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猛暑で「腸」にダメージ……“カビ”から体調不良、“砂漠化”進めば大腸がんも? 医師が勧める食事のコツ『every.特集』

2024年9月12日 5:38
猛暑で「腸」にダメージ……“カビ”から体調不良、“砂漠化”進めば大腸がんも? 医師が勧める食事のコツ『every.特集』

今年の猛暑で、体調不良に悩まされていませんか? 厳しい暑さにより、“腸カビ”や“砂漠化”による腸へのダメージが懸念されています。おなかがゆるくなる腸カビの対策には和食中心の食事が、便秘を招く“砂漠化”にはヨーグルトの食べ方の工夫が有効です。

■体調不良の原因はおなかの「カビ」

東京・品川区にある心療内科「ひめのともみクリニック」。そこにいたのは、数か月前に頭痛や気分の落ち込みなどを訴えて受診した男性です。ある検査の結果、意外なものが見つかりました。

男性
「『腸にカビが生えている』と言われ、『エッ? おなかにカビ?』っていう…」

体調不良の原因はおなかのカビだというのです。心療内科専門医の姫野友美さんは、体調不良の原因を探るため男性を検査しました。すると、尿の中にカビ特有の代謝物が多く見つかり、腸内でカビが増えていることが判明しました。

姫野医師は男性に、「今すごく増えています。特に日本は湿気が多いので、カビが生えやすいんですよ。自分のおなかの中にいて、病気の原因の一つになっている」と伝えました。

■ストレスや疲れで…免疫低下でカビ増殖

このカビは、カンジダ菌。湿気が多いと増えやすく、口から入ることもあります。内視鏡検査で食道に見つかることもあるそうです。

姫野医師
「腸内細菌の1%くらいカビがいるんですね。普段はこのカビは悪さをしないでおとなしくしているんですけれども、例えばストレスがあったり、疲れたり、いろんな体調不良で免疫が落ちてくると、このカビが増殖して問題なんですね」

これは「腸管カンジダ症」と呼ばれ、腸に大きなダメージを与え、全身に悪影響を及ぼすといいます。

姫野医師
「腸にカンジダが生えると腸のバリア機能が落ちちゃうんですね。そうすると、このすき間から毒素が入ってしまう。体のいろんな場所に行って、症状を起こします」

■薬を使わず…食事療法でカビの退治へ

おなかの中でカビが生える「腸管カンジダ症」で、どんな体調不良が出るのでしょうか? この夏に、検査でカビが増えていることが分かった吉田奈緒美さん(49)は「すごくだるくて、疲れがとれてないというか、締めつけるような頭痛というか…」と言います。

頭痛や疲労感、さらにおなかがゆるい症状が続くという吉田さんに対し、姫野医師は「カンジダを除菌しないと、こういった症状はよくなってこないですね。食事療法は基本ですから」と勧めました。

腸には役立つ菌も多いため、今回は薬を使わず食事療法でカビを退治することになりました。吉田さんは、腸カビ対策の食生活改善を始めました。

■ご飯中心の和食メニューが基本

スタートから4週間後に訪ねると、吉田さんは「肩こりがなくなったのがうれしいです。頭痛もなくなりましたし、とにかく調子はいいですね」と変化を実感している様子。吉田さんが続けた、腸カビを減らすための食事はどんなものでしょうか?

まず基本は、お菓子などの甘いものを控え、ゆっくり消化されるご飯中心の和食メニューです。

姫野医師
「このカンジダ菌は、糖質が大好きなんですね。砂糖を断つことによってカビの増殖を防ぐことができます。一生食べちゃダメってわけじゃないんですね。何を食べても大丈夫なおなかにすることが目的ですから、腸管バリアを強くするための食事(が大事です)」

■姫野医師「油も上手に使いながら」

さらに、腸カビを減らすため和食に加えたのが、油です。姫野医師は「MCTオイル・中鎖脂肪酸がいいですね。抗菌作用があるので。油も上手に使いながら食事を作るとよろしいかなと思いますね」と勧めます。

