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【独自解説】“コンクリートの壁”は「規定違反ではない」!?韓国史上最悪『チェジュ航空機事故』の謎 責任は一体どこに?遺族の意に反し、原因究明が遅れる背景とは―

2025年1月15日 8:00
【独自解説】“コンクリートの壁”は「規定違反ではない」!?韓国史上最悪『チェジュ航空機事故』の謎 責任は一体どこに?遺族の意に反し、原因究明が遅れる背景とは―
航空評論家・小林宏之氏

 2024年12月29日、韓国・務安(ムアン)空港で発生したチェジュ航空機の事故は、乗客・乗員181人のうち179人が死亡という韓国史上最悪の事故となり、韓国社会のみならず、世界に大きな衝撃を与えました。なぜ、ここまで甚大な被害となったのか?責任の所在はどこに?航空評論家・小林宏之氏の見解を交え、『コリア・レポート』編集長・辺真一氏の解説です。

■日本でも年間1000件以上発生する『バードストライク』 大事故に繋がった理由と異例の急旋回のワケ

 2024年12月29日午前9時すぎ、タイ・バンコクを出発した韓国のLCC『チェジュ航空』ボーイング737型機が韓国・ムアン空港に一度着陸を試みましたが、何らかのトラブルで断念。その後、着陸装置が機体から出ず、胴体着陸しました。しかし、速度が落ち切らず滑走路から外れ、滑走路の端の壁に衝突・炎上し、乗客・乗員181人中179人が死亡。衝突の直前、機体は時速300kmを超えていたとみられます。

 地元当局によると、着陸直前にバードストライクでエンジンに異常が起きたことを確認したということです。バードストライクとは、航空機が鳥と衝突することで、日本国内でも年間1000件以上発生していますが、全てが事故に繋がるわけではありません。

 今回、事故に繋がった背景には、ムアン空港の“ある特徴”があります。『中央日報』によると、ムアン空港は韓国14の地方空港の中でバードストライクの発生率が最も高いうえ、鳥探知レーダーなどの対策が不十分だったとも指摘されています。航空評論家・小林宏之氏によると、「大量の鳥によって、両翼でバードストライクが発生するなどし、左右両方のエンジンが停止した可能性が高い」ということです。

 また、エンジントラブルが発生した場合、『手動で車輪を出す』『上空で旋回し燃料を消費』『空港に緊急車両の準備を要請』が対処法とされていますが、今回はどれもできていませんでした。

 そして、事故を巡って指摘されているのが、“異例の急旋回”です。事故を起こした機体は着陸態勢に入った後、着陸をやり直すため、一度出した車輪を格納し、再び上昇。本来は「360度旋回し、再び同じ方向から進入する」という規定がありましたが、今回は異例の急旋回を行い、反対側から着陸を試みていました。小林氏は、「左右両方のエンジンが停止し、切迫した状況で対策の余地がなかったか」との見解を示しています。

Q.わかっていないことが多い中で様々な憶測が出ていますが、「両方のエンジンが停止し、360度旋回する余裕がなかったのではないか」と、今はいわれているんですね?
(『コリア・レポート』編集長・辺真一氏)
「そういうこともいわれていますし、『機長の判断ミス・操縦ミスではないか』という人もいますし、『機体そのものに問題があったのではないか』など、いろいろいわれています。でも、最終的にはバードストライク、すなわち鳥のせいだということで落ち着いた感じがしないでもないです」

■「常識では考えられない」滑走路の先にコンクリートの“壁” しかし、韓国・国土交通省は「規定違反ではない」

 一方、甚大な被害を生んだ最大の理由が、滑走路の先にあったコンクリートの壁です。『中央日報』によると、着陸援助装置を盛り土の上に設置し、コンクリートで補強していたということです。小林氏によると、「飛行機が激突して大破するような固い構造物の設置は、常識では考えられない。大事故になった一番の要因」だということです。

 小林氏によると、着陸援助装置は「滑走路への進入コースを指示する装置で、飛行機は容易に突き破ることが可能」だといいます。写真右上は、東京・羽田空港の無線着陸援助装置です。実際、2015年4月に広島空港でアシアナ航空機が着陸に失敗し、滑走路を外れて停止しましたが、飛行機は着陸援助装置を突き破り、27人がケガをしたものの、死者はいませんでした。

 『聯合ニュース』によると、韓国・国土交通省は「ムアン空港の着陸援助装置を支えるコンクリート構造物は、国内外の規定を全て適用しても、規定違反ではない。しかし、規定に違反しているかどうかと関係なく、安全性の面で不十分だった」と主張しています。

■『チェジュ航空』『ムアン空港』『韓国政府』、責任は一体どこに?「約1500億円の補償金の話が出ている」

 2024年12月30日、遺族代表は記者会見で、「事故の原因を明確化し、適切な補償を行うべきだ。安全管理の不備があったのではないか」と話しました。『聯合ニュース』によると、警察はチェジュ航空のキム・イベ社長に出国禁止措置を出し、キム社長は業務上過失致死傷容疑で重要参考人となっています。

 韓国では、過去の重大事故でも厳しい責任追及がありました。高校生など299人が死亡・5人が行方不明になった『セウォル号』沈没事故(2014年/パク・クネ政権)では、船長が殺人罪で無期懲役、韓国政府は犠牲者一人当たり約2000万円を賠償しています。

 そして、日本人2人を含む159人が死亡した梨泰院(イテウォン)雑踏事故(2022年/ユン・ソンニョル政権)では、地元警察元署長に業務上過失致死傷の罪で禁錮3年の実刑判決が下されました。

Q.韓国には非常に重い責任を問う構図がありますが、もしムアン空港自体に問題があったら、それはチェジュ航空社長ではなく、空港もしくは国の責任ではないですか?
(辺氏)
「日本では、まず原因究明してから責任追及になりますが、韓国は逆です。まず責任追及をして、原因究明をします。1兆5000億ウォン(日本円で約1500億円)の補償金の話が出ていますが、それを国がやるのか、航空会社がやるのか、あるいは空港がやるのか、その責任問題がまだ決まっておらず、原因究明ができていません」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年1月8日放送)

最終更新日:2025年1月15日 8:00
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