシアの人は、リゾートがないと興味ないのですか?
(牧野氏)
「自由を満喫したり、景色を楽しんでリラックスするということでないと、ちょっと…。私は開城に行ったことがありますけど、お寺というのは“自分たちには宗教的な自由があるんだ”とアピールするための場所なので、歴史を楽しむといった我々の関心とマッチしないんです」
Q.お寺は、あくまでも“宗教の自由がありますよ”というアピールなんですね?
(牧野氏)
「そこら辺に住んでいる人が“アルバイト”でお坊さんをやっているので、観光客が来ると慌てて“僧衣”を着て対応するんです」
Q.ロシアの人には、北朝鮮の食事も合わないといいますよね?
「そうですね。ロシア料理には“辛いもの”がなく、彼らは辛いものを食べませんので、口に合わないと思います。私も開城でご飯を食べたとき、すごく古いお米が出てきたことがあります。北朝鮮の人には“食堂でメニューを選ぶ”という感覚がなく、“自分たちが決めたものをセットで出す”という考えしかありませんから、急に『これが欲しい、あれが欲しい』と言われても、対応できないんです」
そんな北朝鮮ですが、外貨稼ぎの次なる一手として、中国人留学生の受け入れを再開しました。中国人観光客の受け入れも再開かといわれています。
Q.ミサイルを撃ったり、衛星も失敗していますけど、観光事業もやっているということは、経済的には相当苦しいということですよね?
(牧野氏)
「“北朝鮮が苦しい”ということを自白している、そういう行動だと思えばいいと思います」
Q.北朝鮮は、ロシアや中国からどんどん“お客様”を受け入れる体制を取っていかざるを得ないということですね?
(牧野氏)
「その通りです。これからは、日本にもアピールしてくると思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年6月6日放送)