【えん罪被害者】「強盗殺人犯」として29年の獄中生活 再審無罪となり無実を訴える人たちを支え続けた男性 過酷な体験と心からの叫び
再審で無罪が確定した袴田事件。再審開始が決まった福井女子中学生殺害事件。「殺人犯」とされた人たちの無実の訴えが10月、相次いで認められました。無実を訴える人や再審請求事件に対する支援に力を尽くした男性がいます。自らもえん罪を体験した男性の、心からの叫びとは。
2024年4月。東京都内のレストランに多くの人が集まり、ある男性の在りし日の姿をしのびました。
■山本裕夫弁護士
「巨星墜(お)つ、という言葉が浮かびました。」
■元裁判官 木谷明弁護士
「常に前向きに、いつかは再審、雪冤(せつえん)してみせるという、すごい気力で立ち向かってこられた。」
桜井昌司さん(享年76)。2023年8月、がんで亡くなりました。
「強盗殺人犯」として獄中生活29年。再審無罪を勝ち取ったあとは、えん罪被害をなくすために力を尽くしました。
■桜井昌司さん
「いくら、えん罪事件があっても反省しない警察。反省できない検察庁。無責任でいる裁判官。許せません。」
「自分の身に降りかかるまでは他人事です」
2023年1月。桜井さんは講演のため、福岡市を訪れていました。
■桜井さん
「えん罪は、自分の身に降りかかるまでは他人事です。私も20歳でこうなるまでは、 えん罪なんてあり得ないと思いました。」
事件が起きたのは1967年8月でした。茨城県利根町布川で62歳の男性が殺害され、現金が奪われました。およそ1か月半後、桜井さんは知人の杉山卓男さんとともに、窃盗など別の容疑で逮捕されます。
事件につながる客観的な証拠が無いなか、警察の取り調べで2人は犯行を「自白」します。
■刑事(録音テープの音声)
「自分でやったことを話してみてくれるかな。」
■桜井さん(録音テープの音声)
「はい。ことし(1967年)の8月28日の晩、杉山卓夫と2人で玉村象天さんのところへ金を借りに行って、断られたので殺して金を取った。」
■桜井さん(2023年)
「なあ、桜井。死刑もあるんだぞ。死刑になってから勘弁してくださいと言っても遅いんだぞ。まだ20歳だ。やり直してみろ。本当に怖かったですね。死ぬ日が怖かったんです。あー、死ぬのはいやだ、つらい。それで結局負けて、自白しちゃったんですけどね。」
無期懲役が確定→証拠開示請求で新たな証拠が
自白は誘導によるものだと、裁判では一貫して無罪を主張しました。しかし、裁判所は自白の調書や目撃者の証言が信用できると判断し、無期懲役が確定します。獄中での生活は29年に及びました。
桜井さんと杉山さんは2度にわたり、再審=裁判のやり直しを申し立てます。そして、弁護団が請求した証拠開示により、検察が隠していた証拠が次々に明らかになっていったのです。
そのひとつが録音テープです。検察は1つしかないと証言していましたが、別のテープがあったのです。そのテープを専門家が分析すると。
■鑑定を行った音声分析専門家・中田宏さん
「10か所以上の、編集されたであろう跡が検出されました。」
自供の音声は、警察が都合良く編集していた可能性が高いのです。隠されていた証拠は154点にのぼりました。
「隠している証拠を出して」
検察にとって不都合な事実が次々と明らかになり、2011年、再審無罪が確定しました。
さらに、国に損害賠償を求めた裁判では、警察・検察両方の捜査が違法と認定されました。
■桜井さん
「私たち、えん罪犠牲者が願うのは大したことじゃないんですよね。せめてウソを言うなよ、隠している証拠出してよ、これだけなんです。」
2019年にがんが見つかった桜井さん。それでも病魔と闘いながら全国各地を飛び回り、無実を訴える人たちへの支援を惜しみませんでした。
2023年8月に亡くなった桜井さんの功績をしのぶパーティーが開かれました。そこには「殺人犯」とされて服役し、再審請求の結果を待つ前川彰司さんも参加していました。
■前川彰司さん
「彼が残した足跡というものを、我々は後からついていかなければならない。これは我々の義務だと思います。」
最後にあいさつに立ったのは、桜井さんを支えてきた妻の恵子さんです。
■桜井恵子さん
「地方議会から再審法改正を求める意見書採択が徐々に増えていくことを病床で聞きながら、間違いなく自分の願ってきた方向に流れが動き始めている、そのことを実感しながら夫は旅立っていきました。夫は空の上から、ずっと見守っているんだろうなと思います。」
2024年9月、袴田巌さんに再審無罪の判決が言い渡された日、裁判所のそばには再審開始を待つ前川さんと桜井恵子さんの姿がありました。
10月に前川さんの再審開始が決定
そして10月、前川さんも、裁判のやり直しが決まりました。
前川さんは1986年、福井市で女子中学生を殺害したとして逮捕されましたが、裁判所は有罪の根拠とされた目撃証言について「捜査機関の誘導の疑いが払拭(ふっしょく)できない」と指摘しました。
■前川彰司さん
「(再審無罪)確定まで、とどめを刺して終わりたい。」
飯塚事件の再審請求をめぐり裁判所が検察に勧告
また、飯塚事件の第2次再審請求では、いったんは検察が「見当たらない」と回答した証拠について、裁判所が検察に対し、改めて調べるよう勧告しました。
■飯塚事件 再審弁護団・德田弁護士
「一応、決着済みのことを裁判所がもう一度調べ直せと言っているんですよ。分かりますかね。(検察を)信用できないと言っているんですよ。」
桜井さんは、強く訴えていました。
■桜井さん
「私の知りました、体験しました日本の司法は絶望的です。日本の司法をただすべく頑張っていこうと思います。」
過酷な体験に基づく心からの叫び。その願いが司法に届く日は必ず、来るはずです。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年11月1日午後5時すぎ放送