“無償化”独自施策続々 下呂市はランドセル 恵那市は出産費が 多様化する岐阜県内の「子育て支援」をまとめてみた

全国の各自治体で、子育て世代に向けたさまざまな支援が進む昨今。2025年度もその動きは加速し、給食費や医療費の無償化から、ベビー用品の宅配まで支援内容は多岐にわたるようになりました。
今回は、全国的にも珍しい無償化施策が続く、岐阜県内にて2025年度からスタートする主な子育て支援をピックアップ。各自治体の独自施策によって生まれた多彩な施策の数々は、“地域の新たな魅力”として関心を集めていました。
【下呂市】『モンベル社』のランドセルを無償提供
下呂市が子育て支援の一環として始めたのは、ランドセルの無償提供。ランドセルの価格は年々値上がり。総務省のデータによると、東海地方では20年前と比べて約2倍高くなっており、6万4000円ほどになっています。
2024年8月、同市では未就学の子どもをもつ保護者を対象に、新一年生のランドセル無償配布事業に関するアンケートを実施。下呂市教育委員会によると、同事業に「賛成」と答えた世帯が約65%、またランドセルの無償配布について「希望する」と答えた世帯が約69%という結果だったことから、2025年度新入学児を対象に、ランドセルの無償提供を決定したといいます。
無償配布されたランドセルは、アウトドア用品メーカー『モンベル社』の「わんパック」。
同市教育委員会曰く、「軽量、耐久性、機能性を考慮」、「アウトドア用品の国内一流メーカーが自治体と共同で開発した製品である」という点から、同事業の支給品に選定。同メーカーHPによると、背面側のポケットにはPCやタブレットの収納も可能、カラビナフックには靴袋や給食袋などを掛けることができます。
3月上旬、ついにランドセルの無償配布が開始。受け取った子どもたちは笑顔を浮かべ、保護者からは、「これから子どもの体操服とかにお金がかかってくるので、ランドセルに使う予定だったお金は、他の物に使っていきたいなと思います」など、前向きな意見が寄せられました。
なかには、同事業が周知される前に、すでにランドセルを購入していた家庭も。そこで同市では、「選択の機会がなかった方には、公平性が保たれない」という判断から、ランドセル購入済みの家庭には、無償配布するランドセルと同等の1万5000円を“入学祝い金”として支給。
同市によると来年度以降もランドセルの無償配布は続ける方針で、ランドセルを希望しない家庭には、ランドセルの価格と同等の1万5000円を入学祝い金として支給することについても継続する意向を示しました。
また同市では、県内でケーブルテレビ事業等を展開する「CCN」から、2025年度新小学一年生に「タブレットケース」のプレゼントも。
下呂市教育委員会によると、ランドセルに収納できるサイズで、持ち手によって取り出しやすいデザインに仕上がっているといいます。
【山県市】独自条例で小中学校の教材費を無償化
下呂市のランドセル無償提供に続き、教育現場における新たな支援に乗り出したのが山県市。2025年度より、市内の小中学校(小学校9校・中学校3校)を対象に教材費の無償化を決定しました。
同市担当者によると、無償化となる教材は、ドリルや資料集、実験キットなど学校で共通して購入するものが対象。絵の具セットや裁縫セット、リコーダーなどは無償化の対象にはならず、これまで通り、個人負担で購入する形をとるといいます。
2022年の小中学校における給食費無償化の実現をはじめ、0歳児からの保育料無償化、18歳までの医療費無償化など幅広い支援で子育て世代を支えてきた山県市。すべての教材が無償化にならずとも、なぜ教材費まで無償化に踏み切ることができたのでしょうか。
その実現の鍵は、市の独自施策『山県市「子育ち」応援条例』にありました。山県市「子育ち」応援条例とは、“こどもが健やかに成長できる地域社会の実現を寄与すること”を目的に、同市が独自に制定した条例。
教材費無償化も同条例の一環で行われており、他にも「出産・子育て応援ギフト」や「第二子以降出産祝金支給事業」、「ベビー用品応援事業」など子育てに関する幅広いサポートを受けることができるといいます。
【恵那市】市内での出産費用を無償化
独自施策によって、さまざまな子育て支援が進む岐阜県。恵那市では、“パッケージ化”された独自施策によって、全国的にも珍しい、県内初となる「市内での出産費用の無償化」が、2025年度より実現することになりました。
対象者は、2025年4月1日以降に出産し、市内に住所を有する市民。同支援では、市内での出産にかかる費用が健康保険より給付される、出産育児一時金の額を上回った場合、その金額が助成対象となり、“無償化”となります。
同市担当者によると、市民の出産のうち、市立恵那病院が約65%を占めるという恵那市。例えば、市立恵那病院で出産し、その費用が53万円だった場合。50万円の出産育児一時金を差し引いた、「3万円」が出産費用助成額となり、自己負担額は0円となります。
同施策は“里帰り出産”は対象外ですが、持病などやむを得ない事情により、恵那市以外の病院で出産した場合は、個室料を除いた、個人負担分10万円を上限として助成。その場合は、医師による診断書の提出が必要になるといいます。
これらの支援を実現した独自施策が『子育て支援パッケージ』。同施策内では他にも、18歳までの医療費の無償化、第3子以降の出産に対する応援金の支給、不妊治療費の保険外治療費助成、多子世帯が利用する児童福祉サービスの減免など、市民の子育てを支える幅広い施策がパッケージ内に含まれています。
その充実度は年々パワーアップし、2025年度からは出産費用の無償化のほか、3歳以上の園児が各家庭から持参していた“主食”も、各施設で無償提供することが決定。同市によると、市内在住のこども園や幼稚園等に通園する3歳以上の園児760名(想定)が、この無償提供の対象となるといいます。
長期化する物価高騰。その影響は、給食費や教材費などさまざまな支出が必要となる“子育て世代”の家計にも、大きな打撃を与えています。子ども食堂や無料塾などボランティア団体による活動も活発化するなか、岐阜県をはじめとする各自治体では、独自施策による子育て支援が続々とスタート。多様化する支援のラインアップは“地域の魅力”として全国に発信され、住みやすい街選びの新たな指針として関心を集めています。