50年の歴史に幕…「中銀カプセルタワービル」老朽化で解体へ 別れを惜しむ声が続々と
日本の現代建築の傑作の一つとして知られる「中銀カプセルタワービル」の解体工事が始まりました。今から50年前の1972年に、建築家の黒川紀章さんの手によって誕生しましたが、老朽化が進み、費用の面などから解体となりました。
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東京・銀座の繁華街からほど近い位置にそびえる「中銀カプセルタワービル」は、老朽化が進み、12日、解体工事が始まりました。
ビルの写真を撮りに来た人
「ものすごく貴重なものがなくなるのは、さみしいですね」
ビルを見に来た人
「さみしいですよね、本当にね。残したいけど、やっぱり無理かなって」
ビルの周辺には、別れを惜しむ人が集まり、最後の雄姿を撮影していました。
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中銀カプセルタワービルは、今から50年前の1972年に、建築家の黒川紀章さんの手によって誕生しました。当時のキャッチフレーズは、「21世紀の未来住宅」。なんといってもその特徴は、幾重にも積み重なる、箱のような「カプセル」です。
ビルには140個のカプセルが設置されていて、一つ一つが10平方メートルほどの住居になっています。
住居をカプセル式にした理由について、ビルの歴史に詳しい、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの前田達之代表は「メタボリズム思想にのっとった建築、ということでですね」と説明しました。
建物のコンセプトでもある「メタボリズム」とは、「新陳代謝」を意味します。生き物の細胞が新陳代謝を繰り返すように、古くなったカプセルを交換することで、半永久的に使える建物を目指したということです。
しかし――
中銀カプセルタワービル 保存・再生プロジェクト 前田達之代表
「なかなかカプセルの交換がうまくいかなくって、かといって区分所有なので、建て替えも思うように進まずに、この50年間きてしまったという流れがあります」
当初は、25年に一度カプセルを交換する構想だったといいますが、費用などがハードルとなり、これまで一度も交換は実現せず、老朽化が進んだことなどが原因で、解体への道を進んでしまったということです。
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そして迎えた解体初日の12日、特別な思いで迎えた女性がいます。取材に応じてくれたのは、DJとして活動する「声」さんです。
元カプセルの住人 DJ声さん
「上から1、2、3、4つめくらいの、こっち向きの部屋になります」
2019年から約3年間、カプセルビルに住み、DJの練習や配信を行っていたということです。
DJ声さん
「床と床と、壁と壁が接していないので、音漏れの心配がすごくいらなくて」
特徴的な丸窓と環境が、DJとして活動するには最高の環境になったといいます。また、魅力はほかにもありました。
DJ声さん
「この建物がすごく魅力的なせいか、集まってくる人たちもすごくおもしろい、変わった魅力的な人が多くて」
近年では、内装をリノベーションする入居者が増加し、和風やヨーロッパ風に仕上げるなど、住人の個性が光るカプセルが次々誕生したといいます。
たくさんの思い出とともに、解体工事を見守る声さん。今の思いを聞いてみると、「これから壊されてしまうなんてっていう、魅力がわかってもらえてないというか、価値がわかってもらえてないんじゃないか、という思いはすごく強かったので、そこは残念ですけど」と答えてくれました。
多くの人に惜しまれながら、50年の歴史に幕を下ろす「中銀カプセルタワービル」。しかし、今後はカプセルを取り外し、美術館などに寄贈する計画を進めているそうです。