中学生の10人に1人が発症「起立性調節障害」……14歳少女に密着「知ってほしい私のこと」思いを発信『every.16時特集』
「起立性調節障害」とは、自律神経がうまく働かず、朝起きることが困難な“体の病気”。中学生の1割が発症するといわれ、周りの理解とサポートが必要です。“学校に行きたくても行けない”つらい症状を抱える14歳少女の生活に密着し、その思いを聞きました。
部屋に鳴り響く、携帯のアラーム音。
母親
「知佳穂(ちかほ)さん、携帯ここにある。アラーム消したら?もう11時だよ」
知佳穂さん
「気持ち悪い…」
母親
「気持ち悪いか」
中山 知佳穂さん、14歳。自律神経がうまく働かず、朝起きることが困難な“体の病気”「起立性調節障害」を抱えています。 しかし、周囲からは、こんな誤解も…
知佳穂さん
「努力が足りないとか、頑張ったらできるんじゃないって言われることが多くて…」
“学校に行きたくても行けない”…でも周りからは、“さぼり”や“怠け”と思わることも…。
愛犬とたわむれる、中学3年生の中山知佳穂さん。一見、健康そうに見えますが…
知佳穂さん
「動いていると(頭が)痛くて…」
母親
「片頭痛じゃない?」
日中、突然おそってくる、頭痛。起立性調節障害の症状です。
本来、私たちは、仰向けの状態から起き上がると、一時的に、血液は下半身にたまりますが、健康な人は自律神経が働くため、下半身の血管が収縮し、すぐに全身に血が行き渡ります。
ところが、起立性調節障害の場合、下半身に血液がたまっても自律神経の働きが悪く、全身に血液が行き渡りません。このため、脳の血液が不足し、めまいや、吐き気、頭痛などの症状が現れやすくなり、起きられません。体が大きく変化する思春期に多く、日本小児心身医学会によると、“中学生の10人に1人”いるとされています。知佳穂さんは「体位性頻脈症候群」というタイプで、著しく心拍数が上がるのが特徴です。
どんな生活になるのか。本人と家族の了解を得て、学校が休みの日を取材しました。
――午前9時。アラームが鳴っても、起きられない知佳穂さん。午前11時、母親が部屋へ行きます。
母親
「知佳穂さん(午前)11時だよ、知佳穂さん、携帯ここにある。アラーム消したら?」
「また何分後ぐらいに起こしに来る?分からない?」
無意識に携帯のアラームをとめます。アラームが鳴り始めてから、3時間後。
母親
「起きているね。こっちの電気もつけるよ。まぶしい?大丈夫?」
「どう?おなかの痛みとかは?」
知佳穂さん
「さっき、ちょっと…」
母親
「おなか痛い?」
目を覚ましますが、腹痛が。さらに…
母親
「頭を下げなさい。その方がいいよ」
知佳穂さん
「気持ち悪い…」
母親
「気持ち悪いか」
うずくまる知佳穂さん。脳の血液が不足してしまうため、頭を心臓と同じ高さにして、姿勢を保ちます。
母親
「ミドドリン飲む?」
医師から処方された、血圧を上げて、“脈の増加を抑える”薬を服用します。気持ち悪さのほかに“けん怠感”もあり、体が動きません。目が覚めてから、1時間近くたっても…
母親
「動けない?着替えは終わったの?気持ち悪い?」
知佳穂さん
「だるい」
母親
「だるいか。学校があって急いで行かないといけない時は大変だね」
「まあしょうがないね。でも起きられただけいいよね」
毎朝、知佳穂さんは、数分おきにアラームを設定し、工夫をしていますが起きられません。
――午後1時前、朝昼兼用の食事。学校があった場合、すでに午後の授業がはじまっています。
4年前、ピアノの発表会で演奏する(発症前の)知佳穂さん。水泳やバレエを習うなど活発だったといいます。ところが、ある日、突然…
知佳穂さん
「(発症したのは)小学校6年生のときです」
「だんだん遅刻が増えていって、冬くらいにはほとんど学校に行けない」
発症後、今までできていたことができなくなった知佳穂さん。動けず、一日中、家から出られない日々が続きました。
起立性調節障害を抱える 中山 知佳穂さん(14)
「行きたいのに行けない。だんだん学校とも距離ができてしまって」
「学校に行けないことに対する“罪悪感”とか、家族への“申し訳なさ”がありました」
母親の知映さんは、当初、なぜ、娘が朝起きられないのか分からなかったといいます。
母親・知映さん
「とにかく行かせようと。結構、無理やり連れていこうと思って車に乗せて『いってらっしゃい』という感じで」
「もともと活発な子だったので“頑張れるんじゃないかな”と思ってしまって」
その後、病院で検査をうけ、「起立性調節障害」だと判明しました。
――朝5時。母親の知映さんの一日は、娘のお弁当作りからはじまります。
母親・知映さん
「鉄分と思ってほうれん草、あとチーズをいれてタンパク質を多めに」
遅刻しながらも、学校に行ける日もあれば、行けずに家でお弁当を食べる日も…。それでも毎朝、何時に起きられるか分からない娘のために、作ります。 知映さんは、仕事を辞めて、娘を支え続けています。
この日、通院のため都内の病院(小児科外来)へ。
医師
「体調は最近どうですか?」
知佳穂さん
「やっぱり朝起きられない」
知佳穂さんを診察する、田中大介医師は、“起立性調節障害の特徴”を、こう話します。
昭和大学 田中大介 小児科専門医
「体の病気です。(自律神経は)自分の意思ではコントロールできないので、いくら頑張っても、なかなかうまくいかないというのは、起立性調節障害になります」
「大体9割以上の子は高校生の間のうちに良くなっていくといわれています」
田中医師は、見た目では分からないため、周囲から「頑張ればできる」と言われたり、「さぼり」や「怠け」と誤解されたりするといいます。このため、もっと周りの理解とサポートが必要だと話します。
知佳穂さんは、以前、こんな言葉を…
知佳穂さん
「『なんで今日は来られるのにいつもは来られないの?』と言われてしまって、“行きたいのに体調が悪くて行けない”のでつらい思いをした」
2023年、知佳穂さんは、当事者が集まれる場として、「起立性調節障害の子どもたちの会」を発足。 オンライン交流会を開いて、不安や悩みを打ち明けたり、SNSで自ら病気について発信したりしています。
知佳穂さん
「Q(来年)高校で、私と同じですが、(進路は)どういう予定ですか?」
女子中学生(中3)
「通信制の高校とか探しはじめていて」
「今の状態でつらいんだったら、多分(朝から登校する)高校に入っても無理だと思う」
「いままでは当事者の居場所づくりを行っていたんですが、これからはもっと正しい理解を広めていきたい」
“もっと当事者が生きやすい世の中に”――
知佳穂さんは、自分の経験を活かし、発信していきたいと話します。
(7月3日『every.特集』より)