MCT(中鎖脂肪酸)はココナツに多く含まれ、無味無臭です。そのため吉田さんは、サラダやお刺身のしょう油に加えて毎日とったそうです。

■体調が改善、友達は「化粧品変えた?」

もう1つ、姫野医師が腸カビを減らすのに役立つと勧めたのが、豆乳をはじめとする植物性ミルクです。「アレルギーも形成しにくいですし、腸管バリアに対して優しいので、壊したりすることがないんですね」と説明します。

吉田さんのお気に入りは、お米のミルク。飲みやすくて続けられたそうで、「私の中のルーティーンみたいになっています」。すっかり体調が良くなり、友達に会った時に「何か変わった? 化粧品変えた?」「ちょっと細くなった?」などと言われたといいます。

今後もこうした腸カビを減らす食事を続ければ、3か月ほどで腸のバリアが正常化に向かうとみられます。

■粘膜の水分が減り、バリア機能が低下

一方、猛暑の影響で腸にダメージを与えるのは、カビだけではありません。これまで5万人の腸を見てきたという、東京・立川市にある「松生クリニック」の松生恒夫医師(消化器内科)に聞きました。

松生医師
「猛暑って普通じゃないんですよ。35℃を超してくると、水分代謝が足りなくて、腸の“砂漠化”が起こってくると言ってもいいんじゃないですかね」

猛暑で起きやすい、腸の“砂漠化”とはどんなものでしょうか? 松生医師によると、まず猛暑で多く汗をかくと、腸に行く水分が減少。すると腸の粘膜の水分も減り、バリア機能が低下するのが、“砂漠化”だということです。

松生医師
「腸管バリアが損傷していたら、老廃物が体内に入ってしまいます。長年の蓄積だと、大腸がんに結びつく可能性も出てくると思いますね」

■ガスがたまると「ポンポン」と音が

この夏、普段にも増してガンコな便秘に悩まされているという戸塚裕子さん(56)がクリニックを受診しました。「ズンズンたまってるような。それでおなかが出てくる。なんか足がつったりする」

足がつるという戸塚さんのおなかを松生医師がたたいてみると、「ポンポン」という音が聞こえました。松生医師は「こうやってたたくと、腸の中、ガスたまってると太鼓みたいな音がするんですよ」。

これだけガスがたまっていることから、腸の“砂漠化”が進み、バリア機能の低下が疑われました。

■食事療法でヨーグルト…ポイントは

その対処法について松生医師は「大腸にいいものを水分の中に入れて補給する」と言います。腸の“砂漠化”を解消するため、戸塚さんは食事療法を始めました。まず松生医師が勧めたのはヨーグルトです。

ただし、ポイントは食べ方。ヨーグルトに入れるのは甘酒です(お酒の苦手な人は米こうじ由来・アルコール分0%を推奨)。意外な組み合わせですが、「すごく味がおいしいんですよ。甘くなるし」と戸塚さんは言います。

ヨーグルトの乳酸菌が腸管バリアを強くし、さらに甘酒が働きを良くするそうです。松生医師は「甘酒を飲んでもらって、前後で腸のビフィズス菌量が増えることが分かったんです。それが多い方が、腸内環境がいいんですよね」と話します。

夏の甘酒ヨーグルトは水分補給にもなり、一石二鳥だそうです。

■3週間続けて「こんなに違うんだ」

もう1つ、腸の“砂漠化”対策を続けるのに良い組み合わせがあるといいます。それはキウイフルーツです。松生医師は「慢性便秘の治療ガイドラインで効果が認められた果物なんですよ。腸の表面を守ってくれる」と解説します。

水溶性食物繊維が豊富なキウイをヨーグルトと一緒に食べることで、腸のバリア機能を守ることが期待できるそうです。

腸を“砂漠化”から守るため、ヨーグルトと甘酒、キウイの組み合わせを3週間続けた戸塚さん。「“通便”がよくなったのはすごく実感できていますね。こんなに違うんだ、食生活って大切だなって、すごくよく分かりました」

今年の猛暑でダメージがたまっているかもしれない腸。おなかがゆるくなる腸カビには、和食中心の食事を。便秘が続く“砂漠化”には、ヨーグルトの食べ方の工夫を。それぞれ腸のバリア機能を高める食生活が大切だということです。

(9月9日『news every.』より)